大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 地名考

高原郷(たかはらごう)

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私:市町村合併等により古い地名が失われていく事に何とも言えぬやるせなさを感じる。
君:ほほほ、しかたない事だわよ。
私:飛騨という地名だけは未来永劫だと思うが平成の大合併までは一市(高山)と三郡(吉城、大野、益田)だった。
君:吉城郡が飛騨市に、益田郡が下呂市になっちゃったのよね。
私:百歩譲って下呂市は良しとしよう。
君:ほほほ、問題が吉城郡ね。高原郷という話題だけに。
私:その通り。旧吉城郡は飛騨の北半分。そこにかつて高原郷があった。
君:どうして高原郷の事を書こうと思ったの。
私:私なりに地名こそが方言であると常日頃、考えている。地名とは我々のご先祖様がたが自らお付けになったものだ。必ず意味がある。
君:ほほほ、高原郷についても地名の由来があるとおっしゃりたいのね。
私:ああ、その通り。でも平成における高原郷の悲劇についてまずは話そう。
君:ほほほ、何か事件でもあったのかしら。
私:ああ、勿論。大事件だよ。
君:具体的に判り易く説明してね。
私:ああ、勿論。平成の大合併で平湯・上高は高山市になり、神岡は飛騨市になった。つまり、高原郷が真っ二つ。嗚呼。高原郷の話の前にざい在についても復讐しよう。
君:なるほど、高原郷は古くは奈良時代から存在した地名だったのね。それがつい最近に行政の線引きで分断。宜しくないわね。
私:勿論。高原郷が文献に現れるのは仁安元年(1166)飛騨国雑物進未注進状(宮内庁書陵部蔵)。
君:まあ、由緒ある地名じゃないの。
私:当時、飛騨と言えば日本の東の果て。飛騨山脈の東は外国のような時代だったのだ。
君:ついでだから旧吉城郡の他の郷の名前は。
私:荒木郷、富安郷、古川郷、小鷹利(こたかり)郷、小島郷。以上。
君:今回は高原郷の話題ね。しかも地名の由来。文献は?
私:調べたが見つからない。平凡社日本歴史地名大系21岐阜県、角川日本地名大辞典21岐阜県、等々が手元にある。
君:つまりは、あなたがピーンときた地名の由来をお話しくださるのね。
私:ははは、その通り。
君:なによ、その自信たっぷりな言い方。
私:僕の自信は現地に足を運ぶ事にある。
君:つまりは高原川流域をくまなくオートバイで走ったのね。
私:その通り。高原郷は飛騨の北端、富山県境だが、高原川流域全体を示す。平湯・上宝・神岡だ。最近は専ら奥飛騨温泉郷の名前で知られている。
君:オートバイ野郎は温泉が大好きなのね。
私:ああ、勿論。岐阜県広しと言えども源泉かけ流しは下呂とここのたった二か所だね。
君:ほほほ、ところで、ピーンときた高原郷の地名の由来とはなあに。
私:ズバリ、飛騨市山之村のメサ台地の事を示すのだと僕は確信している。
君:メサ台地ってアメリカアリゾナとか、南ア共和国・ケープタウンの山とか。
私:その通り。高原川の水源は北アルプス、万年雪だ。濁流と言ってもいい。堅い船津花崗岩の山を削りに削って、平湯・上宝・神岡が出来た。
君:ほほほ、平湯・上宝・神岡を見下ろすように広大な高原・牧場があり、あたかも地上の楽園のような山之村の高原(こうげん)。
私:その通り。山之村の高原(こうげん)の周辺をぐるりと囲むように流れる川が高原川(たかはら)、高原川流域を高原郷(たかはらごう)というのだから、当然の発想だ。
君:単純なお考えね。小萱や上宝の高台のほうが広いわよ。
私:いや、それでは地名ロマンスにならないんだ。誰もが行かない山之村の高原だが、高原に行けば気づく事だ。なんて素敵な場所なんだろうと。山之村はこれまた雪解け水の打保谷川があり、枯れる事は無い。稲作にも適した高原だ。谷沿いの平湯・上宝・神岡の農民達はどんなにか山之村を羨んだ事だろう。
君:山之村はキャンプ場が素敵なのよね。まさに日本のチロル地方よね。
私:ああ、牧場がね。飛騨は本当に広い。飛騨にこんな素敵な広大な地がある事を御存じない人も多いのではないだろうか。参考までに、奥飛騨・神岡の地形 2020/5/28 神岡ツーリング
君:奥様と二人でツーリングなさるのね。
私:昔はね。今は専ら一人旅だ。テントをはじめキャンプ用具を積載して。
君:宿代が浮いていいわね。
私:なによりも、山道をトボトボと走ると古代の飛騨人の気持ちが判る感じがするんだよ。
君:それに道行く人や、村の人々に話しかけたりなさるのよね。
私:勿論だ。飛騨方言丸出しで。久々野町大西村の出身である事はいつもカミング・アウトしている。
君:方言のフィールドワークね。
私:正に。ところで君にささやかながら歌の贈り物だ。郷の栄を増した吾子。
乗鞍の峰 神(かん)さびて
天つ御空に そそり立つ
もゆる希望の 眉をあげ
真理の園に 分け入りて
久遠の花と 咲き匂う
明日の文化を うち樹てん

高原川の 水澄みて
清き瀬となり 流れつぐ
たぎる思いを 胸にひめ
知性の鏡 磨ぎいでて
自然の恵み 尽くるなき
郷の栄を いや増さん

君:・・・いやだ、女を泣かさないで。

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