大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 古代

アルタイ諸語と人類遺伝学

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私:手前味噌ながら、飛騨方言こそが日本の元祖の方言といってもよく、東大寺諷誦文稿という奈良時代の文献に記載があるのが動かぬ証拠。地元びいきという事で全国の読者の皆様におかれましては大目に見ていただきたい。
君:つまりは律令制で奈良の都の造営に駆り出された飛騨工の言葉は訛りがひどく、小鳥のさえずりのようであったと。
私:奈良の都の新政府のナウい言葉からすれば、という事だね。飛騨には縄文遺跡が大変に多く、実は太古は今より温暖で大変に住みやすい地方だった、という事もわかっている。
君:つまりは何を言いたい訳なの?
私:大和政権によって倭国という国が建国される前に、土着の日本人として各地に縄文人が住んでいた。おそらく消滅してしまった幻の言語が話されていたのだろう。そしてその飛騨の縄文言語と大和の倭語がやがて混合語となって上代の飛騨方言になった、というような可能性が示唆される。今日は、そんな取り留めのない話ではなく、人類のDNAの話。これは最新の科学、否、最新の医学と言ってもよい。そして今夜、話題にしたいのは人類の移動史。The History of Human Migration

君:簡単な図とは言え、更に簡単に説明をお願いね。
私:はいはい。上は人類がアフリカから世界各地に散らばったルートを示したもの。later dispersals (<60-30 ks)にのみ注目して欲しい。およそ三万年から六万年の間にエジプトを超えた人類がヨーロッパおよびアジア北方に移動し、日本には樺太経由と朝鮮半島経由でやってきた。氷期で海が凍っていた時代だ。飛騨の縄文人のご先祖様がたという意味。注目して欲しいのはこれらの人類はネアンデルタール人とデニソア人と遺伝交配があった事すら証明されている。また更には日本人は特にネアンデルタール人の遺伝子が多い事なども判明している。有名な論文がM Dannemann,et al, Introgression of Neandertal- and Denisovan-like Haplotypes Contributes to Adaptive Variation in Human Toll-like Receptors, Am J Hum Genet. 2016 Jan 7; 98(1): 22?33.Published online 2016 Jan 7
君:長い英文をたった一言で説明してね。
私:はいはい、そういう時は図が一番。日本人はずば抜けてネアンダルタール人の遺伝子 TLR Haplotypes が多い事で知られる。当然ながら、現在のアフリカ諸国の人々には無し。以上から、日本人の祖先は later dispersals である事が遺伝学的に証明される。私たちとネアンデルタール人が交配した事実、なぜわかったのか 塩基配列から謎を読み解くなども参考までに。

君:もっと簡単にひと言で要約をお願いね。
私:日本人のルーツはアジア大陸の北方民族だ。発掘化石の骨のDNAという動かぬ証拠によって遺伝学的に証明される、という事。
君:そして続いてはアルタイ語の分布のお話ね。
私:その通り。母音調和等において近似するアジア大陸の言語、日本語も含まれる。

君:なるほど、化石の骨のDNAによって遺伝学的に証明された人類の移動 later dispersals (<60-30 ks) とアルタイ諸語の分布は一致するわね。
私:細かい事を言えば切りがないが、大雑把に言うとピタリと一致する。
君:つまりは later dispersals によって各国に散らばり、その土地毎に固有のアルタイ諸語が形成されて現在に至るという訳ね。
私:その通り。今夜のお話の成果は故東京大学名誉教授・服部四郎先生に捧げたい。
君:どうして?
私:先生は日本語の起源という事に学生時代から大変な興味をいだいておられてアルタイ語を生涯に渡って虱潰しに調べまくったお方だ。日本語起源のアルタイ語説、服部節、はそのようなフィールドワークによるもので、服部節は、たかだか数百の語彙の二言語間の近似性を説くその他大勢の学者様がたの説とは格が違うんだ。
君:なるほどねえ。
私:それどころか、先生はアジア各国の言語調査がいよいよ病膏肓に入り、遂にはタタール人の女性と結婚なさったという、ユニークで型破りな東大教授なんだよ。
君:人間らしいというか、アルタイ語命のお茶目な学者様だったのね。貴方も私も流石にそこまでは無理ね。ほほほ

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