ある方から、や、の言い切りが多いのが飛騨方言の特徴ですか、と質問をいただきました。
筆者も確かにそのように感じます。飛騨方言において"や"の音がどのように使われるのか、
助詞に限って、その機能分類ごとに以下にお示しします。
● 格助詞(体言および副詞が他の語に対する資格を限定)・や
格助詞とは"他の誰でもない、私が書いたのです。"という例文の"が"の語ですが、
これが、飛騨方言では、"や"ないし"ゃ"に変わる事があります。
末語がイ行である、代名詞、体言等です。
ところで、飛騨方言では人称代名詞、
指示代名詞が実はすべて、
末語が”り”ないし”りぃ”であり、まさにこの文法が該当するのです。例文ですが、
だりゃ書いた(誰が書いた)? おりゃ書いた(私が書いた)。
いや、直樹ゃ書いた(直樹が書いた)。
● 副助詞(句に副詞格を与え、続く用言を修飾)・や
なくや(あ)わらうや(あ)、大騒ぎやった(泣くやら笑うやら、大騒ぎだった)。
なんや知らんが(なにやら知らないが)。
● 係助詞(体言等に接続し、続く用言の陳述を限定)・や
主語に用いる、"は"が、やはり飛騨方言では、"や"ないし"ゃ"です。
格助詞・や、と同じように用いられます。つまり、飛騨方言は、"私は"も"私が"もあまり区別されません。
がしかし、アクセントは明らかに異なります。
おりゃ佐七です(私は佐七です)。 −>実は"り"にアクセント
おりゃ佐七です(私が佐七です)。 −>実は"ゃ"にアクセント
● 終助詞(句の終止であること陳述)・や
いつもの佐七や(いつもの佐七です)。 飛騨方言そうんや(飛騨方言を言うのだ)。
× 間投助詞 該当なし
● 接続助詞(動詞未然形に接続し、仮定形の意味を表現)・や
いきゃええ(いけばよい)。 せやええ(すればよい)。 こやええ(来ればよい)。
● 並立助詞(体言または副詞を並立して陳述、共通語に同じ)・や、やら
山や川 山やら川やら
● 飛騨俚諺接続助詞・やで(句間において両句の認定の仕方を表現)
やで −> おりゃ金槌やで泳げん。 (私は金槌だから泳げない。)
ご参考までに
● 助動詞・や終止形+共通語接続助詞(句間において両句の認定の仕方を表現)
やから−> 最初やから、はいれた。 (最初だから入場できた。)
やが −> 最初やが、はいれなんだ。 (最初だが入場できなかった。)
やけど−> 最初やけど、はいれなんだ。(最初だけれど入場できなかった。)
やし −> 最初やし、はいれもした。 (最初だし入場もできた。)
● 助動詞・や終止形+飛騨方言接続助詞(句間において両句の認定の仕方を表現)
やに −> 最初やに、はいれなんだ。 (最初なのに入場できなかった。)
以上、飛騨方言助詞のかなりの種類は、やはり、"や"です、じゃなかった、
さすが山国、"や"や!!