1.とある教師の恋愛革命・番外
 
「なぁ」

「なんですか、坂田先生」

「あのさァ。その他人行儀な呼び方、何とかなんねェの?」

「ここ、学校ですよ?」

「固いコト言いっこナシだよ、ナシ。固いのは俺のアソコだけで十分じゃん」

「…………」

「あ、ヤベ。スベった?
 じゃ、アレだ。せめて好きとかそういう台詞くらい、言ってくんね?
 『好き好き大好き超愛してる』とかさ」

「それいつの芥川賞候補ですか」

「第131回。つか、このタイトル知ってたのかよ。ちっ」

「って言うか、坂田先生、芥川賞とか読むんですか」

「そりゃお前、俺、国語教師だよ? 芥川も直木も読むに決まってんじゃん」

「……ちょっと意外でした」

「もしかして、惚れ直した?」

「……はい」
 
「……マジ?」






2.無題
 
面白くない。
何が面白くないかって、可愛い可愛い恋人がアイドルに夢中だという事だ。
人気クイズ番組から誕生したアイドルユニット。
世間の人気も高いらしいが、まさかコイツまでがのめり込むとは。
今日も今日とて、テレビに噛り付いて例のクイズ番組を見ている恋人に、銀時は溜息をつく。
番組中はまだいい。
問題はエンディングだ。クイズの回答者でもあったアイドルユニットが、エンディング曲を歌い始めた瞬間。
 
「きゃぁあああっ!! かっこいいかっこいいかっこいい〜〜!!!」
 
これだ。
アイドルなんて、所詮はテレビの中の存在。
そうは思ってみても、目の前で恋人が他の男に夢中になっているのは、甚だ面白くない。
だが以前、思い余ってエンディングの最中に構おうとしたら、邪険に振り払われたのだ。
挙句、大喧嘩にまで発展し、数日後には銀時の方が謝り倒す結果となった。あまりにも情けない。
触らぬ神に祟りなし。多少違うが、似たようなものだろう。
とにかく今は耐えるしかない。
所詮はテレビ。所詮はテレビなのだ。そう呪文の如く胸中で繰り返すことしばし。
 
「あ〜。失恋したらこの三人にこの歌で慰めてほしいなぁ。一発でオチちゃう」
「オイィィィ!! 何言っちゃってんのお前はァァァ!!?」
 
思わず叫んでしまう。
それは失恋したいという意なのか。別れてくれという意なのか。
いくら何でもそれは御免被る。
一体これは、どこに苦情を申し立てればよいのか。
とりあえずはテレビ局に殴りこみだろうかと、本気で考えさえした。のだが。
 
「でも失恋できないから無理だよねぇ」
 
ねぇ? と同意を求めて振り向いたその顔には、満面の笑み。
これはアレか。アレなのか。そういうコトなのか。
何とも自信過剰な女だとは思う。けれども確かに、その通りだろう。
失恋などする訳が無い。振られる訳がない。何せ銀時にそのつもりがまるで無いのだから。
見透かされている。完全に振り回されている。
わかっていて尚、我侭なれども可愛い恋人を、手放そうとはとても思えない。
 
「仕方無ェなァ。だったら俺が、魔法かけてやっか」
「じゃ、目閉じなきゃね。でも銀ちゃん」
「何だよ」
「銀ちゃんが言っても、あんまり似合わないよね」
「うるせー」
 
無邪気に笑いながら、それでも素直に目を閉じる恋人に、銀時は歩み寄る。
望むがままに、魔法の呪文を唱えてやるために。
 
 
 
(ヘキサゴンです。羞恥心です。「泣かないで」です。こういうのもアリじゃないかと)






3.大人と子供の理想関係
 
ゴロゴロと鳴り止まない雷。
ここのところ、毎日。
おかしな天気だと、お天気お姉さんも困った顔で話してた。
実際、変な天気ばかり続いてる。
でもそれは、あまり問題じゃない。
今の問題は、夜更けになっても鳴り止まないこの雷。
窓の外が光ったと思うと、次の瞬間には耳をつんざくような雷鳴。
そのたびに、お布団に包まってびくびく怯えてる。
眠ってしまえば気にならなくなるのかもしれない。
けど、眠ろうとしても雷が怖くて眠れない。眠れないから気になってしまう。
ああ、なんて悪循環。
泣きたくなるけれども、それだけはどうにか我慢する。
もし隣で寝ている銀ちゃんが目を覚ましたら、心配かけちゃうから。
早く雷がどこかに行ってしまえばいいのに。
そう思っているのに、響いたのは一際大きな雷鳴。
 
「やぁっ!」
 
お布団をかぶって塞いでいても耳に届く音。目をぎゅっと閉じていても目蓋を通して入ってくる光。
どうして。どうして。
怖くて怖くて。涙が滲み出そうなのを堪えてみたけども、もう限界。
そっとお布団から抜け出てみる。
雷は鳴ってない今の隙に。ちょっとだけ、ちょっとだけでいいから、光らないで。鳴らないで。
暗闇の中、手探りすればすぐに隣のお布団は手に届いた。
隣のお布団。銀ちゃんが寝てるお布団。
お布団の隅っこでいいから。銀ちゃんの近くだったら、ちょっとだけ怖くなくなる気がするから。
そう思って、銀ちゃんのお布団に潜り込んだ。
たったそれだけで、ちょっとホッとしちゃう。
まだ雷は怖いけど。光も音も怖いけど。だけど銀ちゃんの近くにいたら―――
 
「ようやく来ましたか、お嬢ちゃん?」
「きゃっ!?」
 
いきなり身体を引っ張られたと思ったら、きゅうって抱きしめられちゃった。
誰に、なんて一人しかいない。
 
「……起こし、ちゃった……?」
「ハズレー。最初から起きてましたー」
 
間違えたから罰ゲームな、なんて言いながら、銀ちゃんはわたしの頭をくしゃくしゃに撫でる。
温かくて気持ちよくて。それに何より。
 
「ちっともこっち来ねーから、いっそ銀さんがそっち行こうかと思ったぐらいだよ?」
 
怖かったろ? って、銀ちゃんにはお見通しだったみたいで、なんだか恥ずかしい。
でも銀ちゃんの心臓の音が、トクン、トクンって。わたしを安心させてくれる。
もう大丈夫。銀ちゃんがこんなに近くにいてくれるから、何も怖くない。
雷なんかに、銀ちゃんが負けるわけないんだから。
だから。
 
「銀ちゃん……雷終わるまで、こうしててくれる?」
「むしろ朝までしてたいけどな?」
 
また頭を撫でられて。ぎゅっと抱きしめてもらえて。
嬉しくて。安心して。
いつのまにか雷なんて、気にならなくなって。
 
「おやすみ」
 
最後に聞こえたのは、銀ちゃんの声。そして優しい心臓の音だけ―――






4.無題
 
「銀時ー。吉原相手にケンカ吹っ掛けた挙句に大怪我したんだって? バカじゃない?」
 
「うっせー。コレはな、アレだよ。太陽目指してイカロス気取ってみたらこうなっただけだっての」
 
「そして花魁の日輪には相手にもされず、すごすご帰ってきた、と」
 
「イヤイヤ、違うからね、ソレ。酌してもらったからね。って言うか誰に聞いたソレ」
 
「ニュースソースは秘密です」
 
「どうせ新八か神楽だろ。あのガキどもが」
 
「それよりも! どうして吉原にケンカ吹っ掛けるなんて面白い真似、私も誘ってくれなかったの!!?」
 
「え、ソコ? 怒るところはソコなのか?」
 
「私だって暴れたかったのに!!」
 
「違うだろ。この展開は普通、『そんな危険な事しないで』的な」
 
「しかも相手が夜兎? 羨ましい!!」
 
「羨ましくねーよ! 死にそうだったんだからな、これでも!」
 
「私を連れてってくれなかったバチだもん!」
 
「そんなんで死んでたまっか!!」
 
「であるからして、次からはちゃんと私を誘うように」
 
「あのなァ、お前わかってんの? マジで死ぬかもしれなかったんだぞ?」
 
「だからだもん」
 
「はァ? 死にたがりか? 今時、自殺願望なんざ流行んねーよ」
 
「だって、だって。私がいたら銀時、そこまで怪我しなくて済んだかもしれないじゃない」
 
「へ?」
 
「私がいないところで怪我しないでよ。私の知らないところで死にそうにならないでよ。
 それじゃ、私、何にもできないじゃない……私がいたら、って後悔しなきゃならないじゃない……」
 
「オイ……」
 
「もうイヤなの……大事な人がいなくなるなんて、絶対にイヤだから、だから」
 
「…………」
 
「次にどこかにケンカ売る時は、絶対に私を呼んでよね!
 ふふ。たまには暴れないと、ストレスと脂肪が溜まっちゃうのよね。美容のためにも、うん」
 
「オーイ。本音がダダ漏れですよ、お嬢さーん」






5.ダメな病人の見本 1
 
「…………」
 
「あ、銀ちゃんだ。やっほー」
 
「……俺は、お前が風邪ひいて寝込んだっつーから来てやったんだけど」
 
「うん。だから寝てる」
 
「……ゲーム機のコントローラー握ってテレビ画面ガン見してる状態を『寝てる』とは言わねーよ」
 
「ちゃんとお布団入ってるもん! それに病人食だってここに!」
 
「誇らしげに言ってんじゃねーよ! 桃缶とプリンとヨーグルト並べただけじゃねーか!!」
 
「病人食じゃん、これ」
 
「……病人だって言い張るなら、今すぐゲームやめて大人しく寝てろって」
 
「無理。このダンジョンクリアしないと、気になって―――げほげほっ、げほっ」
 
「ほら見ろ。銀さんの言うコト聞かないからそうなるんだよ」
 
「ちがっ―――げほげほっ、違うもん! このダンジョンクリアしないと眠れない呪いが!!」
 
「だったら最初からゲームやるんじゃねェ!」
 
「げほっ……暇だったんだもん」
 
「暇なら黙って寝てりゃ良かったんだよ」
 
「性に合わないよ、そんなの」
 
「合う合わないの問題じゃねーだろ……」






6.ダメな病人の見本 2
 
「よっしゃ! げほげほっ……ボス戦クリア!!」
 
「そーか。そりゃ良かったな。じゃあさっさと寝ろ。心置きなく」
 
「あ、まって。まだこの後のイベントが」
 
「ダンジョンクリアしたら寝るっつったろーが!!」
 
「言ってないよ、そんなこと」
 
「…………」
 
「げほっ……この後、二人のヒロインのどっちか選んで、げほっ、結婚式あげんの。それ終わったらゲームやめるから」
 
「あーそーかよ」
 
「銀ちゃん来てくれたしね」
 
「……それはどういう意味ですか? 俺は暇潰しの相手ってワケですか?」
 
「え? ―――げほげほっ、ちが、なんか…げほっ、来てくれて嬉しいから」
 
「…………」
 
「そんなことどうでもいいからさ、銀ちゃん」
 
「どうでもいいのかよ!? 銀サンちょっと感動しかけたのに!!」
 
「結婚相手だけど、げほっ、幼馴染の勝ち気な女の子と、金持ちで優しい女の子、げほげほっ、どっちがいいと思う?」
 
「俺がやってんじゃねェんだからよ、自分で決めろ。んなコト」
 
「や、銀ちゃんの意見も、げほげほっ……聞いてみたいかなって思って」
 
「……んなコト言われてもなァ」
 
「銀ちゃんだったらどっちがいい? 幼馴染か、お嬢様か」
 
「そーだなァ……」
 
「私としては、げほっ、ずっと一緒だった幼馴染の方が、げほげほっ、ポイント高いんだけど。でも健気なお嬢様も、げほっ、いいなぁ」
 
「……結婚相手だろ?」
 
「うん」
 
「俺としては……まァ、アレだ。病人のくせに大人しく寝もせずにゲームに夢中になってるバカな女を選びたいところだな」
 
「…………」
 
「……イヤ、反応してくんないと困るんだけど、俺も」
 
「…………もう寝る」
 
「え、イヤ、ちょっ!? それどういう反応!? ってか拒否!? 俺のコト拒否ですかこの娘はァァァ!!?」