大西佐七のザ・飛騨弁フォーラム 心の旅路

おらんく(=私の家、土佐)

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私:四国は本州と三つの橋のルートで繋がっているので中部地方からはツーリングしやすい。一泊二日で四国のどこへでも行ける。今日は土佐方言「おらんく」。これについては僕は長らく誤解していた。
君:ほほほ、二輪一人旅ね。桂浜を走ったのでしょ。
私:うん。何度もね。台風の日の事もあったな。高知県警が検問を開始しはじめたので早々に退散せざるを得なかったけど。はりまや橋は日本三大がっかりのひとつだな。
君:そう言えば「おらんく」はよさこい節の歌詞にあるわね。
私:うん。言うたちいかんちゃ おらんくの池にゃ 潮吹く魚が 泳ぎより よさこい よさこい

君:意味は?
私:言ったっていけませんよ(=あなたが何のお国自慢を言っても駄目だね) 俺の家の池には 潮を吹く魚(くじら)が 泳いでいるのだから 夜よ来い 夜よ来い。
君:「おらんく」は「俺の家」、つまりは土佐方言では「家」の事を「く」と言うのよね。
私:うん。クジラを魚というくらいだから「く」は「くに国」のメタファーに違いないと思い込んでいた。
君:つまりは「おらんくの池」とは「土佐国の海」つまりは「土佐湾」の比喩ではないかと。
私:うん。でも、それは間違いだった。土佐方言で「く」と言えば実は「家・ハウス・人の住居」(僕んくへ遊びにおいで)という意味で、これは「ところ」の音韻変化だ。
君:つまりは語頭「と」が脱落、語尾「ろ」も脱落、「こ」が「く」に、つまりは母音交替が生じたという事よね。
私:まさにその通り。ただし君の長い説明を実はたった一文節で言い換える事ができる。
君:たったの一文節?
私:うん。アクセント核「こ」。「おらんこ」と言っても通じない事も無いだろう、母音交替はあまり本質的な事ではない。名詞「ところ所」の共通語アクセントは尾高、つまりは「ろ」にアクセント核がある。副詞になって「所によっては雨、所変われば」の場合は平板だから、アクセント核が無い。今日、一番に言いたい事は、土佐方言「おらんく」は飛騨方言では「おらんとこ」。両語は同根。ところが飛騨方言「おらんとこ」は「と」にアクセント核がある。実は飛騨方言では「おらんところ」という事も可能で、この場合のアクセント核は「ろ」。つまり尾高。蛇足ながら人名「ところ所」の場合は頭高で、アクセント核は「と」。
君:土佐方言「おらんく」の音韻変化について推察は可能かしら。
私:可能なんてもんじゃない。大ありだ。ところで砕けた言い方で「はやいとこ、やっちまえ」という言い方があるよね。だから「おのれのところ」から始まり、おのれのとこ、おれのとこ、おれんとこ、おらんとこ、おらんこ、おらんく、の音韻変化だろうね。ネット、成書、片っ端から調べたがどこにも書かれていなかった。もう一点、「ところ」から「とこ」に音韻変化した時点でアクセント核「こ」が誕生したという事だな。ひとたび尾高名詞が誕生するやアクセント核は不動であり、「こ・く」母音交替に優先する、という事までわかるね。
君:さあ、どうだか。
私:つまりはそのような理論でないと飛騨方言「おらんとこ・おらんところ」のアクセントの移動も説明が困難という事だ。日本語とはそのような性質ですよ、と申し上げたい。
君:おらんくの仮説ね。この場合、「く」は「ウェブサイト」の意味ね。ほほほ

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