大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

薄い

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私:実はね、夕飯後にキリキリと胃が痛む事があるんだ。
君:ほほほ、食べ過ぎ飲み過ぎね。
私:いや、違う。方言ネタを考えはじめて一時間経っても何も思い浮かばない時。
君:たまに書かない日があってもいいんじゃないの。毎日、書き続けているなんておかしいわよ。
私:まあ、そう言いなさんなって。人生は粘り勝ち。簡単に諦めない事だ。先ほどは「飛騨弁」をキーワードにユーチューブを検索していて遂にネタを発見。

君:岐阜市公式チャンネルね。岐阜市、つまりは美濃の方言と飛騨の暴言の何か違いでもお気づきになったのかしら。
私:いや、「うすい」形クのアクセントだ。動画の中の先生が平板でお話しになるのが気になってしまったんだ。
君:どう、気になったの。
私:アクセントを間違えていらっしゃるのじゃないか、「うすい」のアクセントは中高でしょう、と瞬時に感じた。飛騨方言がネイティブの僕には中高アクセントが頭に染みついている。でも、若しかしたら、まさか正しくは平板なのか、と直感した。つまりは67歳にもなると、もはや修正不可能か、と途端に不安を感じたんだよ。
君:ほほほ、それで大慌てで三省堂とNHKのアクセント辞典を調べたのね。
私:その通り。そうしたら、豈図らんや、共通語・標準語では平板だった。
君:今までテレビ等をぼうっと観ていたという事ね。
私:そもそもが飛騨方言は東京式・外輪アクセント系、だからアクセントに関しては何も意識せずに標準語を話す事ができると早合点していたという事だね。飛騨方言のアクセント体系は大雑把に言って東京式とは言え、純粋なる東京語アクセントではないわけだ。中部地方ではピアノのアクセントは頭高だが、標準語では平板。有名な話だね。
君:それじゃ、おしまい。
私:いや明治書院・現代日本語方言大辞典全八巻について少し書かせてくれ。
君:お好きなようにどうぞ。
私:では早速。先月に手に入れた古書だが、方言辞典全八巻でざっと五千頁にもなる百科事典のような書物だが、どうしてこんなに巨大な頁数になったと思う?
君:そりゃあ、とてつもなく語彙が多いのでしょ。
私:違う。語彙数に関しては小学館日本方言大辞典全三巻(約三千頁)とそんなにかわらない。明治書院、小学館、共に語彙は十万ちょいだ。明治書院には各語彙について全国各地のアクセントが記載されている。明治書院は言わば全国方言アクセント辞典を兼ねた方言語彙辞典なんだよ。
君:へえ、なるほどね。それで早速に「うすい」のアクセントの全国分布を調べたのね。
私:簡単に一言、「うすい」は全国的に平板だが、ただし関西だけは頭高、そして例外的に飛騨はじめ岐阜・名古屋辺りが中高だった。初めて知った。そしてここにギア方言(岐阜・愛知の共通方言)の落とし穴がある。
君:落とし穴といってもねえ。
私:ヒントは家内と僕、つまり夫婦。
君:ははあ、わかったわ。生まれも育ちも貴方は飛騨で貴方の奥様は名古屋、だからギア方言同士のご夫婦だと、お互いが方言を話しているという意識がそもそも存在しないのよね。
私:そう、まさにその通り。「気づかない方言」という概念で説明される。中部方言では尊敬表現「みえる」が有名だね。「うすい」に関しては実は気づかないアクセントというわけだ。僕は斐太高校を出て名古屋圏に50年近く住む。僕の一つ年下の家内に至っては生まれてこの方、名古屋圏を離れた事が一切、無い。つまりは家内と僕はガチのギア方言夫婦なんだ。
君:それじゃ、おしまいね。
私:もう一言だけ言わせてくれ。動画の先生は中部地方のご出身ではない、という事かも知れないね。ごく普通に「うすい」を平板でお話しなのだから。更なる想像は、岐阜で小学校の先生なら岐大教育学部のご出身だろう。そして岐大には方言学の権威・山田敏弘先生がいらっしゃる。山田先生の監修もあったのだろうね。岐阜市公式サイトであるだけに。
君:ほほほ、岐阜市のご出身の山田先生であってもそこはプロ、つまりは「うすい」を平板で話すように動画の女先生にご指導なさったという事にならないかしら。つまりは女先生も岐阜のご出身の可能性があるわよ。
私:なるほどそうかも知れないね。さて江戸時代はね、話言葉が手形並みに考えられていたんだ。語彙、アクセントでピタリと出身が判明するという訳だ。
君:よかったわね。今日も話題が発掘できて。薄き/なる/アクセント/飛騨国にて/中高なるを/なほし/とて/67年ひがおぼえ/にて/いきられたる/こと/こそ/はらいたけれ。

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