真選組日誌
1.
「私、考えたんですけど。
江戸の治安を守る立場として、やっぱり住民の皆様に愛される真選組であるべきなんですよ」
「あァ? どうだっていいだろ、んなこたァ」
「いやいや、トシ。
そんなことないぞ!
皆様に愛されてこその真選組だ!!」
「んで、そんなこと言い出したってこたァ、
何か思いついたことでもあるってことかィ?」
「愛されるための秘訣。それはズバリ、マスコットの存在ではないかと!」
「はっ。くだらねェ」
「くだらないかどうかは、コレを見てから言ってください!」
「あ? ……って、テメェそれはっ!!?」
「ジャスタウェイぃぃぃぃっ!!!!」
「ほー。よく出来てるじゃねーかィ」
「でしょー? 苦労したんですよ、コレ。
微に入り細に入り、正確に再現してみました」
「お前なに作ってんのォォォォっ!!!??」
「懐かしいなー。
俺にも、江戸一番のジャスタウェイ職人になるって誓った頃が―――」
「あるのかよ!!?」
「あ、気をつけてくだせェ。近藤さん」
「お?」
ドォォォン…!!
「だから言ったじゃないですか。
微に入り細に入り再現した、って」
「やっぱりな。
どうせこんなこったろーと思ったぜィ」
「マスコット兼、対テロ用武器ってことで、お得感倍増」
「するかァァァァっ!!!!」
「イヤ、ね? これじゃあ愛されないから。むしろ住民の恐怖心煽るだけだから。むしろテロリストだから」
「いやだ。
私、エロリストなんかじゃないですよ」
「それは土方さんのことでさァ」
「誰がエロリストだァァァァァっ!!!?
って言うか、どうしてテメーらだけ無事なんだオイぃぃぃぃっ!!!??」
「どうしてって言われても」
「これが世の摂理でさァ」
「ああ。そうか」
「んな摂理があってたまるかァァァっ!!
って、近藤さんも納得してんじゃねーよっ!!!」
2.
「マスコットが駄目なら、次の手段は着ぐるみですね」
「テメー、懲りてねェのか」
「まぁまぁ、そう言うなトシ。
コイツだって色々と考えてるんだよ」
「そうですぜィ。
多少の失敗で目くじら立てるなんざ、土方さんは頭が固すぎるんでさァ」
「そうですよ、この石頭。マヨラー。女の敵」
「……楽しいのか? 俺を苛めて楽しいのか、コノヤロー」
「楽しいですぜィ?」
「叩き伏せた瞬間を想像しただけで、興奮しますね」
「テメーら刀抜けェェェェ!!!」
「それより本題に入ります。局長」
「テメー無視してんじゃねェよ!!」
「局長のえいりあん姿、あれ、意外と好評だったみたいなんですよね」
「そ、そうか?」
「だから着ぐるみ路線ってワケかィ」
「単純ですけど、やっぱり好評なものは取り入れるべきだと思うんです」
「さすがですねィ、近藤さん。
人心掌握の術を自ずとわかってるんですねィ」
「はっはっは! あんまり煽てるな。テレるだろ!」
「だから俺を無視してんじゃねーよ!!!」
「なら、無視しないであげまさァ」
「その代わり、着ぐるみ役は副長で決定ですね」
「頑張れよ、トシ!」
「頑張れるかァァァァ!!!!」
3.
「アレも駄目コレも駄目って。
副長はどこかのお姑さんですか」
「誰が姑だコラ」
「あながち間違いでもねーや。その表現」
「テメェ総悟! 刀抜けェェェェ!!!」
「オイオイ。落ち着けよ、トシ」
「そうですよ。
血圧上がってぽっくり逝っちゃいますよ。お姑さんなんですから」
「上げさせてんのはてめーだろーがァァァァ!!!」
「で、次のアイデアがあるんで?」
「はい。副長が非協力的なので、こうなったら私が身体張るしかないかな、と」
「……もう好きなだけ勝手に張ってろ。俺の知らないところで」
「トシ、どうした? 疲れでも溜まってるみたいだぞ」
「土方さんはもう少し気楽になった方がいいでさァ」
「誰のせいだと思ってやがる……」
「話進めますね?
早い話が、衣装替えですよ。
隊服の上着の裾をもう少し伸ばしてワンピースタイプにして、ロングブーツ履いて」
「ミニスカポリスじゃねーかィ、そりゃ」
「あ、わかります? ダメですか?
せっかく身体張るんだから、この脚線美でも披露しようかと思って」
「みみ、み、ミニスカァァァ!!!??
い、いいいいい、いいいや、い、いいんじゃないかっ!? なァ、トシ!!?」
「近藤さん。アンタも落ち着け」
「え。決定ですか、これ」
「いーんじゃねェかィ?」
「やった! じゃあ明日からさっそくそうしますね!」
「……い、いいのかな。トシ。勝手に隊服変えても」
「どうせすぐ飽きんだろ。放っとけ」
4.
「副長。ちょっとお話いいですか?」
「あァ? どうした―――って、その格好で座ってんじゃねェェェ!!!」
「だったらどうすればいいんですか。立ったまま話せと?」
「着替えて来いっつってんだ!」
「いいじゃないですか。これが私の隊服なんですから。ミニスカポリス」
「よくねェ! 中が見えるだろ!
てめーには恥じらいってもんが無ェのか!!?」
「そこに視線が行く方がイヤらしいんですよ。
あー。副長ってばイヤらしいんだー!」
「てめーは今すぐ慎みと恥じらいってヤツをどっかで買ってきやがれ!!」
「そんなもの後生大事に抱えてたら、真選組隊士なんてやってられません」
「オイ。いつから真選組はお前にとって、恥知らずの集団になったんだ?」
「自分の胸に手を当てて、よく考えてみてくださいよ」
「俺が恥知らずなのか? 俺が恥知らずだとてめーは言いたいのか?」
「よくできましたー」
「『よくできました』じゃねェェェ!!!」
「落ち着いてください、副長。
高血圧と脳卒中で倒れたらどうするんですか」
「誰のせいだと思ってやがる」
「それはまぁ、自己管理の不備でしょう。
そうなったところで、私は面白いだけなんですけど」
「……いいからとっとと本題に入りやがれ!」
「あ。そうでしたね。
もう。副長が脱線するから」
「脱線させてたのはてめーだろうが!!」
「すぐに他人のせいにしないでください」
「その言葉、そっくりそのままてめーに返してやる」
「じゃあ熨斗つけて返品します。あ、受取拒否は不可能ですので」
「……で、結局、本題は何なんだ」
「それがですね」
「あァ」
「容量の都合で、次回に続きます」
「なんだそのオチはァァァ!!?」
5.
「副長〜……」
「なんだ。情けない声出しやがって」
「死ぬほど寒いんですが」
「雪が降るくらいだからな。そりゃさみーだろ」
「特にこの生足が」
「って、さりげなく晒してんじゃねェェェ!!
ミニスカ止めればいいだけの話だろーがァァァ!!」
「止めたら江戸中の損失ですよ」
「あァ?」
「私のこの脚線美が拝めなくなるなんて」
「……自分で言ってんじゃねェよ。
それより見廻りはどうした。さっさと行けよ」
「だから寒いんですってば」
「オイィィィ! 寒さで職務放棄する気か、てめーはァァァ!!?」
「副長ってば鈍いですね。
寒いから一緒に来てほしいって言ってるんですよ」
「わかるか!!」
「来てくださいよ〜。人肌恋しいんですから」
「オイ……」
「あと風避けに」
「てめーは俺を何だと思ってやがる!?
介錯してやるから腹切れェェェ!!!」
6.
「で、話ってのは何だ」
「私って、可愛いじゃないですか」
「……そーだな。かわいいな」
「副長に言われると気持ち悪いですね。棒読みだと尚更」
「てめーが言わせたんだろォがァァァ!!」
「同意を求めただけじゃないですか。
まぁそれはそれとして。私が可愛いのは誰もが認める事実ということで」
「俺は認めたくねェ。少なくとも性格に関しては認めたくねェ」
「あ。じゃあ外見は可愛いって認めるんですね?」
「その性格がすべてをぶち壊してんだよ」
「男騙すのに必要なのは、外見と口先ですよ。性格は要りませんから」
「騙してんのか!? てめー、男騙してきてんのか!!?」
「一般論ですよ。
私は騙すよりも、からかいたい派です。特に副長を」
「そうか。なら腹切れ」
「切れと言われて素直に切るような、そんな安い女に見えるんですか、私は?」
「切腹に安いも高いも無ェ!!」
「と言いますか、相談事があったんですけど」
「聞きたくねェよ。
てめーの相談なんか、ろくでもないことに決まってやがる」
「酷いなぁ。深刻なんですよ?
局長まで関わってきちゃってるんで、もう相談できるのは副長しか」
「あァ? 近藤さんが? どういう事だ!?」
「いや、私、可愛いじゃないですか」
「そこか!? そこに戻るのか!!?」
「戻るんですよ。
そこなんですよ。問題は。ああ、私って罪作りな女……」
「自覚があるなら腹でも切ってろ。喜んで介錯してやる」
「遠慮します。
ま、結論だけ言いますね」
「最初から結論だけ言えよ」
「脱線させたのは副長ですよ。
―――とにかく、私があんまり可愛いものだから、ファンクラブができちゃって」
「見る目の無い集団だな、オイ」
「『ミニスカポリスに捕まり隊』って、センスも何も無いクラブ名。笑っちゃいますね」
「さすが見る目の無い集団のセンスだな」
「そのセンスの無いファンクラブ会長が、局長なんですよ」
「…………冗談だろ?」
「さすがの私だって、冗談だって思いたかったです」
「……何やってんだ、あの人はァァァ!!?」
「お願いですから止めてやって下さいよ、副長。
副長がそんなセンスしてる分には大笑いですけど、局長じゃ哀れすぎます」
「てめーはサラリと俺を苛めてんじゃねェェェ!!!」
7.
「副長。あけましておめでとうございます」
「あァ?
……ああ。だから今日は大雪なのか」
「なんですかソレ。失礼ですね。
もっとこう、他に言うべきことがあるでしょう。私に対して」
「脳ミソ沸きやがったか?」
「……死んでくれません? お願いですから死んでくれませんか?」
「無駄ですぜィ。何を言っても」
「あ。沖田隊長。あけましておめでとうございます」
「今日は着物かィ。似合ってるじゃねーかィ。可愛いもんでさァ」
「そう、それ!
その言葉が欲しかったんですよ、私は!
ですから副長。今からでも遅くないです。私の美貌に対する賞賛の言葉を!」
「んなもの強要してんじゃねェ!!」
「無駄、無駄。
土方さんには、美的センスも他人への思いやりも皆無でさァ」
「だからこそ言わせたいんですよ。
なんか、『勝った!』って思えるじゃないですか。ちょっとした優越感?」
「あァ。それは確かに言えるねィ」
「でしょう?」
「言わねェぞ! 絶対に言わねェからな!!」
「新年早々ケチですよ。この人」
「新年早々頭の固い人ですねィ」
「新年早々人を不愉快にさせてるのは、テメーらだろォがァァァ!!!」
8.
「はぁ。カブトムシ探し」
「将軍のな」
「だからってカブトムシ……」
「仕方無ェだろ。上からの命令だ」
「ねぇ、副長。
私たちはいつから、そんな便利屋集団に成り下がったんですか?」
「言うな」
「でも。カブトムシ如きで真選組出動させるなんて、バカ殿ですか。ヤツは」
「……何だかな。
今日に限っては、尽くテメーに同意したい自分が、妙に気持ち悪ィんだが」
「確かに気持ち悪いですね。副長に同意されても」
「ま、言いてェことはわかるが、これも仕事だ。割り切れ」
「腰に差した刀が泣きそうですね。カブトムシ探しなんて」
「それ以上言うんじゃねェ。頼むから」
「あ。そっか! 探しに行くんじゃなくて、こっちに集めちゃえばいいんだ。
で、その中から、えっと、なんでしたっけ。その瑠璃ちゃんを探す、と」
「あァ? なんかいい方法でもあるのかよ」
「それはですね―――」
「みんな、聞いて〜!
将軍様の命令で、今すぐカブトムシをたくさん集めなくちゃならないの〜!
いや〜ん、私困っちゃう〜〜、助けて〜〜〜!!」
「―――ほら。
ちょっと泣き落としたら、江戸中のバカな男たちが自主的に集めてくれましたよ。カブトムシ。
この中にいませんかね。その瑠璃ちゃんとやら」
「……てめー、男誑かしてんじゃねェよ。腰に差した刀が大泣きしてっぞ」
(なんとなく、封神演義の妲己ちゃん風に)
9.
「街もテレビもバレンタイン一色ですね。
何を浮かれてるんだかって感じがしません?」
「こういうものは、女なら誰でも浮かれるモンだと思ったけどな?」
「男も浮かれるものだと思ってましたけど。
副長も浮かれてないですよね。
最初から諦めてるんですか?
モテないからチョコ貰えるわけがないって、諦めてるんですか?」
「うるせー、このバカ。
てめーこそ、渡す相手も無ェだけだろ」
「失礼な。私は単に、ここに入った時に、女という性を捨てただけです」
「そーかよ。まァどうでもいいけどな。
ついでだ。その荷物、近藤さんに持って行ってくれ」
「えー? か弱い女の子に、力仕事命じるんですか?
鬼ですか。鬼ですよ。鬼決定ですよこの鬼副長ってば」
「女捨てたんじゃなかったのかよ!?
なに捨てたそばから拾ってんだテメーはァァ!!?」
「イヤですね。
『臨機応変』って言葉が、何のためにあると思ってるんですか」
「少なくともてめーのためじゃねェよ。
単に男にチョコやるのが面倒なだけだろ、テメーは」
10.
「副長の『土方スペシャル』って、いつ見てもすごいシロモノだと思いません?」
「すごいなんてモンじゃねェぜィ。
人間の食べ物を犬の餌に昇華できるのは、土方さんくらいのものでさァ」
「ええ? 犬の餌?」
「なんでィ。文句でもあるのかィ?」
「そりゃありますよ。
犬の餌だなんて、失礼な」
「珍しい。アンタが土方さんの味方するなんて」
「誰が味方ですか。
私が言いたいのは、犬の餌なんて言ったら、犬が可哀想だってことですよ」
「ああ。なるほどねィ」
「あんなの、犬だって食べませんよ。
もはや『食べ物』という括りを逸脱した何かですよ。『土方スペシャル』は」
「となると、アレはもう産廃かもしれねーなァ」
「あ、それだ! 産廃だ、産業廃棄物!!
それじゃあこれから、副長のことは『産廃処理場』と呼びましょう―――」
「てめーらァァァ!!! なに好き勝手言ってやがんだ!!!??」
「お。現れましたぜィ。産廃処理場が」
「地獄耳なんですね。産廃処理場って」
「んな呼び名つけてんじゃねェェェ!!!!」
11.
「あれ? 副長」
「あ?」
「袖のボタン、とれかけてますよ?」
「あァ……なら誰かに」
「私、つけてあげましょうか?」
「…………」
「……どうかしたんですか?」
「てめー……変なモンでも拾い食いしたんじゃねェのか?」
「はい?」
「それとも熱か!? 熱でもあるんじゃねェのか!!?」
「ちょっと……」
「そんな女らしい事を言う人間じゃねェだろ、てめーは!!
もういい。休んでろ。今日は休め。寝てろ、頼むから!」
「……侮辱罪で訴えて勝ちますよ」
12.
「副長ー! この新しい隊服どうですかー?」
「っっ!!!??
てっ、てめー何て格好してんだオイィィィ!!!??」
「コンセプトは『エロカッコイイ』なんですけど」
「誰もそんなコンセプト求めてねーよ!!!」
「そうですか? 市中の評判はよかったんですけど」
「行ったのか!? んな格好で見廻り行ったのか!!?」
「好評でしたよ。これで真選組のイメージもアップ! って感じが」
「するか! 逆に品性疑われるだろーが!!」
「問題ないですよ。そんなの元から疑われてますから」
「オイ」
「というわけで、この隊服、認可くださいよ。
暑い夏を乗り切るには、これくらいエロカッコイイ服じゃないと」
「却下に決まってるだろォがァァァ!!!」
「えー。副長のケチー」
「てめーはそんなに恥を晒して回りてェのか?」
「ちっとも恥ずかしくないですよ。エロカッコイイってのは一般的に認められたファッションで―――」
「それは胸のある人間だけが認められる格好だろうが」
「…………」
「わかったらさっさと元の隊服着てろ」
「……失礼しますっ! このバカ副長!!!」
「誰がバカだコラァァァ!!!」
13.
「沖田隊長。相談があるんですけど」
「どうしたんでィ。さっきの格好はやめたのかィ?」
「私、この頃はやりの女の子になりたいんですよ」
「は?」
「で、小さいお尻と子猫の肌ってのは、条件満たしてると思うんですよ」
「それはどこのキューティーハニーでィ」
「変わるわよ、って?
そう! 変わりたいんです! プクッとボインに変わりたいんです!!」
「それでなんで俺に聞くんでィ」
「え? だって他に相談できる人いないですし」
「……俺も男なんだけどねィ」
「当たり前じゃないですか。それがどうしたんですか?」
「……なんか土方さんの気持ちがわかったような気がしまさァ」
「は? 何がですか?」
「こっちの話でさァ」
「そうですか。で、胸が大きくなる方法は?」
「……豊胸手術でも受けたらどうですかィ」
「そんなお金がどこにあるんですか」
「土方さんのツケでやれば無問題でさァ」
「あ、なるほど! その手がありましたね!
副長をぎゃふんと言わせられて見返すこともできて、一石二鳥!?
ありがとうございました、沖田隊長ー!」
「―――今回ばかりは、土方さんに同情しやすぜィ。
アレが相手じゃあ、先が思いやられるどころの話じゃないでさァ」
14.
「あの。すみません。胸を大きくする方法、知りませんか?」
「……は?」
「だから、胸を大きくする方法」
「ウチ、万事屋なんですけど? 美容整形外科じゃないんですけど?」
「その美容整形外科に行ったら、ぞっとしない方法だったんで。
万事屋なら、他にいい方法知らないかなって思って来てみたんだけど」
「知らね―――…イヤ、あると言えばあるけどな」
「マジですか!?」
「何だったら彼氏に聞け。喜んでやってくれっぞ」
「いないんですけど。そんな物体」
「イヤ、物体ってお前ね……」
「知ってるんだったら教えてくださいよ! ケチケチしないで!
お金なら払うから! 副長のツケで!!」
「ツケって無理だから。
いつも朗らかキャッシュでポン、って言葉知らねェの?」
「金の亡者ですか?」
「うっせェェェ!!
こちとら、心まで貧しくなる寸前なんだよ!!!」
「とっくに貧しそうなんですけど……あ。イエイエ。なんでも。
じゃあお金払いますからー。副長をぎゃふんと言わせたいんですよー!」
「ただの痴話喧嘩じゃねーか!!
帰れ帰れ。俺には痴話喧嘩に首突っ込む趣味はねーよ」
「誰が痴話喧嘩!?
もう! 結局男なんて誰も彼も役立たずなんだから!!!」
15.
「スミマセン、万事屋のお兄さん! 胸の話なんですけど!!」
「ぶはっ!!!?」
「……汚いですね。ちゃんと拭いてくださいよ」
「俺じゃねェ! お前の開口一番のせいだろうがァァァ!!」
「え? なんでですか?
仮にも万事屋なら、いつ何が起こっても揺るがない精神を身につけてないと」
「何事にも想定外ってモンがあるだろうがよ……」
「まぁ確かにソレはそうですよね。
私もまさか、男に胸揉ませたら大きくできるなんて、想定外でしたし」
「……イヤ。仮にも女なら、そういうコトはもうちょい慎みとか持った方がいいんじゃね?」
「慎み持ってたら、真選組にいられませんもん。
ソレはソレとして、まぁ確かに私もビビったりはしたんですけどね。
まぁ方法がわかったなら、やるコトは一つですよ。ハイ」
「……ハイ?」
「だから、ハイ。今なら揉み放題ですよ? ほらほら」
「イヤ、ちょっ、おまっ!!? 『ほらほら』じゃねェよ!! もっと自分を大事にしろって!!!」
「大事にしてますよ。だから、副長をぎゃふんと言わせて精神的充足を得るんじゃないですか!」
「なんか違うだろ! なんか違うからソレは!!! って言うかマジでストップ! マジで! マジでお願い――」
「テメェらァァァ!! 何やってんだコラァァァ!!!!」
「あ、副長。え、なんで? なんで副長がここに? って言うかアレ? 副長?
え、ちょっと!!? 待ってくださいよ! 私まだ万事屋のお兄さんに用事が!!!」
「何が用事だ!? さっさと帰るぞ!!!」
「やっ、襟首引っ張るのやめてっ! 痛いから!!
それじゃ万事屋のお兄さん。続きはまた今度ってコトで―――」
「してんじゃねェ!!!」
「―――怒るくれェなら、さっさとモノにしとけよ。あのヤロー。
でもちょっと勿体無かったか? イヤイヤ。さすがにあの女じゃ……イヤでもやっぱ勿体無かったような」
16.
「仕方ないから、地味にサプリ飲んでクリーム塗って、胸大きくすることにしました」
「で、なんでいちいち俺に報告するんでィ」
「え? だって他に話す人いないですもん」
「……そーかィ」
「って言うか高いですよね、これ。ふざけんな」
「でも払ったんだろィ」
「請求書の宛先は副長にしておきましたよ」
「マジでか。あの人が大人しく払うとは思えね―――」
「てめェっ!! この請求書の山は何だコラァァァ!!!」
「来ましたぜィ、早速」
「何だって言われても。そこで大人しく黙って払うのが男ってモンじゃないですか?」
「払えるかっ!! 大体、何をこんなに買い込みやがった!!?」
「豊胸サプリとクリームだそうですぜィ」
「なおさら払えるかっ!!!」
「ちょっ、沖田隊長!! なんでバラすんですか!!?」
「いずれはバレることですぜィ? 請求会社に問い合わせれば一発でさァ」
「それはそうなんですけど……」
「ったく……
その、何だ。あのな……別に俺は、胸のある女がいいとかは思ってねェんだが」
「…………いや。別に副長の好みなんて関係無いですよ。
私の目的は、胸を大きくして副長をぎゃふんと言わせることであって」
「……………」
「という訳ですから、それちゃんと払ってくださいね。もうクーリングオフできないですから。
それじゃ失礼しますね」
「……………………」
「良かったですねィ、土方さん。脈ありじゃねーですかィ」
「どこにあるんだ、んなモン!!!?」
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