朝がいつもと違う理由ワケ



目を開けると、見慣れぬ天井が視界に入る。
同時に気付く、腕の重み。そして、寄り添う温もり。
そちらに顔を向ければ、そこには、一糸纏わぬ姿のが、穏やかな寝息をたてていた。
途端、昨日の記憶が蘇る。

見廻りの途中、偶然にと出会い。明日―――つまり今日が非番だと土方が何かの弾みで漏らすと、「なら、私の家でお夕飯、食べません?」とが誘ってきたのだ。
遅くなってもいい、仕事が終わるまで待っているから、と。
その言葉に甘え、膨大な量の仕事を無理矢理片付けてからの家に行けば、時刻はすでに夕飯の時分を過ぎた頃合。
それでもは嫌な顔一つせずに土方を出迎えた。
腕を振るったという料理を残さず食べ、我ながら似合わぬ賛辞を口にすれば、は照れたように頬を赤らめ。
その後は、自然の成り行き。
どちらからともなく抱き合い、口付けを交わし、身体を重ね―――そのまま、眠りに落ちたのだ。

を抱いたことは、今まで数え切れないほどにある。
家に招かれたことも、ここで同じように抱いたことも。
それでも、こうしての家で朝を迎えたことは、初めてだった。
忙しさを理由に、慌しい逢瀬がほとんど。
けれどもは、そのことに対して文句を言うでもなく。だからこそ、土方は余計に心苦しいのだ。
 


障子を通して入り込む朝日が、の穏やかな寝顔に降り注ぐ。
の寝顔も、見ることは滅多に無い。
その貴重なものを―――これほどゆったりとした時間を過ごせるという貴重さを愛おしむかのように、土方はの髪を優しく梳く。
起こさないように、優しく、静かにその髪を指に絡ませる。
少しでも長く、の寝顔を見ていられるように。
たったそれだけの、何でもないようなことにすら、土方は何かしら幸せめいたものを感じずにはいられない。
しかし、朝という事もあって眠りが浅かったのか、ややあって「ぅん……」とが目蓋を震わせる。
そのままゆっくりと開いた目蓋の中の瞳は、寝起きのためかぼんやりとしていた。
 
「悪ィ。起こしたか?」
「………………え?」
 
ふるふるとが頭を振る。
ぼんやりとしたその瞳に見つめられ、土方は鼓動が跳ね上がるのを感じた。
が、それは数瞬のこと。
徐々にの瞳が焦点を取り戻すにつれ、その頬にも赤みが差してくる。
そして最後には、火照った頬を両手で押さえ込んでいた。
 
「な、なんだか、その……」
「どうした?」
「……初めて、ですよね。こういうの……」
 
慣れない状況に、は恥ずかしげに俯く。
朝日に映える、赤く染まった頬。
それは、普段から目にしているの表情とは、また違ったもののようにも見える。
見慣れたはずのに、また新しい顔を見つけた気がして、土方は何とはなしに嬉しさを感じた。
 

「はい」

呼びかけると、気恥ずかしげに頬を染めたが、それでも嬉しそうに土方の目を真っ直ぐ見つめてくる。

その、土方の姿を映す、両の瞳も。
名を、言葉を紡ぐための、唇も。
どのような表情も似合う、その顔も。
白く柔らかく、そしてしなやかな、体躯も。

朝の光を浴びたのすべてが、土方の目には新鮮に映る。
抱き寄せて、その額に一つ、キスを落とす。
くすぐったそうにそれを受けるが愛しくて、土方は次々とキスを落としていく。
しかし、じゃれ合うかのようなキスは、やがて互いの唇の上で止まり、深いものへと変わっていく。
穏やかながらも、それでもお互いを求めてやまない口付けへと。
いつしか、土方がを組み敷くような姿勢になっていた。
それに気付いたが、困ったような表情を見せる。
 
「あ、あの……もう、朝なんですけど……」
「そうだな」
「起きる時間なんですけど……」
「起きてんじゃねーか」
「そっ、そういう意味でなくてっ!」
 
なおも言い募ろうとしたの唇を、土方は再び塞ぐ。
有無を言わさぬ、その口付け。
諦めたように、は土方の首に腕を回した。
顔から首筋へ、そして胸へと。降りてくる唇に、は甘い吐息を漏らす。
キスだけだというのに、今にも意識が飛びそうな感覚を覚えるのは、いつもと違う時間帯だからなのか。
しかしこれでは、せっかくの休日の半分が潰れてしまう。
朦朧とする意識の中、はそのことだけが残念でたまらない。
 
「土方さ……今日、お買物とか、なにか用事……ぁんっ!」
「あァ? せっかくの非番に、なんでそんなことしなきゃなんねーんだよ」
 
せっかくの非番だからこそ、買物をしたり、出かけたり。
やることなど、いくらでもあるだろうに。
 
「俺の用事は、お前だけなんだよ」
 
そんなことを言われてしまえば、に反論できるはずがない。
元より、反論などできる状態でもなかったが。
そのまま溺れるように快楽に沈むを、土方は満足げに見つめる。
成り行きとはいえ、自分の我が侭を通させてもらったのだ。
午後くらいはの望むとおりに過ごさせてやろうと、考えながら。
土方もまた、朝の日の中、快楽へと身を沈めていった。



<終>



書いてたら、まったく違う話になってたんですが……
ヘタレ攻(おい)のくせに、朝からサカるなよ!! と暴言を吐く馬鹿がここに一人。
いやでも……私、ヘタレ攻が好きです。かなり好きなんです。