1.無題
 
(動乱篇ラストのあたり。のような)

 
 
とりあえず、腹抱えて笑いたくなった。
ので。
 
「指差して笑っていい?」
「……いつからいたんだよ、テメーは」
「ん。万斉ちゃんが来る前からずっと」
「ヤツを『ちゃん』付けするような女はテメーだけだろうな」
 
屋根の上からいきなり声をかけてみたら、晋助は存外驚いた素振りも見せなかった。
面白くないなぁ。
何だかんだで私の存在に気付いてたのかもしれない。
そうでなくても、予想くらいはしてたのか。
どちらにしたところで、面白くない事に変わりはないけれども。
 
「ところで晋助と万斉ちゃんの会話、初めて聞いたけど。どんだけ電波な会話してんのよ」
「そうか?」
「自覚無いの? こりゃ重症だわ」
「それを上で聞いてたテメーは悪趣味って訳か。いい加減、そこから下りてきたらどうだ」
 
迷った挙句、やっぱり屋根の上に留まることにした。
屋形船の屋根の上なんて不安定極まりないのだけれども、晋助の顔見たら本当に爆笑しそうだし。
そうしたらきっと睨んでくるだろうなぁ。
それだけなら別に構わないけど、物投げつけられたり斬りかかられたりしたら困るし。
や、負ける気はまったく無いけど。
って言うか私が晋助程度に負けるわけがないんだけど。
ただ、今はそんな気分じゃないってだけで。
今は、それよりも。
 
「銀時かぁ……懐かしいなぁ」
 
白夜叉だなんて、何年ぶりに聞く呼び名なんだか。
良くも悪くも忘れられない時代。
クサい言い方をするなら、あれが私の青春だった。なんて。
いつの間にか止んでいた三味線の音が、再び耳に届く。
何だかなぁ。私を感傷に浸らせたいんだろうか、この男は。
 
「何か、わかるか?」
「……晋助こそ。わかってるんでしょ?」
「フン」
 
何を、とはお互いに聞きもしなかったけれども。
それでもきっと、私たち二人ともわかってる。
昔も今も変わらない、銀時が護りたいと思っているものを。
ああ。これは確実に感傷に浸らせる気だ。
そんな事して何の意味があるの、晋助に。暇潰し? 私はお前の暇潰しの道具ですかコノヤロー。
やっぱり面白くないなぁ。
第一、感傷に浸ってばかりなんて私らしくもない。
だから。
 
「うん。決めた」
「何をだ」
「銀時に会いに行く」
「……俺の前で、ンな事を高らかに宣言してんじゃねーよ」
 
テメーは誰の味方だよ。
そう呟いた晋助に、返すべき答えは一つだけ。
そしてそれはきっと、晋助だって知ってるはず。
 
「別に私は銀時の味方でも、晋助の味方でもないから。私は、私だけの味方なの」
「だろうな」
 
ほらやっぱり。わかってたじゃない。
晋助は笑ってる。だから私も笑い返してみた。見える訳でもないのに。

多分きっとこれからも、私たちはこんな感じで続いていくのだろう。






2.無題
 
「大江戸花火大会、中止だってー」
 
「……てめー、この雨で祭があるとでも思ったのか?」
 
「江戸っ子が雨なんかに負けてたまっか!」
 
ゴロ…
 
「…………」
 
「雷も来たか。結構派手に光ってるな。
 お、そうだ。花火の代わりに雷でも見物してろよ。江戸っ子なら」
 
「な、なな何言ってんのよ! 花火と雷を一緒になんかしないでよ!!」
 
「似たようなモンだろ。って、随分顔色悪いな、オイ?」
 
「き、気のせいよバカ!!」
 
「まさか雷が怖いってのか? 似合わねェな」
 
「当たり前じゃない! このアタシが! 雷如きにビビる訳が―――
 
「お、光ったぜ」
 
ガラガラッ ドーンッ!!
 
「きぃやぁぁぁああっ!!!」
 
「今のはどこかに落ちたな、って何してんだテメーっ!!?」
 
「いやぁぁああっ落ちたぁぁあっ!! 守れバカ杉コノヤロー!!!」
 
「くっついてんじゃねェ! あと誰がバカだ誰が!!」
 
「うるさいっ! これどうにかしたらバカ杉から神杉にランクアップしてやるわよ!!」
 
「意味わかんねーんだよ!!」
 
「ってまた光ったぁぁぁああっ!!」
 
「しっ、締めるんじゃねェェ! 落ちっ、落ち……っ」
 
「ぎゃああぁああああっ!!! 落ちたぁぁぁあああっ!!!
 って晋助も落ちたぁぁあっ!!? ちょっ、なに勝手に失神してんだこのアホ野郎!!!!」
 
 
 *  *
 
 
「お、雷いっちゃった? あー、怖かった」
 
「……悲鳴あげながら男シメるテメーの方がよっぽど怖ェよ、俺は」






3.責任の所在を問う話
 
「最近の世の中って、できちゃった結婚多いよね。でもどうせ奴らすぐに離婚するんだよ。バカみたい」
 
「……てめぇはそんなバカげた世間話をするためだけにここに来たのか?」
 
「でも責任とろうとする姿勢だけでも褒めるべきなのかな」
 
「聞いてんのかオイ」
 
「でも責任感だけじゃ長続きしないってことね。ちなみに今日は晋助で遊ぶために来ました」
 
「帰れ」
 
「やだ」
 
「…………」
 
「何でこんな話って、友達がまさにその状況でさ。とりあえず男に生存権は無いって結論で盛り上がったわけ」
 
「帰れ」
 
「でも一応そんな男の弁解も聞いてやろうと思って。どうよ?」
 
「何だってそんな上から目線なんだ、てめぇは」
 
「可愛いから」
 
「帰れ」
 
「で? 女の子を妊娠させておいてできちゃった結婚したと思ったら次の瞬間には離婚って、どういうつもりなんですかバカ男代表の高杉晋助」
 
「バカはてめぇだ。第一、俺はそれ以前に孕ませたりしねェ」
 
「でも可能性はあるじゃん」
 
「ねーよ。毎回外に出してるだろ」
 
「つまり責任をとるつもりがないってこと?」
 
「とるべき責任がそもそも存在しねェんだよ」
 
「…………」
 
「…………」
 
「…………」
 
「何だよ」
 
「うん。じゃあこのお腹の子の父親は誰にしようかと思って」
 
「…………」
 
「晋助じゃないのは確かみたいだし。ヅラか銀時あたりに聞いてみるかなぁ。あの二人なら、存在しない責任でもごり押ししたらとってくれそうだし」
 
「…………」
 
  「うん、わかった。色々参考になったわ、ありがと。じゃあね」
 
「…………」
 
「なに。離してよ。責任無いんでしょ?」
 
「……マジなのか?」
 
「何が?」
 
「だから……が、ガキができたってのは」
 
「晋助には関係無いじゃん。心当たり無いんでしょ?」
 
「てめぇにはあるのかよ」
 
「酔った勢いの一夜のアバンチュールとかじゃない? 覚えてないけど。まぁ聞いて回ってたらその内わかるでしょ」
 
「…………」
 
「だから、なに。離してよ」
 
「うるせーな。黙ってここにいろよ」
 
「なんで? 晋助に責任無いんでしょ?」
 
「無ェよ」
 
「だったら」
 
「……責任云々じゃねーよ」
 
「は?」
 
「惚れた女をむざむざ他の野郎に渡すバカがどこにいんだよ」
 
「…………」
 
「……オイ。反応くらいしたらどうだ」
 
「だ、だって……そんなの初めて聞いた……」
 
「…………」
 
「ちょっ、もう一回言って! 今度はちゃんと録音して言質とるから!!」
 
「色気の無ェ反応してんじゃねェェェ!!」