幸せなまでの陽射しを浴びた日には



誰もが思わず笑顔になるような、そんな暖かな陽射し。
暑くもなく、寒くもなく。ただ穏やかに太陽が温もりを世界に振りまく。
とりたてて理由は無くとも、気候が最高だったというだけで、やや気分は上昇。
沖田もその例に洩れず、珍しくも機嫌良く見廻りから帰ってきた。
まずは落ち着こうと、自室に向かう。
途中、風にそよぐ洗濯物の群れを目にし、ふと一人の少女のことを思う。
この屯所内で働く女中にして、現在、沖田の彼女でもある少女―――のことを。
きっとこの洗濯物も、が干したのだろう。
それこそ今日の太陽のように、眩しくも穏やかで、誰もを幸せにするような笑みをその顔に浮かべて。
その姿を想像するだけで、どこか幸せな気分になれる自分が、沖田は決して嫌ではなかった。
鼻歌をうたいかねない、そんな気分で歩を進める。
そして。
 
 
向かった自室には、当のがいた。
 
 
天気がいいからと、布団も干していたのだろうか。
取り込んだ後なのであろう、畳んだ布団に抱きつくかのように。
それは幸せそうな笑みを浮かべたが、沖田の部屋の中で眠り込んでいた。
まずは目を瞬かせ。
そして、困ったように頭を掻きながら、沖田はぽつりと呟く。
 
「……ここまで無防備にされるってのも、嬉しいんだか哀しいんだかわからねーや」
 
恋人とは言え。いや、むしろ恋人だから、と言うべきか。
男の部屋で無防備に寝顔を晒すなど、誘っているのと同義である。
もちろん、恋人なのだから、身体を重ねたことが無いとは言わない。
だがそれは、数えるほどのこと。しかもいずれも、恥ずかしがるを、沖田が半ば強引にその行為に持ち込んだもので。
そんなだから、「男を誘う」などという考えは、まず思いつきもしないだろう。
だが、だからこそ余計に、情事の最中にが見せる痴態が、より艶めかしく、より扇情的に映るのだ。
 
ー。起きなきゃ、襲っちまいやすぜ?」
 
しかし言葉の内容とは裏腹に、その声音はひどく優しい。
毒気を抜かれるような、そんな幸せそうな寝顔に、沖田は苦笑する。
布団にもたれるようにして腰を下ろせば、の寝顔がすぐ近く。それを意図して、この位置に腰を下ろしたのだ。
の規則正しい寝息が聞こえるほどに、室内は静まり返っている。
その寝顔を眺め、起こさない程度にその顔にかかる前髪を梳く。
すると、心なしか、の笑みが深くなった。
気のせい、なのかもしれないが。
だが、気のせいであっても、今の沖田にとってはそれで十分。
 
「……たまにはこんなのも、いいもんでさァ」
 
いつものサディストぶりはどこへやら。
今日に限っては、のすぐ傍にこうしているだけで、満ち足りた気分になれる。
前髪を梳く手を止め、うっすらと開いたその口唇に、触れるだけの口付けを落とす。
そしてそのまま、の顔のすぐ隣に頭を下ろし、沖田もまた目を閉じる。
 
 
たまにはこんな、穏やかな日があってもいい。
それはきっと、暖かな陽射しと、穏やかなの寝顔のせい。
ただそれだけで、こんなにも幸せな気持ちになれるのだから―――



<終>



最初に考えてた結末と、180度変わってます。
いやもう何と言うか……あれですよ。ほのぼのもいいじゃないですか!!(←開き直ったらしい)