大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム

さこ(=谷)

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私:サコは山の地形用語。全国の方言。飛騨でも使う。二拍平板の一般名詞。
君:サコの語源は、の命題ね。判明したのね。
私:そう。瞬殺技だった。久しぶりに帰省したが、我が家の所要する山林が話題になった時に出てきた飛騨方言。僕はどんな言葉も語源が気になって仕方ない。
君:いいから、結論を真っ先にお願いね。
私:望むところ。古語の「せこ勢子」。角川古語大辞典に記載がある。狩猟の時、鳥獣を狩り出し、縄や板などをもって射手の方へ追い込む者。多数の者が使役されてこれにあたる。カリコ狩子とも。文例は永久百首、曽我一、享徳二年本歌連歌。
君:時代を皆様にお教えしてね。
私:永久百首は平安後期の歌集、曽我物語は鎌倉時代に富士野で起きた曾我兄弟の仇討ちを題材にした軍記物、享徳二年は1453年。
君:つまりは勢子は中世語ね。
私:飛騨工が京の都から持ってきた語彙で無い事はたしか。サコは古語・勢子そのもの。その音韻変化。従って全国共通方言。近代以降は日本が都会文明になり、サコは山文化の地方の方言になったという事なんだろうね。
君:セコは人を示す名詞よ。サコは山岳の地形用語。こじつけじゃないのかしら。
私:もっともなご意見です。勢子がサコ、これはシニフィアン(音韻変化)として有り得る。シニフィエ(意味変化)としては、山の稜線から徐々に谷底へと獣を追う人達だったのが、徐々に谷そのものを示すようになったと考えるのが自然でしょう。ソシュール言語学です。時枝誠記、万歳。
君:ますますこじ付けの説明よ。
私:ははは、小学館日本方言大辞典で音韻変化を調べた。サコ、サク、スク、セコ、セコミチ、ハコ。どんなもんだい。
君:なるほど、これらの音韻の中で唯一、角川古語大辞典にあった記載はセコ勢子のみだったのね。
私:その通り。ついでにアクセント辞典も調べまくった。芸子とか舞子とか、子で終わる人を示す名詞はアクセント核は必ず「コ」。飛騨方言サコと古語セコは平板で同一アクセントと考えるのが自然。但しアコ吾子、マイゴ迷子などの例外は当然ある。
君:ねえ、いいかしら。今、ふと思ったのだけど。
私:どうぞどうぞ。
君:セコ勢子は元々は「セイコ」じゃないかしら。
私:ははは、なんだ。そんな事か。実は僕もそう考えていた。要するに漢語+和語の癒合名詞だよね。
君:そうね。セイは漢語。これに相当する和語は「いきほひ」。
私:その通り。手元の資料だが、サコに迫の表記の例が散見されるが、こんなのは後世の当て字だよね。僕は騙されないぞ。要は前方成分は漢語の形容詞であって、重要なのは和語「こ子」。だからこそアクセント核になる。ただし覚えていてほしいのは、前部が頭高では全体が頭高になる。例えば井戸、木戸、野火、湯葉。以上からサコが平板アクセントになってしまう理由が丸わかりだ。ははは
君:ご苦労様。ちょっとした方言でも、語源やアクセントを考える事は大切よね。
私:我が辞書に「ちょっとした方言」という言葉は無い。皆、大切。
君:ナポレオンならぬ左七辞書ね。ほほほ

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