22 今と昔と



今と昔と」

山の頂きに居て
あの丘を見る
あの山を見る
それぞれに形をなし
親しみ深く
話し掛けてくる
段々畑をこれ見たか
気取ってみせる広陵(こうりょう)
空を通る高圧線に
顔をしかめ
山野辺(やまのべ)を走る
汽車も今は変わり
昔懐かし
「ポー」の汽笛もなし
今ここに居て
目を閉じれば
半円をえぐりながら走る
蒸気機関車がある
山も川も
数年変わらず
こうして私を
迎えてくれているのに
私は悲しい
若き夢多き時は去り
年老いた私が其処に居た
行く当てもなく
この頂きに立つ
ああ、晩秋の思い出



「現 実」

西を向いても東を見ても
威勢よくネオンの花が咲いて居る
きれいな花の街なのに
僕の心が悪いのか
とにかくこの世は住みにくい
空を見上げりゃお月様
暗いはずの街なのに
行ってみたいよ お月様
星と手と手を取り合って
すみよい世界を作りたい
喜び合って悲しみのない
交通事故も無い
けがれの無い青い空
私のかなわぬ願いと知って
いつか星が(うる)んでいた
一人
ビルの上から見る夜景
今宵も
かすかに聞こえる
機械の音と
真下を通る車の音と
時折市電が通過する
ゴリンゴリン ゴチン
ゴリンゴリン コトン
風が運んだ
悲しみを奏でる音楽は
なんだか寂しい音を残して
遠ざかる


「不安定な道」

気持ちが弾む
心も軽くドラが鳴る
青い海を背において
遠い空に呼びかける
誰かが聞きました
何かいいことでもあったのかい?
小さなバックに菓子持って
ミカンもリンゴも入れました
今日は彼女とデートだい
走って歩いて休んで歩いて
笑って怒って喧嘩して
青い空を見ていると
遠くで鳴る汽笛
今日の二人の気持ちを乗せた
出船の気持ちで聞いている
ちょっぴり不安を胸に抱く
不思議な旅
いつかを夢見る
二人の長い旅
不安定な道


「姉と妹」

雨の中を
小さな傘に身を寄せ合って
幼い姉妹が通ってゆく
空は光と驚くばかりの音をさせ
怒り狂う雷に
姉はおびえる妹を自分の身体でかばい
そっと守るそのしぐさ
ほんとうは自分も怖いのに
その優しさがこころ(なご)ませる
寄り添いながら通り行く
雨の中の小さな二人


「思い一筋」

天は 晴れて 気はすみぬ
日頃(きた)えし、この腕を
(ふるへ)へ や 奮へ
今このときに
若き生命の、燃えるとき
額に汗を輝かし
地には、足を 踏み込んで
高く思いを、告げんかな
力一杯、進み行け
未来は遠きに、在りしかも
生命の絶える、その日まで
生命の絶える、その日まで

(小学校運動会の応援歌を一部使用)


「貴方と私」

離さないで捨てないで
愛して欲しい
嵐の中の波のように
私を抱いて愛して 死ぬほどに
貴方はマッチの炎のようだけど
それでもいい
本当に愛して
しっかり抱いて この身体
燃えて仕方がない私
こんな私にさせといて
煙のように 消えてゆく貴方
それでも好き
私は


「時の声」

風も通わぬ
炎天下
林の中の
静けさを
我らの世界と
競い合う
蝉の声こそ
高らかに
ミーミー蝉か油蝉
天にも響けと
鳴きつづる
短いわが身を
惜しみ無く
力一杯
歌うたう


「名古屋テレビ塔に登り」

君の手をしっかと握り
いろんなことを思っていた
やさしいね 君の手は
いつも気楽に握れたら
滑るから
しっかり握って離さないで
僕についておいで何処までも
このまま離したくない
このまま手を引いて
二人だけの世界へ行きたい
そして君のか細い体を
力いっぱい
抱きしめてやりたい
そう叫んでいた
その手は
赤い血がどくどくと流れて
僕の手から
君の手へ
心まで届けと
叫んで流れていた


(あざみ)にあやかる」

薊の花が咲いている
原野に野アザミ
山にオニアザミ
砂地にフジアザミが
咲いている
葉っぱにつけた
トゲに守られ
柔らかい冠毛(かんもう)
優しさを忍ばす
薊の花は 君に似て
優しい花をつけている
好きだ そんな君が
あるとき僕は
君のトゲに(おび)
おどおどしたが
思い切って
触って見たら
さわやかなほんのり冷たい
優しい君が居た
風に揺れながら
僕の本当の気持ちを
確かめるかのように
優しく悠然(ゆうぜん)と咲いている
そんな
君がだれよりも好きだ



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