21 我が身体に巣食う虫けら



「我が体に巣食う虫けら」

空を見上げてふと思う
寂しいときにふと思う
冷たくされて又思う
優しい君の面影を
苦しそうな面影を
厳しい君の面影を
その面影の中に
今一つ君にまつわりつく虫けらが
大人になった君の横顔を見る
虫けらがまつわりつけば
尚更に君の顔は厳しくなるのを知りつつ
その小さなともし火を君に()えさせんと
この虫けらが
今日も君を苦しめている
だが この虫けらは
我が体を(むしば)みそして来る日も来る日も
君にまつわりつくだろう
われは情けない
この虫どもを退治する
良薬を見たことが無い
われもいつかは虫けらになり
君を貪り(むさぼり)食うだろうか
いやそのときは必ず君を食い荒らし
生涯の共にすべし
そう叫んでいる虫けらどもが
君の名前を呼んでいる
ミッチャンミッチャンあきらめろ
虫の世界もよいところ
一生共に過ごそうよ


「俺は忘れ物の専門屋」

俺は忘れ者の専門屋
明日の生活のことも忘れて
今日であっさり金と さよならしてしまう
先ごろまでは
あれやこれ金が要ると思っていたのに
俺は忘れ者の専門屋
あるとき売られた けんかのこと
辛い仕打ちをされたことも
いつも忘れてしまう俺
今度こそ 忘れるものかと思ったに
俺は忘れ者の専門屋
久方ぶりに会う親の背を見ては
どうにかせねばと反省しても
いつも俺は忘れている
俺は忘れ者の専門屋
辛い仕事に汗を流し
一生忘れてなるものか
心に決めていたものの
今はどうにでもなれと思っている
俺は忘れ者の専門屋
こんな俺でもどうにかなって
ようやく落ち着き見ているよ
今じゃ あの娘の面影が
寝てもさめても忘れられぬ


「俺は灰皿」

俺は灰皿
人間と言う馬鹿な動物が
そう言うから
そう呼ばせてやる
だが
二十一世紀になったらそんな風に
言わせないかもしれないから
そう思え
そこで一つ
人間という動物に
言わせてもらおう
俺の頭を
そう 何度も
コンコン叩かないでおくれ
いったいなんだと 思っている
俺は木琴じゃないぜ
七百度もある熱いやつを
平気で俺の腹へ
押し付けるな
火傷するぜ
何か言ったらどうだい
俺だって熱いぜ
何かあってはいけないと思って
ましてや
人間様が困るだろうと思って
俺は我慢をしている
それなのに
ふてー野郎がいる
俺をくず入れと
間違えるな
俺はこの世界切っての
奇麗好きで通している
間違っても“タン”など
入れるな
この前なんぞは
人間様の間では紳士といわれる
おじ様が
鼻毛を一本一本抜いては
ピッピッと入れやがる
馬鹿にするな
俺はただ
お前さん達が
困るだろうと思って
灰皿になってやっている
頭がいい
人間様よ
少しは考えてみたまえ


「一日の仕事が終わって」

びしょびしょの
汗を流したくて
蛇口をひねった
お湯のような水が
はねて出る
少しすると
ひんやりした
冷たい水に変わった
後頭部に流すと
冷たさで
息が詰まる
サーと汗が流れる
背中を伝う水滴が
暖かい
フー
息をついた
タオルはほんのり
体を包んでくれ
灼熱(しゃくねつ)の太陽を
忘れさせた
時折吹く風さえ
さわやかさに感じる
一時の涼しさが去ると
また暑くなった
数日暑い日が
続くという
蛇口(じゃぐち)
明日も僕の体を
(いや)してください


「足の裏」

足の裏
君はこんな顔をしていたのか
ついぞ見たことなかったが
君はいつもどんな顔をして
まいにち毎日
五十キロの体を支えているのだろう
今まで思っても見なかった
君はいつもきれいな靴下を好み
砂浜に行けば
靴を脱がせて
一時の安らぎを取りたがる
かわいいあのことの待ち合わせには
時間についての不平不満も言わず
僕の行きたいところへ連れて行ってくれる
きっと辛いだろう
苦しいときもあるだろう
だから
良く見ると少しだけど
しわがありますね
いつも無理して使って居るからかい
ごめんね
今度からはもう少しいたわりますから
あ・それから
申し遅れましたがいつもありがとう御座います
これからも
苦しいでしょうが
よろしくお願いします
いつまでも



「ハイライト」

君はウインドーに
パートナーを探すかのように
人待ち顔で並んでいる
君には あいにくだが
今日は俺が相手だよ
観念しな
軽く抱きしめ
赤い腰巻解いて
一本一本抜いてゆく
だけど君は
何も言わず俺に身を任せている
そのたびに
かわいい君が痩せていく
悲しいかい
せめてものお詫びに教えよう
君の体のナンバーは
二千と二百十七だよ
体に火をつけられ
煙になってしまう君
だけど
君は随分人のため
尽くしている
時には精神安定剤
かわいいタバコよ ハイライト



「時の刻み」

コチコチ コチコチ
時を刻んでいる
君は何時も定められたところを
いつも同じ頃
同じ場所に居て
それでも
コチコチ時を刻んでいる
そばかすだらけの
顔をして
時には怒り
時には威張り
時にはもの悲しく
又会えるときを
待つかのように早く遅くに
コチコチ時を刻んでいる
ある日君は
時の刻みを
忘れていたね
ビックリしたじゃないか
君が君でなきや誰だって困るさ
君は大衆のシンボル
だから一寸休むと こいつはつまらない
こいつは駄目だ
いいかげん使われたあげく
あくたの ように捨てられ
君を全く知らない者の
おもちゃにされてしまうのさ
だから君は
何も無かったかのように
いつも同じ頃いつもの場所を
コチコチ 
時をきざんで居ればいい
それだけで
君は何時も
幸せを迎えることが
出来るから



「赤い街の人々」

太陽にかざす君の頼りなげな手は
橙色に染まり
顔も橙色(だいだいいろ)に染まる
太陽を指す橙色の手
なんと美しいことか
太陽を見つめる橙色の顔
なんと和やかなことか
今はもう一日の終わりを告げる
赤い太陽に
街のビルも赤く映えながら
一日の安楽(あんらく)を告げる
地方では台風の爪あとが 人々の涙を誘う
風雨に荒れた水田や 荒らされた作物
流された家屋 荒れた河川がある
どれもこれも
今も昔も人々を困らせる
この街を照らす太陽は
何事も無かったかのように
赤く美しく
ここに住む人の安らぎを誘う
もやの 中に浮かぶ ビルの林にあって
君の歩いてゆく姿に 安らぎを見る
いつとも無くビルの影が
赤と黒の空間を作り出すとき
太陽に向かって歩く 君の後姿が眩しい
ただ
僕の心は今日の一日の終わりと共に
寂しくなる
また
明日は君に会えると言うのに


「世界一の富士の山」

君の背は三七七六
異様な(てい)をなし
コニーデを作り
何人をも寄せ付けず
四季を写し 樹海を望む
五湖の杯を一度に備え
英姿を映す
これが言うに言えず
語るに語れません
世界にその名を(とどろ)かす
君の名は日本一の
いや 世界一の
富士の山




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