1.乙女の事情
 
「ふくちょー。ちょっと相談のってもらっていいですか?」

「どうせくだらない話だろ。帰れ」

「くだらなくなんかないです!」

「じゃあ何だよ」

「今度、友達と温泉行くことになって」

「帰れ」

「なんでそうなるんですか!」

「くだらねェからだろうが!!」

「だからくだらなくないですってば! 私は真剣に困ってるんですよ!」

「……何だよ」

「温泉旅行と生理が来る日が重なりそうなんです」

「知るかァァァ!!」

「うわ、ひどっ! 女にとっては死活問題なんですよ!? せっかくの温泉旅行で肝心の温泉に入れなかったら、まるで意味が無いじゃないですか! だから」

「だから、何だよ」

「精子ください」

「……は?」

「だから、精子くださいって。あ、えっちしてくれって訳じゃないのでご安心を」

「できるかァァァ!!」

「えー。いいじゃないですか。オタマジャクシの一匹や二匹や数百匹くらい」

「そういう問題じゃねーよ!! 何がどうなったら精子なんて結論になるんだ!?」

「え、だって。妊娠したら生理止まるじゃないですか」

「帰りやがれ!!」

「ちょっ、それって冷たくないですか!? 私は真剣なんですよ!?」

「そんなに欲しけりゃ他を当たれ!!」

「イヤですよ! 局長のDNAはゴリラだし沖田隊長のはサディスティック星産だし山崎さんのは地味がDNAにまで浸透してそうだし万事屋さんのは白髪天パだし副長のは顔はいいし性格は許容範囲だし好きなんですよマヨとニコチンさえ与えなければ!!」

「うるせェェェ!! いいから出て行きやがれ!!」

「何さ、副長のケチ! 鬼! 人でなし! このバカチン!! もういい! 自力でどうにかします!!」

「だったら最初から自力でどうにかしやがれ!!」
    
 
    


「……クソっ。どさくさ紛れに妙なこと言うんじゃねーよ。どうせ深い意味なんざねェんだろ、『好き』っつったって……」  






2.とある夏の日における真選組屯所の一室
 
「……オイ。なんだこの部屋は」

「何って、普通の部屋ですが」

「俺が言いてェのはそんなことじゃねェんだよ。エアコンつけるぞ」

「いやぁぁああああ!!!!」

「っ!? なんだってんだ急に!?」

「エアコン禁止! 禁止ったら禁止! 扇風機があるじゃないですか!!」

「扇風機で熱風あてられても暑いだけだろーが!!」

「エアコンは禁止! ダメ絶対!!」

「なんでだよ」

「お肌が乾燥しちゃうからです―――ってなんでスイッチ入れるんですかぁぁああ!!?」

「うるせェ!! んなバカげた理由で暑さが我慢できるか!!」

「私はできます!」

「できるか!!
 大体、肌が乾燥するくらい、熱中症で死ぬよかマシだろーが」

「どこがマシなんですか!!
 私の美肌が損なわれるくらいなら、熱中症で美しいまま死ぬ方が数十倍マシです!!!」

「オイィィィ!!?」

「というワケで、エアコンは禁止です。大丈夫です。死にません。多分」

「『多分』とか付けてんじゃねーかァァァ!!
 って、エアコン切ってんじゃねェ!!!」

「エアコンがない時代から人類は生き延びてきたんですよ!?」

「今と昔じゃ状況が違いまさァ」

「何勝手にエアコンつけてるんですか!?」

「でかした、総悟!」

「ちょっ、私の美肌が!!」

「誰もてめェの肌なんか見てねーよ」

「黙れクソ朴念仁に乙女の何がわかる死ね土方」

「今すぐ腹切れ」

「暑さでストレス溜めても肌に悪いんじゃねーですかィくたばれ土方」

「てめェ……」

「それもそうですね! じゃあエアコンつけましょうか奈落に落ちろ土方」

「人間、我慢はよくないでさァ地獄に堕ちろ土方」

「……じゃあ俺も我慢せずにてめェらを叩っ斬ってやろうかァァァ!!!」