農具揃、は江戸時代の広瀬郷の知識人・大坪ニ市、が記載した農業技術書です。
自序
「農業全書」十一巻のはじめに、「考えてみると、農業はいやしい仕事のようであるが、これこそ天下国家を収める政治の第一歩であり、ことに人間が生きていくための基本となるものだ」と述べられている。この一文は当たり前のことのように聞こえるが、その意味はなかなか深く、理想が高い事この上ない。私はもとより、深い事と言えば沼田が深い事ぐらいしか知らないし、高く登る事と言えば棚田の畔を登る事位しか知らない。勿論、それ位しか知らないのが世間一般の百姓である。そうした中にも、おおよそを知っているといえるのは田畑を耕す事である。幼い頃から自然に見慣れてきた仕事だから、今こそ知っている事の全てを集めて「農具揃」と題して書物にした。さて聖人の言葉に「知っている事を知っているとし、知らないこ事を知らないと認める。それが本当に知るという事だ」と教えられている。依って、私も、文章の拙さをも顧みず、ただあるがままに書き記したのである。
慶応元年五月
秋寿斎(大坪ニ市の雅号) しるす |