大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム方言学<

サ行イ音便が廃れつつある理由

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佐七:サ行動詞のイ音便は方言学にしばしばテーマとして出てきます。出した、を、だいた、というのですが、岐阜・愛知・南信州・遠州などで用いられましょう。別稿・お年玉をおといで、なくいでまった藤木君などもご参考までに。年代の違った地図資料を比較する事により、飛騨全体における衰退は明らかです。さてなぜ、飛騨方言からサ行イ音便が無くなりつつあるのか、その理由について考えてみましょう。本日のゲストは典江さんです。お生まれもお育ちも高山で、私と同世代、英語がご趣味とか聞いたものですから。今日は少しそんな事を交えて。さて、サ行イ音便が廃れつつある理由は、いくらでもありますね。年よりじみた古めかしい言い方であるから、などという理由が真っ先に思い浮かびます。他にはどうですか。
典江:さあ、方言がうまれる理由は言いやすい方向に音韻がかってに変化してしまう、という意味でサ行イ音便が発生した理由がわかります。でも、あらおかしいわ、私はサ行イ音便は実はあまり使わなくて、別に言いにくいとも思いませんしね。
佐七:ははは、僕も実はほとんどサ行イ音便は使いません。ですから、サ行イ音便が発生したのも、言いやすいという事が理由では無いかも知れませんね。今日は廃れつつある理由について考えます。
典江:ほほほ、では答えをお願いします。
佐七:えっ、そのお言葉は。いやあ恐縮です。日ごろ時々は当サイトをご覧くださって。では、私なりのいきなりの答えは、母音の無声化です。これは言い換えれば、子音のみの音韻で、もともとは日本語にはない音韻です。例えば、尋ねる・ask 、を日本人はついつい、asuku と発音して、す・く、の音に母音が入りますが、正しい英語の発音としては不合格ですね。じゃあ例文といきましょう。例えば、なくして、が、なくいで、になる場合ですが
なくいで  na ku i de
なくして  na k sh te
のような発音に現代語はなってしまっているのです。母音の脱落が一切ない発音つまりna ku shi te と発音する人はいないでしょうね。
典江:うーん、気づかなかったわ。アナウンサーのような話す事を職業となさる方も既に母音の無声化でついついお話しなさるのですね。
佐七:その通りです。na-ku-i-de とna-kshteこの二つの音韻ですが、前者は明らかに日本の古代の音韻、そして後者は子音の連続によった明らかに英語に近い音韻です。現代日本人は巻き舌で結構、器用に発音できるようになったのです。その裏返しで、古代の音韻を冗長で話しにくいと感じ始めた結果、折角、発明したサ行イ音便を、結局は捨てる事になったのです。
典江:わかったわ!サ行イ音便がなくなって表記上は後戻りしたような日本語だけれど、発音は実はサ行イ音便より更に進化したという事ですね。
-----表記-----発音-------------
古代.なくして.na/ku/shi/te/四拍
中世.なくいで.na/ku/i/de/..四拍
現代.なくして.na/k/sh/te/..二拍
という意味ですよね。
佐七:まさにその通りです。終助詞を考えてごらんなさいな。です・ます、は本来は de-su/ma-su と発音していたのに現代人の大半が母音の脱落した音韻 des/mas で発音しているでしょうね。
典江:でもなかなか、例えば、violin とは発音しづらいですね。やはり日本人の間では、ba-i-o-ri-nn と発音したほうが。そうでないと英語を知っている事を鼻にかけている・・などと思われかねませんもの。
佐七:その通りですね。英語を鼻にかけてはいけない。でもメールを mail と発音したり、テレビを tea + vee と発音する人は今後、増加するかもしれませんね。
典江:その逆に、日本語が英語に影響を及ぼして、英語の発音が日本語の発音に近づいてくれると助かるいな。サービスで、ポロッと飛騨方言出いたんやさ。

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