言わない関係



に関するあれこれ。
 
黒い髪。
長い髪。
黒い瞳。
澄んだ瞳。
真選組隊士。
黒い隊服。
動物好き。
人間よりも動物のオスに興味を示す変わり者。
美人ではない。
けれども人目を引く。
表面上はクール。
だからこそ笑顔は貴重。
滅多なことでは動じない。
年寄りや子供には親切。
男からの求愛はシカト。
仕事熱心。
剣の腕はそこそこ。
伸びた背筋。
何に対しても物怖じしない。
揺るがない存在。
気になる存在。
かけがえの無い存在。
肝心なことを何も伝えられない存在。
 
 
 
「沖田隊長。歩きながら寝ないでください」
 
言葉と同時に後頭部に衝撃を受け、沖田はようやく我に返った。
振り向いた先には、今さっきまで沖田の思考を占めていたが、不満そうな表情で立っている。
そういえば二人で市中見廻りに出ていたのだ。
せっかく二人きりだというこの状況に、それでも考えに耽ってしまうとは重症だと、沖田は苦笑する。
 
「寝てなんかいやせんぜィ。に見惚れてたんでさァ」
「なにを言ってるんですか。もう一回殴って正気に戻してあげましょうか」
 
言うや、鞘に収めたままの刀を振りかぶる
どうやら先程の衝撃は、これだったらしい。
仮にも真選組隊士、仮にも剣を振るう立場の人間が、商売道具どころか、武士の魂とも言うべき刀で人を殴るというのは、どうか。
問題行動だと思いつつもそれに関しては指摘せず、「それは御免ですぜィ」と笑いながら手を振ると、は刀を腰に戻す。
同時に溜息をついたのは、諦めか呆れか。
それ以上は何も言わずに先を進むの後姿を、笑いながら沖田は追う。
しかし、これだけでは物足りない。
もっと構いたいのだ。
もっと構われたいのだ。
まるで子供のようだと、沖田も自覚はしている。
それでも。
 

「なんですか、隊ちょ―――っ!!?」
 
腕を引くと、が顔だけ振り向く。
不自然に途切れる言葉。沖田の顔があまりに近いことに、瞬間、珍しくも目を見開いて驚くの顔が見られただけでも収穫。
それにプラスして、そんなの頬に、掠めるような口付けを。
呆けたような表情のが新鮮で、三度美味しい。
にやりと笑って「ごちそーさま」と言ってやれば、我に返ったの頬に赤みが差してくる。
 
―――いきなり何するんですか、隊長!!」
 
言葉と同時に飛んできたのは、側頭部への衝撃。
どうやらまたもや、腰に差した刀を鞘ごと抜いて、間髪入れずに殴りつけてきたようだ。
さすがに沖田はよろけるものの、しかしそれに構うではない。
あっさりと元の表情に戻り、「いい加減にしないと、本気で怒りますからね」とさっさと先に歩いていってしまった。
仮にも隊長である沖田を、刀で何度も殴りつけておきながら、平然とした態度。
本来ならばありえないはずのその行動に、沖田は頭を押さえながらも笑みを浮かべる。
 
「ほんと、容赦ねーや。は」
 
は気付いているのか、いないのか。
沖田のそんな想いを。
市中見廻りをサボらないのは、相方がだからということを。
が男から話しかけられるのを見るたび、苛立ちを覚えることを。
不意に見せる優しい表情に、見惚れてしまうことを。
そっけないに振り向いてほしくて、構ってしまうことを。
いっそ、子供のように素直に好きだと言えたならば、楽なのかもしれないが。
 
「沖田隊長。何をまたトリップしてるんですか。置いていきますよ」
 
その声に顔を上げれば、数歩先にが立っている。
呆れたような面持ちながら、それでも沖田のことを待っているのだ。
つれないくせに、お節介で。
優しいくせに、澄ましている。
裏腹なその態度に、素直に好きだと言ってやる義理は無い。
そもそも沖田は、そんなことを素直に口にできるような性格もしていないのだから、それは想いを伝えられないことの言い訳、建前にすぎないのかもしれないが。
 
の後姿に見惚れてただけですぜィ」
「まだそんな冗談言うんですか」
 
いつかは、好きだと言われたくとも。
好きだと素直に言いたくとも。
今はまだ、構い構われるだけの、そんな関係。



<終>



BGMは、平井堅の「言わない関係」で。
やっぱり肩書きで呼ぶのは萌えますね。沖田隊長って、なんか響きがかっこよくないですか?