3年Z組の仲間たち
1.
「全員クジ引いたか、女子?
なら、一斉にクジを開けろ」
「どうして文化祭の劇の配役をクジで決めるのかしらね」
「それが一番楽だって、先生が言ってたアルヨ」
「楽だけど、人には向き不向きがあると私は思―――
ちょっと待って! 何コレ! 私、姫だって!!?」
「おー。女子は決まったみたいだな、姫役。
次は男子な。クジ引きに来い」
「イヤぁっ! 私、裏方やりたかったのにっ!!」
「諦めなさいな」
「大丈夫アルヨ! お姫様にはぴったりネ!」
「うぅ……」
「よーし。男子にもクジは行き渡ったみてーだな。
クジ引いたのがお前らの役だから。異議申し立ては却下だかんな」
「先生! 王子役が見当たらないんですけど」
「あァ? いるだろ、ここに」
「は?」
「王子役は先生です。以上、今日のロング終了―――」
「ふざけんじゃねェェェ!!!」
「教師がクラスの劇に出るなど、聞いたことがないぞ!」
「お妙さぁん、神楽ちゃぁん……
どっちでもいいから、役代わって……」
「え、マジ!?
そこまで俺が王子様なのが気に入らないんですか!!?」
2.
「てめーら、席つけー。
今日は銀八先生が、ためになる話をしてやろう」
「先生がためになる話をしたことなんて、あったっけ?」
「反面教師っつー意味なら、十分ためになってる存在だろ」
「あ。なるほど。
土方くん、頭いいねぇ」
「コラそこ。
失礼なこと言ってんじゃねーよ。
ついでに俺の目の前でイチャつくのも禁止」
「だっ、誰がイチャついてるんだコラァァァ!!」
「先生ー。
妙な言いがかりつけないでくださいー」
「あ? 言いがかりじゃねぇよ。純然たる事実じゃん。
お前が男と喋ってるだけで、イチャついてるように見えんの。
わかったら、今すぐその男の半径2mの領域から出ろ」
「そんな無茶な」
「無茶じゃねー。やればできる。お前はやればできる子だ」
「先生。『やればできる』は魔法の合言葉ヨ。
軽々しく口にしていい言葉じゃないネ」
「お前、それはどこの魔法高校の校歌だ」
「え、校歌なの、それって?」
「そうヨ。知らなかったアルか?」
「知らなかったよ。
そんな校歌って、なんか恥ずかしくないのかなぁ」
「この年になって『魔法』は恥ずかしいだろ」
「心配無いネ。
似合いもしないのに道徳の授業をやろうとする先生の方が恥ずかしくて見てられないアル」
「……それもそうか」
「か、神楽ちゃん。流石にそれはちょっと……その通りだとは思うけど」
「ほー。てめーらはそういう目で俺を見ていたワケですか。
つーか、せめて俺の目の前でそういう話はやめてくんね?
いくら俺でも、ちょっと切なくなっちゃうんですけど?」
3.
「お。雪じゃん、雪。
おーい、お前ら。教科書閉じろ。
今から外に出て、雪合戦してこい」
「先生ー。授業中なんですが」
「気にすんな。
授業はいつでもできるが、初雪は一年で今日だけなんだぞ」
「この程度の雪で合戦なんかできるわけないネ」
「って言うか、寒いです」
「子供は風の子って言うだろーが。
寒いとか文句言ってんじゃねーよ。
いいから黙って雪と戯れてこい」
「先生が授業サボりたいだけじゃないんですか?」
「もうどんな理由でもいいから。好きなの選んで納得しとけ。
これから先生は、ストーブと一対一で熱く語り合うんだからな。
お前らは素直に喜んで校庭を駆け回って来い」
「……どうする?」
「図書室で自習でもするアルヨ。あの先生は見捨てた方が身のためネ」
4.
「正月からこのメンツかよ。変わり映えしねェのな、お前らって」
「……誰。先生呼んだの」
「知らないネ。私違うアル」
「私たちも呼んでないわ。ねぇ、新ちゃん?」
「でもそうなると、誰が」
「俺が呼ぶわけ無ェだろ。コイツを」
「その通りでさァ。ただ先生の目の前で、全員で初詣に行く話をしただけでさァ、俺は」
「ま、そういうワケで。沖田君に呼ばれたんだよ」
「元凶はお前かァァァァ!!!」
「元凶言うなィ。別に呼んだわけじゃ無ェじゃねーか」
「お前らどくアル。私、前からコイツ気に入らなかったネ。ここでトドメ刺すヨ」
「刺せるもんなら刺してみやがれ。この酢昆布女が」
「お前、酢昆布をバカにするなァァァァ!!!」
「……お正月から賑やかだね」
「さ。早くお参り済ませましょう?」
「姉上。さりげなく僕の財布からお賽銭出さないでください」
「あ、土方くん! お賽銭は5円か20円なんだよ!
『ご縁がありますように』『二重に縁がありますように』って」
「あァ? そうなのか?」
「物知りだなァ、お前。
んじゃ、『姫始め』って知ってっか?」
「え? なんですか、それ?」
「知らねェの? まだまだ子供だね。
よし! それならこれから、先生が実地で教えてあげよ――」
「教えてんじゃねェ! このエロ教師が!!」
「こんな先生放っておいて、早くお参り済ませましょう。ね?」
「え? え? もしかして皆知ってるの? 教えてよ!!」
「知らない方が幸せですよ、これは……」
5.
「腐ったリンゴの話、知ってっか?」
「何の話アルか、それ」
「えっと、確かね。
箱の中のリンゴは、一つ腐ると他のリンゴも腐っていくんだけど」
「人間はそうじゃねェってヤツだろ」
「先生が道徳の授業ですかィ。
こりゃ、明日は大雪で学校は休校でさァ」
「お、マジでか。そりゃラッキー……じゃねェェ!!!
なに、俺が道徳やるのはそんなにおかしいのかコノヤロー!!」
「うん。おかしい」
「目の前の長髪並におかしいアル」
「貴様、それはどういう意味だ」
「おかしいってより、怪しいってのが正しいだろィ」
「貴様ァァァ!!」
「か、桂くん、落ち着いて!
怪しいってだけで、カツラだなんて思ってても言わないよ、誰も!!」
「てめー、それフォローになってねェぞ……」
「え? あ、えっと……」
「やっぱりヅラだと誰もが思ってるってことでさァ」
「ヅラに決まってるネ。だって名前が『ヅラ』ネ、『ヅラ』」
「これは地毛だと何度言えばわかるんだ、貴様らァァァ!!!」
「イヤ、今はヅラ談義の時間じゃねーから。
ってお前ら聞いてる? 先生の話聞いてる?
……誰も聞いてねェじゃねーか。先生グレるぞ、オイ」
6.
「神楽ちゃん、お妙さん。
ちょっと相談しても、いいかな?」
「どうかしたの?」
「水臭いネ。いつだって相談に乗るアルヨ、私たち」
「ありがとう。
……あのね。気のせいかもしれないんだけど。
なんだかこう……登下校中、常に誰かに見られてるような気がして……」
「ストーカーアルか! ストーカーアルネ!!」
「だ、だから、私の気のせいかもしれないんだけど……」
「でも、気のせいじゃなかったら大変よ?
ストーカーなら、徹底的に叩き潰してこの世から滅殺しないと」
「め、滅殺って……」
「姐御の言う通りネ。
そんな女の敵、生かしておく理由が無いアルヨ」
「そ、そんなものかなぁ……
……なんだか、こうして話してると、やっぱり気のせいじゃないかって思えてきたけど……」
「そうそう。気のせい気のせい」
「せ、先生!?」
「なんで先生が断言するネ、そんなこと」
「だって俺、そいつの登下校、ずっと見守ってやってるけど、そんなストーカーいねェし」
「え? 見守……?」
「……先生が、見守ってるんですか?」
「おー。俺の未来の奥様よ?
俺の目の届かない登下校中に何かあったら大変じゃん。
だから、陰日なた無く見守ってやって――あれ? 何ですか、お前ら。んな殺気立っちゃって」
「あら、先生。聞いてなかったんですか?」
「ストーカーは滅殺ネ。生かしておく理由が無いネ」
「イヤ、ちょっと待て。
誰がストーカー――っぎぃあァァァァ!!!!」
「――オイ。どうしたんだ、アイツら」
「あ。土方くん。
なんだかね。ストーカーは滅殺だって、お妙さんと神楽ちゃんが」
「あァ? ストーカー? 銀八が?
確かにやりそうと言や、やりそうだがな」
「世も末だね」
「……そうだな。
あんなのが教師やってることが、世も末だ」
7.
「はい、沖田くん。これ、神楽ちゃんとお妙さんと私から」
「お。今日はバレンタインかィ」
「これは土方くんの分」
「お、おォ。悪ィな」
「これは桂くん、これは長谷川くん、これは……」
「オイオイ、俺には? 先生には無いの?」
「ありますよ、ちゃんと。はい」
「お、さすが俺の生徒だね……って、チロルチョコ2個!? マジでか!!?」
「マジアル」
「他の皆も同じですよ」
「二人とも。
先生なんか放っておいて、こっちでチョコ食べましょう」
「そうネ! 私、これ買ってきたアルヨ!!」
「うわ、大きい!
私はね、この生チョコ。これだけで1000円もしたんだよ」
「たまにはそんな贅沢もいいじゃない。
はい、これ。二人への友チョコよ」
「姐御、愛してるアル!」
「ありがとう、お妙さん!」
「って、俺らよりいいチョコ食ってんじゃねェェェ!!
今日は何の日だオイ!? 言ってみろオメーら頼むから!!!」
「今日? 美味しいチョコが食べられる日じゃないんですか?」
「間違っても、男のためにチャラつく日じゃないネ」
「そうよね。こんな美味しいもの、自分たちで食べなくちゃ」
「先生も食いたいから! 先生も食いたいからその高級チョコォォ!!」
「諦めた方がいいですぜィ」
「アイツらから貰えただけでも、ありがたいと思ってろよ……」
8.
「あ、先生いた! もう授業始まって―――なに食べてるんですか?」
「あ? 栄養補助食品だよ。俺専用だけどな」
「栄養って、それどう見てもチョコなんですけど」
「だから俺専用っつってんじゃん。糖分は必要不可欠な栄養なんだよ。俺にとって」
「栄養かどうかはともかくとして、授業始まってるのにチョコ食べてるなんて、
それって教育委員会とかにバレたらマズくないんですか?」
「バレなきゃいいんだよ、バレなきゃ」
「私がバラしたらどうするんですか」
「え、バラすの?」
「私はどっちでもいいんですけどぉ?」
「……お前、何ですか、そのふてぶてしい態度は。減点対象だよ?」
「何を減点するって言うんですか。それこそ教育委員会に通報しますよ」
「わぁったよ。口止め料やればいいんだろ、やれば」
「やった! それ期間限定発売のチョコでしょ? 食べてみたかったんですよ」
「目聡いな、オイ。仕方無ェな。こっち来い、こっち」
「はぁい」
「口開けろ、口」
「あ〜ん」
「結構素直なヤツだね。ほれ」
「――ん〜。美味しい! これ今度買おうかなぁ」
「そーだな。買え買え。けどその前に、ちょっとこっち向け?」
「ん? なぁに―――っ!!?」
「―――お前って、ほんっと素直だねェ。素直すぎんのも問題だよ?」
「〜〜っ!!!?? せっ、せせ、せ先生っ!!!? い、今の、今の……っ!!!」
「あァ? 口止め料だよ。大人の口止め料ってヤツ?」
「だ、だだだからって!!! セクハラ! 今のセクハラ!!! 教育委員会に言ってやる!!!」
「なに言っちゃってんの。最初に口止め料要求したのはお前じゃん。
口止め料つったら、キスってのが相場だろ? 世間の常識だろ?」
「そ、そんな常識知りません!! 先生のバカぁぁぁっ!!!!」
9.
「あー。今年の遠足にどこに行きたいか、希望取ることになったから。
各自意見を言え。できれば安いとこでな」
「ハイ、先生! 食い倒れツアーって言うのはどうアルか!?」
「お前が食い倒れたいだけだろ」
「先生! 映画を見るってのはどうですか? 濃い恋愛映画を!!」
「志村(姉)と観たところで恋は芽生えねーよ、ゴリラ。
つーかよォ。一日中映画館って、どんな不健康な遠足だよ、ソレ」
「先生。拷問博物館とかどうですか?」
「お。いいですねィ、それは」
「なに意気投合しちゃってんの、お前ら。
博物館行ったって拷問できるワケじゃないから。処刑もできねェから」
「ちっ」
「イヤ、なに舌打ちしてんの。
つーかお前ら、もっと高校生らしい遠足場所を挙げろよ」
「ならテメーはどこがいいんだよ」
「俺に聞くんじゃねーよ。希望取ってる意味ねェじゃん」
「……先生ー」
「ん? どうした? 行きたいトコあっか? 先生とラブホ?」
「何言ってるアルか、この変態教師は」
「あ、あの……水族館行って、ペンギンの羽もらいたいなぁ、って……」
「…………え?」
「水族館……?」
「だ、ダメ、ですか……?」
「……イヤイヤ! ダメじゃねェよ! むしろそういうの望んでたワケだよ!
ハイ決定! 行き先水族館に決定! ペンギンで決まり!!」
「なんか、毒気抜かれましたねィ……」
「本当ね……」
「え? え、いいの、かなぁ。本当に?」
10.
「先生はものすごい疑問があるワケですが」
「? どうしたんですか、急に?」
「夏だろ、今は」
「暑いですよね。クーラーつけていいですか?」
「あー。つけろつけろ。設定温度は28度な」
「マジですか」
「教頭がうるせェんだよ。
それより、俺の疑問にそろそろ答えてもらっていいですか?」
「はい」
「夏と言えば、プールじゃね?」
「それより海って気がしますけど」
「それもそうだけど、まずはプールじゃん。近場でプールじゃん」
「まぁ、それは確かに」
「だろ? そう思うだろ?
なのに―――なんでこの高校は水泳の授業がねェんだよ!!?」
「学校にプールが無いからじゃないですか?
って、先生の疑問って、もしかしてそれだけ?」
「プールが無い高校って何だよお前。
高校にはプールを設置する義務はねェのか!? 俺の楽しみは!? 夏の憩いのひとときは!!?」
「楽しみって」
「お前らの水着姿に決まってんだろ。
スクール水着ってのがまた燃えるんだよなー。これがあるから夏を越せるってヤツ?」
「……先生。セクハラで訴えてもいいですか?」
11.
「そういや期末試験、明日からだったか」
「先生はいいですよね。お気楽で」
「お前、わかってんの?
お前らの答案を採点すんのは俺だよ? 一人で百人単位の答案採点すんだよ?
試験終わってお前ら天国俺地獄、だよ」
「でも成績関係ないからいいじゃないですかー。
って言うか、暇ならこの問題教えてくださいよ」
「それ数学の問題じゃねーか。俺を誰だと思ってんの」
「くるくるパーの銀八せんせ?」
「おまっ! それが担任に対する態度!!?」
「だったらこれ教えてくださいよ。確率の問題」
「イヤ、だからお前、俺の担当科目が何だと思ってんの」
「でも教師なら、高校生レベルの問題くらい解けなくちゃ」
「無理だから! いくら何でも数学は無理だから!!
せめて古典持ってこい。懇切丁寧手取り足取り教えてやっから。な?」
「古典なんて。暗記するだけの科目に、先生の手はいらないですよ」
「……そーですか」
「って言うか、結局数学教えてくれないんですね。役立たず」
「てめっ、コノヤロー。だったら特別補習してやるよ。今から。実地で」
「え、イヤ、あのその……ちょっ、やだぁっ!!!」
12.
「なんつーかな。
俺にも夢ってモンがあるワケですよ。教師になったら絶対にコレは、ってのが」
「先生に? 意外〜。
どうせ、生徒と教師の禁断の恋したいとか、そういうコトじゃないんですか?」
「イヤ、それもあるけど」
「あるのかよ! マジで!!?」
「その前段階として、また別にあるんだよ。わかんねェかなー」
「……生徒からバレンタインチョコ貰いたい?」
「お。ソレもあったな。じゃあソレ3番目に入れとけ」
「まだあるんですか?
えー……どうせ先生のコトだから、ろくでもないコトだと思うんですけど」
「ろくでもないって決めつけんじゃねーよ。男のロマンなんだぞ」
「男のロマンなんて、私にわかるワケないですよー」
「そりゃそうだな。お前も一応、女だしな」
「一応って何ですか、一応って!!?」
「アレだよアレ。
試験前とかになるとさ。女子生徒がこっそり俺のトコにやってきて、
『試験問題教えてくれたら、私の全部、先生にあ・げ・るv』的な―――」
「……先生。現実見ましょうよ」
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