年頃娘は日記くらい書くんです
1.
某月某日
御用改めの最中、浪士に髪斬られた。最悪。死ね。
ああ、バッサリ。
ものの見事にバッサリ。
うわぁぁあ!! カムバーック、私のサラサラつやつやストレートヘア!!!
「うるせェんだよ、さっきからブツブツと」
「え? 声に出てました?」
「出てるも何も、ダダ漏れなんだよ」
「うぅ……でもショックだったんですよぅ」
「髪くらいどうだっていいだろ」
「よくない! よくないですよこのバカ!!
そんなんだから土方さんは結局モテないんですよこの大バカ!!!」
「表出ろコラァ」
「受けて立ちますよコラァ!!
あの浪士斬ってぶん殴って踏みつけて股間蹴飛ばしただけじゃ気が晴れなかったところですから!!」
「……テメェだったのかよ、アレは」
「乙女の純情踏み躙った報いとしては当然じゃないですか」
「股間蹴り上げて純情ぶってんじゃねェ!!」
「だってだって! せっかく伸ばしてたのに!!」
「仕事中は邪魔なだけじゃねーか」
「でもぉ……万事屋さんが、さらさらストレートが好きだって」
「短くなって良かったじゃねーか」
「…………」
某月某日
表に出た。乙女の純情踏み躙った報いだコノヤロー。
2.
某月某日
仕方が無いから髪を切り揃えた。
ああ、私のサラサラつやつやストレートヘアー……
「…………」
「何ですか、万事屋さん」
「いやぁ……またバッサリいっちまったモンだなァ、と」
「……色々事情があったんです」
「あ、悪ィ」
「へ? 何でですか?」
「イヤ、アレだろ? 女が髪切るっつったら、失恋って相場があるんじゃねーの?」
「……一応、まだ失恋してないと信じてるんですが」
「あ、そう?」
「理由は、もう悔しくて情けなくて腹立たしくて、
股ぐら蹴り上げたくらいじゃ収まらないので、聞かないでください」
「……ハイ。聞キマセン」
「はぁ……」
「……ま、いいんじゃね?」
「え?」
「何があったか知らねェけど。短いのも似合ってんじゃね?」
「ほ、ほんとですか!? 可愛いですか!?」
「ま、俺はいいと思うけど?」
某月某日
短い髪もたまにはいいと思った。洗うのも楽だし。
3.
某月某日
万事屋さんがパフェを奢ってくれたから、今日は素敵なパフェ記念日。
「パフェは幸せの代名詞だと思うんですよ」
「何言ってやがる、いきなり」
「物事はいつだって突然ですよ。ラブストーリーなんてその典型じゃないですか」
「それはドラマじゃねーか」
「現実はドラマより奇なり、ですよ」
「てめーの存在が一番『奇なり』なんだよ」
「副長には万事屋さんの優しさの半分も無いんですね」
「あのヤローと比べてんじゃねーよ」
「比べてほしくなかったら、私に優しくしてくださいよ」
「あァ?十分優しいだろうが」
「どこがですか」
「てめーのバカバカしい会話に付き合ってやってる時点で、十分優しいだろ」
「……」
某月某日
今日はバカ記念日。誰が何を言おうとバカ記念日。バカを滅する日。
4.
某月某日
一昨日からの雨が降り止まない。
雨は嫌い。動きが制限されるから。
「で、なんでウチに来てんの」
「見廻り行くとずぶ濡れになるじゃないですか」
「ウチに来るまでに十分濡れてんだろ」
「水も滴るいい女?」
「自分で言ってんじゃねーよ」
「実際、屯所でサボってると副長がうるさいんですよ」
「あー。うるさそうだもんな、あのマヨラー」
「でしょ?」
「だからって、ウチに来る必要ねーじゃん」
「……もしかして、邪魔、ですか?」
「邪魔っつーか」
「邪魔なんですか! でも万事屋さんいつも暇そうじゃないですか!
私が邪魔になるような事なんて何一つやってた試しがないじゃないですか! ド暇ですよね年中無休で!!」
「オィィィ!! ド暇とか言うんじゃねーよ! 俺だって忙しい日もあるっての!!」
「ジャンプ片手に説得力ないですよ」
「う、うるせーよ。今日はアレだよアレ。休業日なんだよ。万事屋は、年中無休24時間開店のコンビニとは違うんだよ」
「ああ、週休6日くらいですか?」
「……イヤ。確かにそんくれェ仕事無ェけどよ」
「……私が来たら、迷惑ですか?」
「迷惑っつーか……女一人でホイホイ来てんじゃねーよ」
「何でですか?」
「男はバカな生物なんだよ」
「そうですね」
「イヤ、そこは嘘でも否定するところじゃね?」
「で? バカだから何なんですか?」
「だから……期待すんだろ」
「期待って、何をですか?」
「…………」
「……別に、期待してもいいです、よ……?」
某月某日
ちょっとだけ雨の日が好きになった。
5.
某月某日
今日も雨。
万事屋さんは珍しくもお仕事お疲れ様です。
「ああん、ひまぁ。暇すぎるぅ!!」
「俺は暇じゃねーよ」
「私は暇なんです!!」
「だから俺にどうしろってんだ!?」
「私に遊ばれてください」
「てめっ、表出ろコラァ!!」
「ヤですよ。雨だし」
「大人しく部屋に籠ってろ。俺は仕事あんだよ」
「……なんでみんな仕事なんですか。私がせっかく休みだっていうのに」
「あァ?そういうモンだろ、ここは。全員一度に休みなんか取れるか」
「別にここはどうだっていいんです。私が言いたいのは、どうして週休6日の万事屋さんが、今日に限ってお仕事なのかと」
「知るか」
「あーあ……デートの約束、してたのに。雨だし、万事屋さんは仕事入っちゃうし」
「ぶっ!?」
「うわっ、きたなっ! いきなり何するんですか!」
「それはこっちのセリフだ! で、でで、デートだぁ!? 誰と誰がだよ!?」
「だから、私と、万事屋さん」
「……はぁっ!?」
「こうなったら仕事先に押し掛けようかなぁ。でもウザイ女だって思われるのもイヤだし。
ねぇ、副長だったらどう思います? 付き合い始めたばかりの相手が仕事先に来たら。
やっぱり迷惑かなぁ。あー、迷惑かも。副長もやっぱそう思います?
副長? どうしたんですか? 大丈夫ですか?」
某月某日
いきなり副長が機能を停止したおかげで非番返上で仕事。
腹が立ったから副長のお茶に七味唐辛子入れてやったけど反応無し。
仕方ないから布団の中へと蹴飛ばしてやる。
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