僕の家の事を、ぼくんち、といいますので、飛騨方言において格助詞・の、が撥音便化するといっても、
めずらしい言い回しとはいえませんが、めずらしい俚諺が無いわけではありません。
そのひとつ、おらんまり、は、おれのまわり、が訛った言葉で、私の周囲、という意味です。
また、飛騨方言ではラ行体言に続く係助詞・は、は、"ゃ"ですので、といえば、私の周囲は早寝早起きです、という意味です。
もうひとつ、おらんどこ、という飛騨方言ですが、おれのところ、つまりは私の家、という意味です。
また、飛騨方言ではカ行体言に続く係助詞・は、は、"ぁ"です。以下、例文です。
飛騨方言例 共通語訳
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おらんどこぁ大西村や。 私の家は大西村です。
佐七んどこぁ大西村や。 佐七の家は大西村です。
佐七んちゃあ大西村や。 佐七のうちは大西村です。
洋子んどこも大西村や。 洋子の家も大西村です。
わりぃんどこも大西村やろ。 あなたの家も大西村ですね。
ありぃんどこぁ大西村や。 彼の家は大西村です。
あいつんどこぁ大西村や。 あいつの家は大西村です。
あいつんちゃあ大西村や。 あいつのうちは大西村です。
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蛇足ですが、飛騨方言では、おら、とは言いません。必ず、おりぃ、です。実は、おりぃのまわり、が訛って、おらんまり、になっているのです。
また、おりぃのところ、が訛って、おらんどこ、になります。
ところが、おりぃんまり、とは決して言いません。
またまところが、おりぃんどこ、という言い回しはあります。
以下に一覧表としてお示しします。
まわり ところ
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私 おらんまり おらんどこ
私たち おりぃだちのまり おりぃだちんどこ
あなた わりぃのまり わりぃんどこ
あなたたち わりぃだちのまり わりだちぃんどこ
彼ないし彼女 ありぃのまり ありぃんどこ
彼らないし彼女ら ありぃだちのまり ありだちぃんどこ
佐七 佐七のまり 佐七んどこ
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次いで、あなた、という意味では、飛騨方言では、わりぃ、と言います。
ところが、あなたのまわり、という意味で、わりぃんまり、ないし、わらんまり、とは決して言いません。わりぃのまり、というのです。
また、あなたのところ、という意味で、とは言いますが、わらんどこ、とは決して言いません。
また指定の助動詞・だ、に相当する、飛騨方言助動詞・や、ですが、接続のひとつが連体体言+格助詞・の、です(例、いく+の+やろ)。
これがおそらく例外なく撥音便化するのが飛騨方言の特徴です。
例えば、という言葉がありますが、意味は、悔しくてしかたないのです、というものです。
飛騨方言形容詞・はんちくたい、ですが、なまはんじゃくである、から転じたものです。
はんちくたいのでしょうか?、という意味で、はんちくたいのやろか?、と言っていけなくもありませんが、やはり、
はんちくたいんやろか?、というのが飛騨方言としては自然です。