よろず困りごと承れません
1.
「ちょっと聞いてよぉ! もうイヤ! 確かに気持ちはわかるし私だってはしゃぐ気にはなれないけど、みんな辛気臭すぎ!! 沖田隊長どころか副長まで辛気臭いと居場所無いっていうかからかう相手もいないし面白くないしイライラしてもうイヤって感じ!!」
「……それでなんでウチに来るんですか、お嬢さん?」
「え? だって万事屋さんでしょう?」
「万事屋は失恋レストランじゃねェんだけど」
「……サトリ! 妖怪サトリがいる!!?」
「妖怪ポストか!? 妖怪ポストに手紙入れに来てんのかお前は!!?」
「あ、ごめん。ねずみ男だった?」
「おまっ!? ソレは無ェんじゃねーの!?」
「どうせ私の人生茶番劇よ! 弾けて飛ぶのよ!! ねぇマスター、作ってくれよぉ、涙忘れるカステラ〜」
「なんでカステラ!? なんでそこでカステラ!? てか誰がマスター!!?」
「うわぁん! 副長のバカヤロー! どうせ男の恋愛は名前を付けて保存だチクショー!!」
「……なんか酔ってねェ? お嬢さん、飲んできてねェ? ここ来る前に酒飲んできてねェ?」
「お嬢さんじゃない! って可愛い名前があるもん、このバカチン!!」
「バカ………ハイ。スミマセン」
「可愛いよね!? 私、可愛いよね、万事屋さん!?」
「ま、まァ可愛い方じゃねェの? 中身はともかく……」
「ほら! 私可愛いのに!! こんなに可愛いのに!! ねぇ万事屋さん!!」
「イヤ、俺にも坂田銀時って立派な名前があんだけど……」
「こうなったら上書き保存な女の恋愛を見せてやる! ねぇ万事屋さん!?」
「だから確かに万事屋だけど名前が……って、ちょっと? さん? 何してんのォ!!?」
「……銀さん。せめてそういうことは人目につかないところでしてくださいよ」
「それは無理ネ。銀ちゃん初めてモテて、浮かれてるアルヨ。ここは私たちが大人になるネ」
「浮かれてねェから!! まるで浮かれてねェから!!! てか助けろよオイィィィ!!!!」
2.
「あ。万事屋さんだ」
「げ。あン時の酔っ払い女……」
「ひっどー! 何ですかその言い方は! 仮にも女の子に向かって!!
『待望の映画化! ただし上映劇場は光栄劇場一ヶ所のみ』みたいなっ!」
「んじゃ、俺はこれで……」
「ちょっ、待ってよ!
せっかくだからドライブ連れてってよぉ。地平線の向こうとか日本の夜明けとか」
「お前は俺の彼女か!?」
「気にしない気にしない。ほら。
『失恋レストラン今日も開店! ただしお客は一人きり』みたいなっ!」
「……お前、素でテンション高いのな」
「そう? よく言われますけど。
まぁいいじゃない。乗せてくださいよ、それ。ラッタッタ」
「……ハイ?」
「だからその原チャリ。ラッタッタでしょう? そう聞いたけど」
「おまっ、これベスパだから! 銀サンの原チャリはベスパだから!!」
「別にいいじゃん。ラッタッタで。可愛いし」
「可愛くねーよ!
ベスパのことはベスパと呼べ! ラッタッタなんて侮蔑すんじゃねェ!!!」
「お、おおぅ……万事屋さんがマジ怒りですよ、コレ」
「分かったら二度と来んな。さっさと仕事に戻れ、この酔っ払い女」
「えー? 仕事なんか打っ棄ってデカダン酔いしれドライブしちゃえー」
「って、お前なに勝手に俺の原チャリ乗ってんの!!?」
「これスイッチ? お、エンジンかかった! 適当にやってみるもんだね」
「念のため聞きますけど、お嬢さん、免許は……?」
「そんなもの。運と勘でどうにでも」
「ならねェから! どうにもならねェから!! 頼むから降りろ銀サン一生のお願い!!」
「じゃあドライブ連れてって?」
「……行きたくねェけど屯所までな」
「えー? マジですかー?」
「『えー?』じゃありません、この子は!! 税金泥棒らしく仕事しろってーの!」
「万事屋さんって、お父さんみたい……
『漂う哀愁、ただし夕暮れの砂浜限定』みたいなっ!」
「意味わかんねーよ、ソレ。で、乗るのか? 乗らねーのか?」
「乗る! 乗りますー! ……ありがと、万事屋さん」
「……金は払えよ」
「……けち」
3.
「あ、万事屋さんだ。おーい! ってアレ? 万事屋さん? 万事屋さーん!!
無視すんなこの天パァァァ!!!」
「オメーこそ俺の努力を無視すんじゃねーよ、この酔っ払い女!!!」
「酔っ払ってません〜。いくら私でも、仕事中にお酒飲んだりしません〜」
「素で酔っ払ってんだよ、オメーは。と言うか近付くんじゃねェ。血くらい拭いて帰れよ」
「だからって逃げなくてもいいじゃないですかー! えーい、付けちゃえ」
「何しちゃってんのお前ェェェ! ちょ、洗濯大変なんだからやめてお願いだからァァァ!!」
「じゃ、旦那。あとの事はよろしく頼みましたぜィ」
「え、イヤ、ちょっ、沖田君!? この子、お仲間でしょ? 君んトコの子でしょ!?
って言うかオメーも無視してんじゃねェェェ!!」
「沖田隊長はS星の王子ですから、放置プレイが大好きなんですよ。
大丈夫です。私一人でも屯所までちゃんと帰れますから」
「そーか。なら今すぐ帰れ」
「……そんなつれない万事屋さんに、えい」
「……マジで何しちゃってんのォォォ!!? これ一張羅! 銀さんの一張羅ァァァ!!!」
「だって。万事屋さんがつれないんだもん」
「拗ねたって可愛くねェんだよ! 血なんか付けてどうしてくれんだよマジで!!?」
「自業自得だもん」
「明らかにオメーの身勝手が生み出した悲劇だろーがァァァ!!!」
「……万事屋さん」
「あ? なに、クリーニング代でも出してくれんの? なら俺の心の慰謝料も上乗せで」
「そんなに叫んで、喉痛くなりません? 疲れませんか?」
「…………誰かこの子どうにかして。頼むから」
4.
「万事屋って暇なんですねー」
「……そういう真選組もえらく暇そうじゃないですか、この税金ドロボー」
「暇じゃないですー。今だってお仕事の真っ只中ですー」
「……ウチに来て寝っ転がってアイス食うのが仕事ですか。って言うかアイス代払えコノヤロー」
「これは私がお土産にって買ってきたアイスですー。心配しなくても万事屋さんの分もちゃんとありますって。ハイ」
「お、悪ィな―――ってそうじゃねーよ。何でウチでごろごろしてるのが仕事なんだよ」
「だって副長が見張ってろって」
「あ?」
「いや、私もよくわからないですけど。少しでも不審な動きしたら迷わず斬れって命令が」
「……オイオイ。善良な一市民捕まえて何する気だよ。俺が何したってんだよ、あのヤロー」
「さぁ?」
「理由も知らねェのかよ!? お前一応当事者だろーが!!」
「理由なんか関係ないですよ……副長の命令は絶対なんですから」
「あー……まだ未練たらたらってワケですか」
「なんでそうなるんですか!?」
「そのツラと声でわかっだろ」
「……そんなもんですか?」
「そんなモンだよ。いい加減新しい相手でも見付けろよ。俺以外で。そして二度とウチに来んな」
「ひどっ! なんでそんなこと言うんですか!!」
「酷い目に遭ってんのはこっちなんだよ! テメェと話してんと疲れるんだよ!!」
「そんなの私が知ったことじゃないですー!」
「知ってろ頼むから!!」
「新八ィ。どうしたネ。中に入らないアルか?」
「イヤ……アレはアレで二人の空間が出来上がっちゃってるから、入りにくいなぁ、って……」
「ふーん。なら私、定春の散歩もう一周してくるネ。あとは若い二人に任せてしっぽりさせるヨロシ」
「どこでそんな言葉覚えたの、神楽ちゃん……」
5.
「…………」
「どうかしましたか、銀さん」
「腹でも下したアルか?」
「……ヤツが来る」
「はぁ?」
「未知との遭遇アルか!? 銀ちゃん、いつの間に未知との交信できるようになったネ!?」
「俺は逃げるからな! 地球と俺の平和はお前らに任せたからな!!」
「あ、ちょっと! 銀さん!!?」
「……どうしたアルか、銀ちゃん」
「こっちが聞きたいよ。ってチャイム鳴ってるよ。はいはーい」
「―――こんにちはっ! って、あれ? 万事屋さんは?」
「あー……そういうことか」
「え?」
「よくわかったアルな、銀ちゃん。本能アルか?」
「あのー。よくわからないんですけど」
「要するに、銀さんはいないってことです」
「あの卑怯者はたった今逃げていったネ。光の速さで窓から脱出してったアル」
「逃げたって…………もしかして、私から?」
「はぁ……なんかスイマセン」
「気にすること無いネ! 普段女に構われたことの無いヤツだから動揺してるだけアルよ」
「…………うん。ありがと。じゃあ今日はおいとまするね。ごめんね、お邪魔して」
「―――なんか可哀想な気がするな、あの人」
「悪いのはあの天パーアル! 女心を踏みにじった報いは受けさせてみせるネ!!」
「ほどほどにしときなよ、神楽ちゃん……」
6.
ピンポーン
「はいはい……って、あ。先日はどうも」
「ううん。私こそごめんね。迷惑かけちゃって」
「イヤ、僕らは別に……すみません、今日も銀さんいないんです。いえ、今日は逃げたとかじゃなくて最初からいなくて!!」
「あ、うん。気にしないで。いないの確認して来たから」
「イヤほんとすみません。神楽ちゃんが全力でもって銀さんに言い聞かせたっていうかあれは単に殴りかかってただけだと思うけどいえ今後はもういきなり逃げ出すことはないと思いますんで……って、え? 確認してきたんですか?」
「うん。それでね、あの……今まで勝手に押し掛けてきてごめんなさい、って。そう伝えてもらっていいかな」
「え、いや、でも……そういうことは自分でちゃんと伝えた方が……」
「でもこれ以上迷惑かけたくないから……それから、これ」
「何ですか、この封筒」
「今までのは、万事屋の仕事として押し掛けられてたって、そう思ってもらえばいいから。その依頼料ってとこかな」
「も、もらえませんよ、こんなの!!」
「いいからいいから。じゃあ万事屋さんによろしくね」
「え、あ、ちょっと! 待ってくださいよ!!」
7.
新八がから受け取ったという封筒には、結構な額の金が入っていた。
彼女が言う通り依頼料なのだとして、それに迷惑料を足したところでまだ余るような、そんな額。
もちろん依頼料など特に体系だてて決めている訳ではない。
依頼人が払いたければ高額だろうとも喜んで貰うのが銀時だ―――普段であれば。
だが今回ばかりは勝手が違う。
今までの事を金で片付けられるのが気に入らない。
迷惑をかけたつもりがあるならば謝りに来いと、そう言ってやりたい。
更に新八と神楽の視線が痛い。
何やら軽蔑の眼差し的な視線を投げつけてくる二人に、いい加減辟易してきたところだ。
そして。
二日に一度はやってきて好き勝手に寛ぎ、素面で酔っ払ったかのように騒いでいたが、すでに二週間、まるで姿を見せていない。
元に戻っただけだとわかっていても、それがどうにも落ち着かない。
だから、という訳では無いのだが。
目的も無くふらりと外に出る事が多くなってしまった。
どこにいたところで落ち着かないのは同じこと。
どころか外に出れば尚更。女特有の甲高い声にすら反応してしまう。
それが一体何を意味するのか、銀時自身にもわからなかったが。
「ちょっ、副長! 待ってくださいよ!!」
甲高い声にまたもや銀時は反応する。
別人だと言い聞かせながらもつい周囲を見回してしまうのは最早日課に近い。
だが。今日は。
斜め前方に、見覚えのある後ろ姿。駆け寄る先は、これもまた見覚えのある人物。
「何言ってるんですか!
自分で足長いとか言う人に限って、自分の足が短いことにコンプレックス持ってるんですよ!」
男が何を言っているかまでは聞き取れないが、彼女のやたらとテンションの高い声はどうしてだか銀時の耳に届く。
男にこづかれながらもけらけらと笑う彼女の様子は、どう見てもじゃれあいだ。
「……うまくいってんじゃねーかよ」
ついこの間、失恋レストランだの別名保存の恋だの嘆いていたのはどこの誰だったのか。
二人は銀時に背を向けたまま、その存在に気付くことなく歩いていく。
その光景に、不意に、今まで落ち着かなかった理由というものを納得する。
だがすでに遅きに失していた。
―――今夜あたり、どこかで失恋レストランが営業していないだろうか。
そんな事を考えながら、銀時はその場に背を向け街の中に溶けていった。
8.
「あーっ、だりィ。オイ、ババア。もう一杯寄越せよ」
「しみったれた面して飲んでんじゃないよ。それに金あるのかィ。この年中金欠乏症が」
「うっせー。金ならあんだよ、いくらでも! ほらよ!!」
「おや珍しい。ならこの中から溜ってる家賃も頂こうかね」
「勝手にしろよ勝手に。わかったら早く酒寄越せってんだよ」
「……で、何があったんだい?」
「いいだろ、別に。男には黙って飲みたい時ってもんが……」
「言っとっけど、うちは失恋レストランなんか兼業してないからね」
「ぶっ!!?」
「おや、図星かィ」
「ババア!! 嵌めやがったな!!」
「誰も嵌めてないだろう。それにしても、失恋して飲んだくれるタマかィ、アンタが」
「うっせーっての。そういう気分なの、そういう。客にいちいち口出しすんじゃねーよ」
「シケた面で飲まれちゃ店の空気もシケるんだよ。―――ま、だからって」
「お登勢さーんっ! 『今日も涙忘れるかすていら一丁ぅぅっ!! ただしお味は泪酒』みたいなっ! きゃはははっ!!」
「このテンションも困り物だけどねィ」
「……何でコイツが来るんだよ」
「とにかく、アンタも。うちは失恋レストランじゃないって、何度言ったらわかるんだィ。
そんなに飲みたいなら失恋した者同士、酒飲んで傷口舐め合ってな!」
「……怒られちゃった」
「テメーのせいじゃねーか」
「すみません。あの、迷惑だろうし、私はこれで……」
「……待てよ」
「はい?」
「ババアも言ってただろ。失恋レストランだ、失恋レストラン」
「え、でも……万事屋さん、失恋したんですか?」
「人の傷口抉ってんじゃねーよ!」
「あ、は、はい、ごめんなさい……でも、それなら尚更、私がいても迷惑なだけじゃ……」
「いいから来いって。散々迷惑かけた自覚があんなら、同じ迷惑かけられても文句はねェだろ」
「はぁ……」
9.
「っていうか万事屋さん、失恋してたんですか」
「だから傷口抉ってんじゃねェっての」
「だって。恋愛してる気配なかったですもん。あ、注ぎましょうか?」
「悪ィな……仕方無ェだろ。一瞬だったんだぞ、一瞬。イヤ、一瞬ですらねーよ。
他の男とイチャついてんの見てショック受けてよォ。
あ、俺アイツに惚れてたのかってさ。始まる前から終わってんじゃねーか!」
「ああ、それ切ないですよねぇ。私も今回そんな感じですよ」
「今回?」
「避けられて物凄いショック受けて。何でこんなにショックなんだろって考えてみたら答えは単純。
いつの間にか好きになってたんですよね、その人のこと」
「避けられたって、お前、てめェんとこの副長とイチャイチャ歩いてたじゃねーか、今日も」
「え? ……別にイチャイチャなんかしてませんけど。って言うか副長のことはもう過去だし。
言ったじゃないですか。女の恋は上書き保存だって」
「待て待て待て待て! じゃあお前の失恋相手ってのは誰なんだよ」
「誰って……誰かさんですよ。って言うか今日は万事屋さんのための失恋レストランなんですから!
私じゃなくて万事屋さん! 一体誰なんですか、その相手って」
「誰って……だから誰かさんだよ」
「そんなんじゃわからないですよ。ささっ、これ飲んで。酒の勢いでパァっと言っちゃえ!」
「『言っちゃえ!』じゃねーよ!! 大体、聞いてどうすんだよ」
「えーと……慰めてあげる?」
「何で疑問形? 何でソコ疑問形?」
「気にしないでくださいよ。せっかくの失恋レストランですし、
こう、『エカテリーナ! どうして君はエカテリーナなんだ!』的に盛り上げてみようかと」
「いつ俺がどっかの女帝に惚れましたか!?」
「やだなぁ。軽くエスプレッソきかせた冗談ですよ」
「エスプリな、エスプリ」
「そう、それ」
「…………」
「えっと……冗談言ったら気が紛れるかと思ったんですが……ダメ、でしたか?」
「……ダメだわ。全っ然ダメ。お前わかってねェだろ」
「ごめんなさい……」
「失恋した男を女が慰める方法は一つに決まってんだよ。身体で慰めてあげる、的な」
「そんなもんですか。じゃあ慰めてあげますのでホテル行きますか?」
「……イヤイヤイヤイヤ! ちょっと待て! お前酔ってる? 酔ってるだろ!!」
「酔ってませんー。とりあえず今のがエスパーナな冗談だと言われても受け止める余裕がある程度には
私の思考は正常に機能してますよー、だ」
「エスプリな、エスプリ。やっぱお前酔ってるだろ。女が軽々しく身体投げ出してんじゃねーよ」
「万事屋さんって意外と古風? 身持ち固い女が好みですか?」
「好みとか好みじゃねェ以前に一般論的に」
「安心してください! 私まだ処女ですから!!」
「……なにいきなり高らかに宣言しちゃってんのォォォ!?」
10.
「や、だから私は身持ちが固いって話を」
「ついさっき身体投げ出してたじゃねーか!!」
「いや、それは、その……」
「あ? はっきりしねーな、オイ」
「うぅ……わ、私のことはどうだっていいんです! 今は万事屋さんのことで!」
「その俺が聞いてんの。なに、今度の上書き保存は俺でいこうって腹ですか?」
「そ、そんなこと!」
「別に俺は構わねェけどよ」
「……え?」
「あー。酔ってんだな、俺。酔った勢いってヤツ―――上書きすんなら、俺にしろよ」
「そ、そんなこと言われても……酔った勢いで言われても嬉しくないですよ」
「真剣だったらどうなんだよ」
「し、真剣って……そ、そんなことあるわけないじゃないですか!
やだなぁ、万事屋さん。テニプリな冗談言わないでくださいよ」
「マジだけど、俺は」
「マジじゃないですよ! 一時の酔いに身を任せちゃダメですよ!
酒に酔っても失恋した自分に酔っちゃダメですよ!」
「酔ってねーよ。かつてねェほどクリアだよ、俺の頭は」
「だったら何で私なんですか! 一番ありえない選択肢じゃないですか!」
「好きだから」
「……え?」
「だから、好きなんだよ。理由なんてそんだけでいいだろ?」
「そ…そんなわけないじゃないですか! 迷惑な人間を好きなわけ……」
「あん時は鬱陶しいって思ったんだよ。だから言ったじゃねーか。
他の男とイチャついてんの見て―――ってもういいだろ? わかっただろ? もう言わせんじゃねーよ」
「で、でも……」
「でももストもねーよ。で、俺がこんだけぶっちゃけたワケだし?
俺だってお前が誰に失恋したか聞く権利あるよな?」
「……もうわかってるんじゃないんですか?」
「知らねーなァ。なら質問変えてやろうか。身持ちが固いって言うお前が俺をホテルに誘った理由は?」
「……絶対わかってるじゃないですか」
「わかってねーよ。早く言ってくんねェと、心臓破裂すんぞ、俺」
「パーンって弾けちゃえ」
「ちょっ、おまっ! マジで!? マジでそんなコト言うワケ!?
って言うか俺だけあんなコト口走って恥ずかしいじゃん!!」
「だって、だって! こんなのありえないですもん! 絶対ドッキリでカメラが仕掛けてあっ―――っ!!?」
11.
「―――これでも信じねーの?」
「はっ、は、ははははは反則ですよ今のっ!! 不意打ちでき、きき、キスなんてっ!!!」
「大人の色恋に反則もクソもねーよ。で? 言いたい事は?」
「反則ですよぉ……」
「違うだろ」
「……嘘じゃ、ないんですよね?」
「言ってんじゃん」
「プリプリな冗談じゃないんですよね?」
「エスプリな、エスプリ」
「う、嘘だったら針千本口の中に押し込みますよ!」
「わかったわかった」
「っていうか切腹ですからね!!」
「マジでか」
「謝るなら今の内ですよ」
「すみません、俺が悪かっ……ねェじゃん! 俺何もしてなくね!? 何で俺謝ってんの!!?」
「女心を踏みにじったからじゃないですか?」
「それお前だろ。現在進行形で俺の男心踏みにじってんじゃん」
「気のせいですよ。被害妄想ってヤツですよ」
「おめーが断言してんじゃねェェェ!!
んな暇あったら俺の質問にさっさと答えろってーの。……何で俺、こんなのに惚れてんだ?」
「…………私が聞きたいです、それは」
「あ? やっと信じたわけですか。また振り出しに戻ったらどうしようかと俺は」
「お望みなら戻しますけど」
「戻すんじゃねェェェ!! って言うか言え! 話進めてくれ! 結論言ってくれよ頼むから!!」
「…………」
「オイオイ。今度はだんまりですか?」
「……ほ、本当に嘘じゃ、ないんですよね……?」
「嘘ならお望み通り切腹してやるよ」
「…………あの」
「おう」
「わ、私、その……万事屋さんのことが、その……」
「好き、です」
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