大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 文法

飛騨方言における終助詞・ぞ、と共通語終助詞・ぜ、の接続に関する比較検討

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ガッツだぜ、いいぜ、といえば、終助詞・ぜ、が決め手となり男性の言葉です。 飛騨方言では、ガッツやぞ、ええぞ、といい、勿論、男性の言葉ですので、 飛騨方言における終助詞・ぞ、と共通語終助詞・ぜ、がおそらく同根である事はどなたも直感できましょう。

勿論、正解です。広辞苑によりますと終助詞・ぜ、は、古語終助詞・ぞえ、が進化した言いであるとの説明がありました。 つまり、共通語・ぜ、は古語終助詞・ぞえ、の連母音融合、そして飛騨方言・ぞ、は、え、の脱落による、ぞえ、の短呼化、と言う事 なのでしょう。

この二つの終助詞、ぜ、と、ぞ、の接続形式を比較検討しますと、やはり興味ある差がありました。 わかり易い文例を表に書き、共通語と飛騨方言で検討しました。
接続形式         共通語    飛騨方言    差異
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四段動詞終止形      行くぜ    行くぞ     無し
上一動詞終止形      切るぜ    切るぞ     無し
下一動詞終止形      泣かせるぜ  泣かせるぞ   無し
カ変動詞終止形      来るぜ    来るぞ     無し
サ変動詞終止形      するぜ    せるぞ     無し
形容詞終止形       痛いぜ    痛いぞ     無し

使役の助動詞・せる    来させるぜ  来させるぞ   無し
推量の助動詞・そうだ   行くそうだぜ 行くそうやぞ  無し(*3)
完了・過去の助動詞・た やられたぜ  やられたぞ   無し
希求の助動詞・たい    いきたいぜ  いきてえぞ   無し(*1)
指定の助動詞・だ     ガッツだぜ  ガッツやぞ   無し(*3)
否定の助動詞・ぬ     いかんぜ   いかんぞ    無し
否定の助動詞・ない    いかないぜ  いかねえぞ   無し(*1)
比況の助動詞・ようだ   そのようだぜ そのようやぞ  無し(*3)
推量の助動詞・らしい   そうらしいぜ そうらしいぞ  無し
可能の助動詞・れる    切れるぜ   切れるぞ    無し

推量の助動詞・う     行こうぜ   行かまいがよ  有り
推量の助動詞・よう    しようぜ   せまいがよ   有り

推量の助動詞・まい    戦うまいぜ  戦わまいぞ   有り
推量の助動詞・まい    切るまいぜ  切らまいぞ   有り
推量の助動詞・まい    捨てまいぜ  捨てまいぞ   無し
推量の助動詞・まい    こまいぜ   こまいぞ    無し
推量の助動詞・まい    しまいぜ   せまいぞ    無し(*2)

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(*1)訛りがなくても飛騨方言になります。
(*2)共通語・する、の未然形は、し、飛騨方言・せる、の未然形は、せ。
(*3)共通語助動詞・だ、と飛騨方言助動詞・や、はおそらく完全に
同一の品詞です。そうだ、と、そうや、及び、ようだ、と、ようや、も
同一の品詞でしょう。
以上、動詞、形容詞への接続ば飛騨方言、共通語の差異はありません。 また大半の助動詞の接続も両言語の差異はありませんでした。

ところが飛騨方言では、行こうぞ、せようぞ、という如何にも時代劇の台詞の ような古風な言い方はしません。また一方、同じ推量の助動詞でも、そうだ、と、らしい、の二者は 共通語との差が見られませんでした。

一番複雑であると筆者なりに感じたのが助動詞・まい、です。 動詞の種類で共通語と飛騨方言に差が出来るのです。 つまり、助動詞・まい、は共通語では四段、上一は終止形に接続しましょう。 そして共通語ではそれ以外、つまり、下一、カ変、サ変は未然形に接続しましょう。 ところが飛騨方言では全ての動詞において助動詞・まい、は未然形に接続で、いまだに古語文法なのです。 従って、四段、上一、では共通語との差が出てしまいました。

また、丁寧の助動詞・ます、ですが、親分、あっしが先に行きますぜ、は共通語 と言うべきでしょうか。飛騨方言では、親分、おりゃ先に行きますぞ、とは、うーむ、 言わないでしょう。はまり文句としては、
親分、おりゃ先に行きますもんで頼むさぁ
と言えば 飛騨方言の雰囲気満点です。

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