「……なんで銀時にはわかっちゃうかなぁ」
「そんなもん決まってんだろ。愛だよ、愛」
「いらない」
「ちょっ、おまっ、即答かよ!?」

夜更けにがふらりと姿を消すのはいつものことで。
それを銀時が探すのもいつものこと。
このやりとりも、いつものこと。
冗談めかした愛の告白は今日も受け入れられることはなく、慣れきった落胆を押し隠して銀時はの隣へと腰を下ろした。
けらけらと笑いながら、は夜空を仰ぎ見る。
隔てるもののない空には、月が輝き、星が瞬いている。その下に血濡れた戦場があることなど、一瞬忘れてしまいそうだ。
だが現実は容赦がない。今日は何人死んだのか。明日は何人の天人を殺して、何人の仲間を失うのか。殺伐とした状況が日常と化した身に、この満天の星空は美しすぎる。
ところがにはそうでもないらしい。周囲の心配を他所にふらりと外へ出ては、飽きずに夜空を見上げている。
そんなを探し回るのは、実のところ骨が折れる。には「すぐに見つかっちゃう」と文句を言われるが、いつも違う場所にいるをあちこち探した末に、ようやく見つけ出すのが実際の所だ。にそれを言わないのは、惚れた女に対する単なる強がり以外の何物でもない。
の気が済むまで付き合って、塒としている寺まで連れ立って戻る。騒がしい日々の中、二人きりになれる時間などこんな時くらいだ。
交わす言葉は他愛のないものばかり。
だが、一度だけ。

「ほんと、どこにいても見つかっちゃうんだから」

それは、何気ない話の一つだったのかもしれない。

「いつか私がどこかに行っちゃっても、銀時ならきっと見つけ出しちゃうんだろうね」

笑ったに何と返したのか、今となっては覚えていない。
ただ、笑っているのに今にも泣き出しそうに見える、そんなの表情だけはいつまでも記憶に焼き付いている。



 
 
 
 
 
 
 
「……忘れねェもんだよな」

久し振りに見た昔の夢は、目が覚めてからも忘れる事がない。
これまでにも何度も見た夢だ。そのたび、から「早く探しだして」と催促されているような気になる。
なし崩しに終わりを迎えた攘夷戦争。気付けば銀時の前から姿を消していた
誰に聞いても何処を探しても、その存在の欠片さえ見当たらない。
万事屋を営み数多の情報が流れ込むかぶき町にあっても、消息の糸口すら掴めない。
そもそも江戸にいるのか、それ以前に生きているのか。それすらもわからないまま、それでも夢だけは見続ける。まるで諦めることを拒むかのように。
窓を開ければ、そこにはいつもと変わらぬ景色がある。景色とも言えない、かぶき町の雑多な町並み。
おそらく今日もを見つけることは叶わない。明日も、明後日も。それが日常だ。
だが。それでも。銀時は探し続けるのだ。一人隠れ鬼に勤しんでいる彼女を。
いつ見つかるかもわからない、見つかるかどうかすらわからない。
けれども一つだけは確実なこともある。
どれだけ苦労しようとも、見つけた暁には何事もなかったかのように伝えてやるのだ――「愛してる」と。
開け放つ窓から、一陣の風が吹き込んだ。
 
 
 
 
ひとつよがりの夢



 
――吹き抜けていった風に懐かしさを覚えたのは、きっと感傷的になっているからだろう。
あんな夢を見てしまったからだと、彼女は笑う。
夢は、かつての現実。忘れられない夢。忘れてはいけない過去。
この手にかけた天人は数知れず。犠牲になった仲間も数知れず。見捨てた仲間は――
目を背けていた。逃げ出した。それでも過去は変わらない。現実が消えてしまうことはない。
逃げて逃げて、その先に辿り着いたこの場所で、彼女は独り待っている。数多の無縁仏に囲まれて、赦されるのを待っている。
誰に赦されたいのかもわからないままに。
けれども――

『どこにいようと見つけてやるよ』

愛があるからな。
忘れられない過去の中でも、一際鮮やかに憶えている言葉。
どこまで本気なのか知れたものではない言葉は、しかし今は彼女がすがる縁となっている。
もし。もしかして。
いつか本当に見つけ出してくれたなら。この場所から掬い上げてくれたなら。
その時ようやく、赦されたと感じられるのかもしれない。
いつか差し出される手を夢見るように。
はそっと、瞳を閉じた。



<終>



BGMは「ひとつよがりの逃避行」。
歌詞の最後、「強がるんだ 何度でも 『見つけたよ』」ってのに、きゅんきゅんします。
TUMENECOさんの曲はどれも心に沁みます。そして妄想したくなります(笑)

('15.01.01 up)