大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

ふすま襖とからかみ唐紙

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私:昨日は方言区画論におけるABAB型分布についてお話しした。
君:和語「シタ」に近世語「ベロ」が割りこんで来た話ね。
私:うん。今日は「ふすま・からかみ」のABAB型分布について。まずは地図をどうぞ。国立国語研究所・日本言語地図192ふすま(襖障子)
君:なるほど、九州全域・近畿・東北が「フスマ」で、中国四国・中部関東が「カラカミ」の傾向が見えるわね。つまりは「シタ・ベロ」と同じようなメカニズムかしら。「フスマ」があったところへ「カラカミ」が割り込んできたという事かしらね。
私:ぶっきらぼうな言い方をするとそうなるね。
君:という事は、「シタ・ベロ」と全く同じというわけにはいかない、という事なのね。
私:そういう事になる。まずは質問だが「した」と「べろ」は同じ意味か、そうでないか。
君:それは同じ意味に決まっているわよ。言い方の違いだけよ。
私:では、音韻以外の「ふすま」と「からかみ」の違いは。
君:わからないわ。
私:僕も実は知らないでいた。襖辞典というサイトがある。
君:あらあら、随分と詳しく書かれているわね。一言で説明してね。
私:実は襖(ふすま)障子と唐紙(からかみ)障子は障子の一種であるものの、全くの別のもの。まずは最初の話。日本の伝統建築たる襖障子文化というものがあったのだが、張る紙の種類を唐紙にして、少し遅れて唐紙障子文化が現れた。現代においても襖と唐紙は別物。ただし、庶民の間では襖・唐紙、この二者の意味の混同というか、同じ物という意識がある。
君:元々は建築のプロが使っていた専門用語を庶民が使うようになったのね。
私:この事を初めに記載したのが本居宣長だ。
君:あら、そうなの。
私:玉勝間・三に「そもそもが障子には三種類、襖障子・唐紙障子・明かり障子、があるが最近、庶民はこの三者を混同して好きな名前でかってに呼んでいる。」との記載があるんだよ。
君:なるほど、江戸時代から全国的に、庶民がいろんな言い方をしていたという事ね。
私:庶民の家に国宝級建築の襖・唐紙があるわけがない。長屋にあるのは明かり障子。これを襖と言ったり、唐紙と言ったり、つまりは贅沢な言葉遊びをしていたんだよ。
君:なるほど、江戸でも、上方でも。
私:その通り。
君:そのうち、特定の地方ではフスマというようになり、またある地方ではカラカミというようになったのね。
私:その通り。江戸時代からの罪のない言葉遊びだ。
君:つまりは今日の結論は?
私:フスマをA、カラカミをBとしよう。日本の西から東へABABAの分布になっているが、たまたまそうなったというだけ。「した・べろ」の例とは違い、「ふすま襖障子・からかみ唐紙障子」の二大文化の歴史は大して違わない。要は「フスマ」のあったところへ「カラカミ」が割り込んできたのではないという事。建築学においては今も昔も、襖文化は襖文化、唐紙文化は唐紙文化、全く別のもの。
君:それどころか庶民の家にはそもそもが襖も唐紙もなかった、という事だったのよね。罪のない話だわ。ほほほ

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