大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 

〜ない

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私:今日も手抜きのような記事になってしまう。ごめんね。
君:いよいよネタ切れ?
私:僕の興味は多岐なので、国語学ばかりに時間を割けないので。でも筆を折るのは断腸の思い。
君:片意地を張らず、気軽に書けばいいわよ。
私:ありがとう。昨晩は飛騨方言文末詞「やに(か)」についてお書きし、「に」は「ない」の音韻変化である事をお話しした。
君:という事で、今夜は「ない」で終わる形容詞のお話ね。
私:中村幸弘・日本語の形容詞たち・右分書院 ISBN978-4-8421-0817-9 に詳しい。
君:簡単に説明してね。
私:話はとても簡単、四群に分かれるんだ。
君:とは。
私:★無いが語末のもの。語幹は主語だ。例は、情けない、頼りない。★動詞の未然形に打消しの助動詞「ない」がついたもの。例は、つまらない、憎めない。★補助形容詞「ない」がついたもの。例は、みっともない(見たくも無し)、及びでない、気が気でない、何でも無い、碌でもない。★甚だしい意の接尾語「ない」がついたもの。例は、切ない、おぼつかない、はしたない。
君:なるほど、お話は簡単ね。
私:今夜、特にお話ししたいのは四番目の「ない」、つまりは甚だしい意の接尾語「ない」について。この群の形容詞だけが他の三つの群の形容詞とは際立って異なる特徴を持つ。わかるよね。
君:ええ、簡単よ。他の三つの群の形容詞は「無し」の意味。つまりは内容を否定する意味。その一方、甚だしい意の接尾語「ない」は「有り」の意味。つまりは内容を肯定する意味。
私:誰もが知っている甚だしい意の接尾語「ない」の飛騨方言形容詞と言えば何?
君:切ない、おぼつかない、はしたない。
私:ははは、やられた。全ての共通語形容詞は飛騨地方でも使われる。従って間違いとは言えない。
君:いいから、例をお示ししてちょうだい。
私:てきない(体が苦しい)、ほらつない(勝手気ままだ、いう事が無茶だ)、があるね。
君:なるほどね。語源をお話ししたいのでしょ。
私:その通り。俚言に近いからなあ。各種の資料を見ても記載が無い。私見を述べさせていただくだけだが。
君:そんな事はいいから。
私:「てきない」は「大儀な事」からでしょ。「ほらつない」は「放埓な事」からだと思う。意味、分かるよね。
君:なるほど、形容動詞ね。
私:形動タリ・形動ナリについてはここ。つまりは、紫式部が形動ナリで、清少納言が形動タリ。
君:つまりは「てきない」の語源は「大儀なり」、そして「ほらつない」の語源は「放埓なり」という訳ね。
私:王朝文学に「うしろめたし・うしろめたなし」があり、同じ意味であるのも、そのような理屈だ。平安後期文学に、うしろめたなくは、うしろめたながる、等々の言葉があり、その後の中世以降の写本では「な」が無くなり、現在に至るという訳だ。切ない、はしたない、の形容詞は「せつ切」「はした端」の体言の形動ナリからの品詞の転成でク活用形容詞という事でいいと思うが、おぼつかない、には対応する体言がない。
君:「おほ」だけは「おほ大」でいいのじゃないかしら。「おほほし」「おほろか」があるし、つまりは漠然と大きいので取り留めのない意味で、「つか束」という助数詞にご登場願って「おほつか大束」というような語幹が考えられるのかしらね。
私:まあ、そんなところでしょう。当たらずと言えども遠からず、近いと言えども当たらず、だな。がはは
君:おぼつかない話ね。ほほほ

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