自分が世界で一番だと笑う傲岸娘。
素直にならない我侭娘。
ああ。一体こんな女のどこに、自分は惚れてしまったのか。
WORLD is mine.
血生臭い戦の跡。風に乗って流れてくる微かな鼻唄。
なんとも呑気で不釣合いだが、彼女らしいと言えば彼女らしい。
調子外れな鼻唄を頼りに風上へと向かえば、案の定。探し人が瓦礫の上に腰を下ろしていた。
周囲には人も天人も合わせて屍累々。足元の屍を無造作に踏みつけている彼女自身、その着物は赤く染まり、顔にも血が飛んでいる。それでも自身の血は一滴たりとも流してはいないのだろう。
死者を冒涜するな、などと言うつもりはない。綺麗事など、戦場に足を踏み入れて幾日もしない内に無意味だと悟った。
無意味ではあるが、流石に屍を踏みつける趣味は銀時には無い。避けながら歩み寄れば、その気配に気付いた彼女―――が鼻唄を止めこちらに視線を向ける。
「どうしたの?」
「メシの時間だっての」
そのためにわざわざ呼びに来るなど、どこのお母さんだよ俺は、などと銀時は胸中でボヤく。
夕方になったら帰れと幼少時に躾けられなかったのか。問い質したところで、昔と今では状況が違うと答えが返ってくるだけに違いない。確かに状況は大分違う。
それでも、辛気臭い戦場にいつまでも残る神経が銀時にはわからない。少なくとも今日の戦いは終わったのだから、さっさと引き上げればよいだろうに。
おかげで夕飯時になっても戻ってこないを周囲が心配する羽目になるのだ。
自分も含めたそんな周囲の心配を、彼女は一体どれだけわかっているのだろうか。わかっていないかもしれない。
歩み寄れば、頬にベタリと付着した血は、すっかり乾ききってしまっている。
それをやや強引に拭ってやり、「帰るぞ」と背を向ける。
てっきりそのままついてくるかと思いきや、思ってみない言葉が背中に投げかけられてきた。
「疲れて動けない。おんぶして?」
「ふざけんじゃねーよ。俺だって―――」
「して?」
疲れてる、と銀時が言いかけた言葉を押し返すように、はさも当然のように再度口にする。笑顔と共に向けられたそれはおねだりを通り越して、最早命令だ。
そして銀時は、の命令に逆らう事ができない。それをわかって言うのだから、タチが悪い事この上ない。
溜息を吐きながら、少しだけの近くに寄ると背を向けてしゃがみ込む。ややあって、背中に覆いかぶさってくる重みと柔らかさ、そして温もり。
腕が前に回され、甘えるように顔を首元へと埋めてくる。血の臭いを纏って。我が侭を通して。それでいてこんな甘え方を不意にしてみせて。これが意識的なものなのか、無意識なのか。どちらにせよこれのおかげで、結局のところ銀時は見切りをつけることができないのだ。
決して軽くはない身体。疲れている身体に鞭打って何でもないように立ち上がり足を踏み出したのは、男の意地以外の何物でもない。ここでフラつきでもしたら、末代までからかわれそうだ。
「お前、脚の骨折れてんだろ」
「……違うもん」
間を置いた否定の言葉。それは逆に銀時の言葉が正しい事を暗に伝えている。
普段から素直でないだが、せめてこんな時くらいは素直になってくれと切実に思う。
もし銀時が気付かなければ、無茶をしてでも明日も戦場に立とうとしたことだろう。骨折の事実などおくびにも出さず。素直ではない我侭娘は、意地っ張りでもあるのだ。
だが、それが周囲に迷惑も心配もかけたくないというの本音の表れだとわかるから、怒るに怒れない。
この調子なら、頑として骨折の事実を認めないに違いない。そちらの方が余計に周囲の心配を煽るのだと、はいつになったら気付くのだろうか。
少なくとも当分は気付く事がないのだろう。
意固地で負けん気の強い娘は、周囲を偽るための自分を作り上げるのに手一杯で、偽る相手がすでにそんな彼女の本心を見抜いていることなど、気付きもしないのだ。
それに、素直になれないをハラハラしながら見守って、それでも、戦場の中であってなお荒むことのない心と笑顔に、皆なにかしら救われている事など、気付かれなくてもいいのだ。
「今日のご飯、なに?」
「知らね」
「何か甘いもの食べたいなぁ」
呑気な質問に短く返してやれば、返ってきたのは返事と言うよりも甘えたおねだり。
勿論、とて今回のおねだりが通るとは思っていないだろう。戦場において贅沢などできるはずもない。
期待などしていなかったのか、銀時の言葉を待つこともなく、は鼻唄をうたう。この場にそぐわない、穏やかな歌。異質なのはか、それともこの場所そのものなのか。
それでもこの場所でなければ、二人は出会うこともなかったのだ。どこまでも不安ばかりの、この世界でなければ。
自分が世界で一番だと笑う勝ち気な傲岸娘。
素直にならない意固地な我侭娘。
それでもお前は、この世界で俺だけのお姫様。
<終>
「アナザー:ワールドイズマイン」を銀さんに変換したら萌え死にしたものだから、勢いで書き上げたブツ。勢いだけの産物なので、意味不明ですが書いた私は満足です。うん。
こんなの歌われたら車に轢かれてもいいよ。
や、その前に、抱きしめてもらうのが先か。「俺の方に惹かれるだろ」ってか……あ、ダメだ。その時点で死ねる。
今回、何となく攘夷戦争時代で書きましたが、現在のバージョンでも書きたい。ってか読みたい。です。誰か書いてませんか?(他力本願)
('09.05.31 up)
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