大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

係助詞の発見

戻る

私:昨日から山田文法を独学しはじめたが、いやあ面白いな。日本で最初の国語辞書「言海」の著者・大槻文彦がその前半部分に記載している章・語法指南がなんといっても近代国語の文法の幕開け、つまりは英語に代表される印欧語の概念を咀嚼し、新しく日本語の文法学術語を草案した、いわゆる大槻文法だが、それを踏まえ出てきたのが山田孝雄(よしお)という天才による山田文法、これが現代国語の文法の本格的な幕開けというか、確立という事のようだ。その後にも、橋本進吉、時枝誠記という天才が現れ、橋本文法と時枝文法が現れた。後期中等教育どまりの国語知識、つまりは受験の国語しか知らなかった僕にとっては、何から何まで新鮮に感ずる。
君:大学に入学すると、次から次へと教わり、なにがしか夢中になるものなのよ。
私:ああ。特に医学は高校では一切、学ばないからね。保健体育という教養科目はあるが。解剖・生理・生化・病理に始まり各科臨床医学、どれも面白いものばかりだ。
君:そちらを疎かにしないでよ。
私:ああ。今日は山田の係助詞の発見だけに的を絞ろう。
君:「は」と「が」の使い分けね。
私:うん。外国人には分かりづらい使い分けだが、日本人は直感的に使っていて、意味を間違える事がない。この点を、不思議だな、と今までずうっと思っていた僕だった。数学で全体集合は部分集合を内包するという集合論で理解していたが、実は認識が甘かった。
君:繋辞の概念ね。
私:その通り。英語でコピュラだが、これは素直にわかりやすい。繋辞はコピュラだ。
君:皆様に判りやすく説明なさったほうがいいわよ。
私:コピュラ文とは万国共通の文章スタイルで a=b の形式。主語・述語。赤ん坊が真っ先に話し始めるのがコピュラ、原始の日本語だ。ご飯が欲しいの意味で「まんまほしい」。明らかに既に文章。
君:主語・マンマは観念語・自用語・概念語で、述語・ホシイは観念語・自用語・陳述語よね。
私:そう、学校文法とは大違い。学校文法だけが文法ではないわけだ。中学校時代の恩師・中川先生のお顔が思い浮かぶ。僕にだけこっそり教えてくださっていたらよかったのに。
君:「まんまほしい」がコピュラの要件を満たす根拠は。
私:「まんまがほしい物です」の略。 a=b になっている。それと日本語の特徴、格助詞「が」がつくものが主語になるという事。
君:そうよ。だから「は」が付くものは主語にならないのよ。
私:そうなんだよ。「は」は係助詞だ。格助詞ではなく、主語を示すものではない。「僕は左七です」は一見してコピュラに見えるが実はそうではない。正しくは「僕は名前が左七です」、つまりは「名前が左七です」がコピュラだ。「僕は」の部分だが、概念語「僕」と係助詞「は」の組み合わせであり、「僕は左七です」を英訳すると As for me myself, my name is Sashichi という事を言っているのであり I am Saschichi と言っているのではないことがわかる。「名前は?」「左七です。」この場合、「名前は何が正しい?」「質問に関してはペンネームが左七です。実名は親がつけた名前が・・。」ってなとこだよね。
君:「僕が左七です」はどうなるのかしら。
私:「大西左七は誰かという命題に関しては、(よくぞ聞いてくださった実は)僕が左七です」。Regarding your question who Sashichi is, I am, in fact, him himself. ってなところだよね。主語が一般名詞か代名詞の違い。
君:山田文法も英語に訳すとわかりやすいというわけね。
私:まあ、そんなところ。「は」と「が」の使い分けにはこんなカラクリがあった。「は」は係助詞、他にも「も」「ぞ」「や」「こそ」が係助詞、山田はこの事に気づき、係助詞なる言葉を発案した。
君:でも飛騨方言では音韻変化があるわね。
私:「僕は」は「おりゃ」になっちゃうんだよ。「おり・は」の拗音化。拗音である時点で2モーラ概念語「おり」とは異質の単語、つまりは格助詞ないし係助詞を内包した「統覚作用」の結果となっている。
君:「統覚作用」も山田文法の大切な概念ね。材料概念を結びつける作用。
私:赤ん坊が話す飛騨方言が「おり(俺)、さしち」つまりコプュラ、そして統覚作用により「おりゃさしちや」、この時点で主語が省略可能という日本語独特の言い回しを身に着けてしまう。「おりゃ名前が左七や」が主語を省略しない日本語だ。ぶっ
君:更なる音韻変化だって出来るでしょ。
私:ああ。「おりゃなまえぁ左七や」。飛騨方言として立派に通じるね。
君:でも流石に「僕が左七です」は「おりゃ左七や」にはならないわね。
私:ああ、ならないね。その場合は「おり・が・さしちや」と言って、格助詞「が」を明示し、「おり」が主語である事を示す。神奈川県の方言「おらあ三太だ」、この場合はどうなんだろう。僕には飛騨方言の事しかわからない。
君:要は、飛騨方言も山田文法に従っているというのが結論ね。
私:その通り。飛騨方言は山田文法に従っているし、大槻文法にも、橋本文法にも、時枝文法にも従っている。
君:あなたの得意な数学と結びつけられそうね。ほほほ
私:よくぞ言ってくれた。数学は答えは一つだが解法は複数ある。ピタゴラスの定理の証明は、何と数百通りあるが、証明というものは簡単であるほど美しい事は言うまでもない。最も有名なのが物理学者アインシュタインの証明。彼もこれに興味を示し、数秒考えて、垂線を一本引いて相似を用いた証明をした。数百ある解法で最もスマートな解法として知られ、やはり彼は天才だった。
君:本居宣長の「てにをは紐鏡・詞玉緒」なんか、とてもシンプルでいいわよ。彼こそ先駆者の天才ね。ほほほ

ページ先頭に戻る