年中無休ロマンス
ふと、しみじみ思ったのだ。
「なんつーか……幸せだよなぁ」
そんな訳で、思ったままを銀時は口に出してみた。自然、笑みもこぼれる。
が、テーブルを挟んで向かいに座るは、食べかけのプリンを片手に目を瞬かせている。前振りも何もない銀時の言葉に戸惑っているらしい。
そして。
「銀ちゃん、頭でも打った?」
そんな結論に至ったらしい。
確かに、らしくもない台詞だとは思うし、何かそれらしい何かがあった訳ではない。
けれども不意に思ってしまったのだから仕方がない。
恋人と向かい合って、スーパーの特売で買ってきたプリンを食べる。言ってしまえばそれだけの、ただの日常。
たとえそれが安っぽいものであろうとも、その安っぽい日常がたまらなく愛おしくて幸せだと、何の前触れもなく思ってしまったのだ。
そしてその瞬間、するりと言葉は口からこぼれていた。
しかし、言われた方にしてみれば、あまりにも唐突に過ぎる言葉だろう。
それにしたところで「頭でも打った?」はないだろうが。いくら小首を傾げたその仕草が可愛かろうとも、その言葉はない。
あーもう気にすんな、と適当に手を振って、この話はこれで終わりとばかりに銀時は残ったプリンを口の中へかきこむ。微妙な気まずさのせいか、まったく味わえない。どのみち安物のプリンなのだが。
やはり、らしくないことは言うものではない。胸の内でこっそり溜息をついて空になった容器を捨てようかと立ち上がりかけたところで、もまた向かいで立ち上がる。
そしてそのままテーブルを回って、銀時の隣へと腰を下ろした。
「?」
「ん? 頭打った銀ちゃんの様子見なきゃって思って」
言葉の割には、心配するような色はその顔には窺えない。
どころか、にこにこと笑いながら、何をするでもなく銀時にすり寄ってくる。
「あぁ。うん。なんか幸せだねー」
「……頭でも打ったか?」
先程と同じ台詞を、逆の立場で返す。
幸せだということに同意はするが、さてはどのように返してくるだろうか。
少しばかり意地の悪い気持ちで待つことしばし。
にこりと微笑むが銀時の顔を覗き込んだかと思うと、その距離が見る間に縮まり、最後にはゼロになった。
それは一瞬。しかし、重なった口唇が離れたのもまた一瞬。再び重なる口唇と、絡み合う舌。お互いの口内を存分に貪ってからようやく離れれば、途端、が銀時の胸へと顔を押し付けてきた。髪から覗く耳が赤いことからするに、どうやら恥ずかしさが限界に達したらしい。
「お前、やっぱり頭打っただろ」
そもそも、から迫ってくることなど皆無に等しい。
迫られれば嬉しいが、一体何があったのか、とは思う。恥ずかしがることは目に見えているというのに。
しかしがそれに答えることはない。
まだ整わない息のまま、銀時の着物をぎゅっと握るだけだ。
そんなに銀時もまた黙り込んで、視界の端に映るの髪を何とはなしに弄ぶ。
「……なんかね。銀ちゃんがいなくなっちゃいそう、ていうか、儚そうな感じがして……やっぱり私も頭打ったのかなぁ」
「オイコラ。ソレはどういう意味だ」
「銀ちゃんが柄にもないこと言うのが悪いんだよ」
くすくす笑うに、言葉こそは怒ってみせるものの、銀時も苦笑するしかない。柄にもないことを口にした自覚は重々にあるのだから。それでも「儚い」とは、の視力だか感性だかを疑いたくはなる。
「ねぇ、銀ちゃん」
「ん?」
「どこにも行っちゃ、やだよ?」
「銀さんが置いてどっか行くワケねーだろ」
「ねぇ、銀ちゃん」
「ん?」
「大好き」
「…………」
途端、の髪を弄っていた手が止まる。
不意打ちにも程がある。
もちろん、恋人なのだから好かれている自信はそれなりにある。しかしはあまり言葉にしてくれないのもまた事実だ。普段であれば拝み倒したり逃げ道を塞いだりしてようやく聞ける言葉が、まさかこれほどあっさりの口から出てくるとは。
その髪を撫でていた手で自分の頭を掻きながら、さてどうするかと思案する。とは言え、それはものの数秒の話。
を抱いたまま、銀時は立ち上がる。
「銀ちゃん?」
「やっぱ頭打ったみてーだし、布団に運んでやるよ」
にやりと笑えば、その意図を正確に捉えたのか、が頬を真っ赤に染め上げる。
それでも嫌がる素振りは見せないのだから、承諾したとみていいのだろう。
「……銀ちゃんも頭打ったくせに」
「ああ。だから一緒に寝ような?」
こんな可愛い恋人が拝めるなら、何度頭を打っても構わない。
そんなことさえ考えながら、首まで赤くなったを隣の部屋へ運び込む。
何てことのないはずの日常に、どうしようもないほどの幸せを感じながら。
<終>
劇場版銀魂を観たら、なんかこう、銀さんに抱きつきたくなったのです。
そんなこと常日頃から思ってるだろ、というツッコミは無しの方向で。
('13.07.27 up)
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