飛騨方言・やくとですが、飛騨及び、東濃、郡上など飛騨に隣接する一部の地域の人以外には
まず通じないのではないかと思います。漢字で書くと "役と" となりますが、
古語辞典、宇治拾遺物語にもに記載されている由緒ある言葉です。
昔はちゃんと京都の都で使われていたという次第です。
意味はわざと、ないし、意識して という意味になります。なになにを役目として という意味の副詞で
飛騨の人は誰でも使いますし、名古屋方言として紹介してあるサイトもありますが、
おそらく名古屋でも通じない事のほうが多いのではないでしょうか。
ネット検索によりますと、南部詞(盛岡) maoda.hp.infoseek.co.jp/nanbukotoba.html
など、極限られた地域で使用されているようです。
中津川地方では、"やくと"そのものが副詞であるのにさらに助詞を加え、"やくとに"という使用があるいは
一般的のようです。がしかし、飛騨では決して"やくとに"とは言わないでしょう。
"やくと"こそ、飛騨俚言の代表であるように思います。
個人的な思い出話にはなりますが
高校一年生になり、古典を習い始め古語辞典を持つようになり、
また、ある日の現代国語の授業で民俗学者・柳田國男の蝸牛考・方言集圏論を学び、
"やくと"のルーツを知り、これは面白いと思ったものでした。
また大学生になり、全国の人間と友人になりました。やはり誰もこの言葉を知りませんでした。
ただ一人、県内・土岐市の友が、同意で"やあこと"と発音し、よく会話に用いると教えてくれました。
其の時、すかさずこれも面白いと思ったのは、京都、高山、土岐の三市の距離関係です。
土岐のほうが明らかに京都に近いのに、"やあこと"と変化してしまっていたのです。
また逆に、飛騨では現代に至るまで純粋に都の言葉を話し続けてきたという事に
飛騨人として一種、誇りを覚えたものでした。
ところで京都から飛騨に言葉が伝わるとすれば、やはり美濃経由で飛騨川をさかのぼって来たのでしょう。
ところが其の言葉は乗鞍を越えて信州に伝播する事も、また神通川を下り富山に伝わる事も無かったようです。
私にはこれにもまた、興味が尽きませんでした。あれこれ沢山の言葉が京都から流れてきたはずなのに、
何故、"やくと"だけが、飛騨に滞留したのでしょう。
もっと謎なのは、全国に広まったであろう"やくと"が何故、飛騨、郡上、中津川と盛岡にしか
残っていないのかという事です。本家の京都ですら"やくと"が消滅してまっている事が、私にはまたまた
興味が尽きないのです。
なお飛騨方言"やくと"は第一音がアクセントです。上記の友人は土岐弁"やあこと"を第三音が
アクセントで発音してくれました。あるいは京の都では、実は"やくと"は第二音がアクセント
で話されていたのでしょうか。されば飛騨人がバーバリアン、いや京の都の"やくと"も第一音がアクセント
ならば、土岐人がバーバリアンという事になりますが、残念ながら宇治拾遺は教えてくれませんでした。
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