Happy wake up!



「沖田さん。朝ですよ、起きてください」
 
ゆるやかに、意識が覚醒する。
うっすらと開けた視界の先には、声の主に相応しい、とびきりの笑顔が待っていた。
真選組屯所で働く女中にして、沖田の恋人でもある、である。
 
「おはようございます、沖田さん」
 
朝食の支度、もうできてますよ。との言葉に、沖田はゆっくりと身を起こす。
早起きなど面倒だが、に起こしに来られては、子供のように駄々を捏ねるわけにもいくまい。
布団から出て伸びをしている間に、はてきぱきと抜け殻となった布団を畳んで片付けてしまう。
この手際のよさは、さすが女中と言ったところか。
 
「それにしても珍しいですねィ。が起こしにくるなんざ」
 
用意してあった着替えの着物を手に、何とはなしに問いかける。
それは、とりたてて深い意味など無い発言。
そしてが笑顔で返した答えも、とりたてて特別なものではなかった。
 
「土方さんに頼まれたんですよ。今日の午前中、会議があるんでしょう?
 私が起こせば、絶対に起きるだろうから、って言われて」
 
にこにこと笑うに、沖田の手が止まる。
もちろんには、悪気など何も無いのだろう。
頼まれたことをこなした。ただそれだけのこと。
頭では、そう納得しているというのに。
理不尽だとは思いながら、それでも沖田は胸の内に黒いものが湧くのを感じずにはいられなかった。
自発的にではなく、頼まれたから起こしに来たと。
を利用した土方と。
そして、まんまと土方の思惑に乗せられてしまった自分と。
まったくもって面白くない上に、このままでは癪に障って仕方が無い。
 
「それじゃあ私、先に行ってますね」
 
軽く頭を下げて、は部屋を出ようとする。
けれども沖田は、それをやや乱暴に引き止めた―――の手を後ろへ引くことによって。
そんなことをされると思っていなかったは、不意の出来事にバランスを崩して倒れこみ。
気付いた時には、後ろから抱きしめられるようにして沖田の腕の中に収まっていた。
 
「え? 沖田さ―――きゃっ!」
 
短い悲鳴をあげたに、その耳元で沖田は低く笑う。
けれども、が非難の声をあげるよりも先に、再びその耳に口付ける。今度はによく聞こえるよう、音を立てて。
途端、腕の中で跳ねるの身体が、楽しくて、可愛らしくて、仕方が無い。
反応を楽しむかのように、執拗に耳の裏に舌を這わせ、時には甘噛みし、震えるの身体を抱きしめる。
 
「や、やめてください…っ、朝なんですよっ!?」
「わざわざ起こしに来てくれたに、お礼をしてるだけでさァ」
「これのどこが『お礼』なんですかっ!?」
 
が反論するも、効果はまるで無い。
それどころか、その反論の声を封じるかのように、の顔を横に向けさせ口付けて。
抵抗しようとするをあっさり抑え込み、空いた手を襟元から着物の下へと滑り込ませる。
滑らかな肌を辿り、下着越しにその柔らかな胸に触れれば、さすがにも我慢ならなかったらしい。
身を捩り、何とか口付けからは解放されると、本人としては至極真剣な面持ちで沖田を睨みつけた。
 
「いい加減にしてください! どうして朝からこんな、こと―――っ!!?」
 
しかしいくら本人が真剣だとしても、沖田にしてみれば、それもまたの可愛い表情の一つとしか映らない。
睨まれていることなど、どこ吹く風。
構うことなく、今度は首筋へと何度も口付けを落とす。
その合間にも、下着越しに胸を柔らかく揉みしだくことを止めはしない。
首筋から、徐々に肩へと降りていく口付け。
時に優しく、時に強く吸い上げれば、の口から吐息が漏れる。
そのたびに震える身体が、愛しくてならない。
口付けるのに邪魔な着物を肩から半分脱がせても、もはやが抵抗することは無かった。
されるがままとなっているに気を良くし、次は下着をずらして胸を露わにさせる。
決して大きくはない胸だが、そこはいつ触れても心地よい。
その滑らかな肌触りを堪能しつつ指を這わせると、その頂はすでに硬く尖っていた。
 
「なんでィ。も十分感じてるんじゃないですかィ」
「きゃぅっ!」
 
笑いながらその頂を抓むと、思わずが声をあげる。
そのまま指先で先端を転がしたり押し潰したりすれば、切れ切れにの口から嬌声が洩れた。
艶のあるその声を聞いてはいたいものの、しかし下手をすれば部屋の外に丸聞こえになってしまう。
沖田自身はともかくとして、今のこのの姿を他人に見せるわけにはいかない。
もそう思ったのだろう。慌てて両手で口を塞ぐ。
その姿も、そそるものがあると言えばあるのだが。
 

 
名前を呼べば、緩慢な動きでが顔を沖田へと向ける。
されるがまま、言われるがまま。従順に。潤んだ瞳で見つめてくるは、支配欲を刺激するのには十分。
が洩らす声すら逃すまいとするかのように、沖田は性急に口付けた。
 
「ん……ふぁ……はぁっ」
 
合間に洩れる吐息に更に煽られるようにして、舌を絡めとる。
身を捩るに、高まる嗜虐心。
逃がすまいと、その頭を押さえ。酸素を求めようとするその口に、代わりに唾液を流し込んでやる。
散々に胸も口内も弄んでいると、程なくしての身体からがくりと力が抜けた。
その身体に寄りかかられ、沖田はようやくその口を解放する。
荒い息を吐くその姿。焦点の定まらない瞳。上気した頬。肌蹴られた上半身。
今のの何もかもが、沖田の情欲を刺激して止まない。
 
―――…すか……」
「何か言いましたかィ?」
「……なにを、バカ……んですか……沖田、さんは……」
 
少しは落ち着いてきたらしいの口から出たのは、そんな言葉。
けれども、それすら煽られる材料の一つになっているのだとは、口にした当の本人は気付いていないのだろう。
「そうですぜィ。俺はバカなんでさァ」とさらりとかわし、沖田は再びの首筋に顔を埋める。
すでに何度も口付けているというのに、飽きることもなく。
飽きるはずが無い。口付けを落とすたび、の啼き声はより一層艶を増すのだから。
名残を惜しむように首元に一つ紅い痕を残すと、沖田はの顔を自分へと向ける。
の瞳の中に灯るのは、情欲の炎。
文句を口にした割には、十分にその気になっていたらしい。
そのことに満足感を覚えつつ、今度は深く、深く口付ける。
幾度も角度を変え、味わい尽くすかのように。
しかし、味わい尽くすのは口内だけではないのだ。
口付けはそのままに、沖田は腰に回していた手をゆっくりと下に移動させる。
着物の上からの身体の線をなぞるように、腰から腿へと。そして裾を割って、その中へと手を滑り込ませた。
 
「……随分と濡れてるみたいですぜィ? のここは」
「やぁっ……ぁあっ」
 
そこは、すでに下着の上からでもわかるほどに濡れていた。
耳元でそれを指摘してやると、はいやいやをするように首を振る。
その様子が可愛らしくて。更に嗜虐心を煽られて。
つい、苛めてしまいたくなる衝動に駆られるのだ。
朝から事を起こしていることそのものが、苛めにも近いのだということは、沖田の思考の中には無い。
 
「朝からこんなに濡らして……」
「いやっ…ぁあっ……」
「おまけに、物欲しそうにヒクつかせて」
「そっ、そんな、こと…っぁ、はぁっ…」
「そんなこと、ありますぜィ?」
「ち、ちがっ…ぁぅっ、ゃあっ、ぁんっ」
 
焦らすように、下着の上から割れ目を何度もなぞり。
耳元には、言葉の合間に口付けを。
上からも下からも責められ、やがて下着がその意味を成さないまでにぐっしょりと湿る。
いくら否定したところで、が感じているのは明白な事実。
それを確認し、沖田は不意に手の動きを止めた。
溜息をつきながらも、はそんな沖田に怪訝な視線を向ける。
が、が疑問を口にするよりも先に、沖田は手早く帯を解くと、その身体を押し倒していた。
畳の上に、仰向けになるように。
身体への負担が少しあるだろうが、布団をさっさと片付けられてしまったのだから仕方が無い。
 
―――本当は、もう少し焦らしたいところだったんですけどねィ」
 
苦笑しながら、帯を解いたために露わになったの肌の上に次々と口付けを落とす。
耳に届くのは、の口から漏れる甘い溜息と、それに混じって遠くから聞こえる声。
朝食を終えた隊士たちが、そろそろ屯所内をうろつく頃合か。
さすがに、のこの嬌声を他の隊士たちに聞かれる危険性が高まるのは、あまりよろしくない。というよりも、勿体無い。
の足を割ると、性急な手つきでその下着を剥ぎ取る。
そこは、先程までの愛撫で、十分すぎるほどに潤っていた。
重ね重ね、これ以上焦らしている余裕が無いのが残念だが、それはまたの機会に回すことにして。
自身を取り出し、沖田はが止める間もなく、一気にその身体を貫いた。
 
―――っ!!?」
 
瞬間、があげかけた悲鳴を、沖田は飲み込む。
腰の動きに合わせてが発する嬌声も、余すことなく飲み込み。
部屋の中には、卑猥な水音と、口付けの合間に微かに洩れる溜息のみが響く。
いつの間にかの腕は沖田の首に回され、引き寄せるように口付けていた。
 
―――。愛してますぜィ」
「……私も。愛してますよ、沖田さんのこと」
 
二人、何とはなしに目を合わせ、笑みを浮かべ合う。
だが、それも束の間。
貪り合うような口付けと、襲いくる快楽の波に、あとは二人、溺れていくのみ―――
 
 
 
 *  *  *
 
 
 
―――もしかして、八つ当たりみたいなもの、だったんですか?」
 
着物を整え、帯をきゅっと締めて。
乱れた髪を手櫛で整えながら、不意にが沖田に問いかけた。
 
「……どうしてそう思うんですかィ?」
「だって。何だかいつも以上に強引な感じがしましたから」
 
違ってたらごめんなさい、と素直に謝るに、沖田は内心で舌を巻く。
どうやらにはお見通しだったらしい。
八つ当たりの原因までは、理解していないかもしれないが。まさか言えるはずも無い。
誤魔化すように飄然とした笑みを浮かべると、も特に追及する気はないのか、苦笑を洩らす。
それでも、「でも朝から人に当たるのは、やめてくださいね」と咎めるのは忘れなかったが。
 
「おかげで私は着替え直さなくちゃいけないですし。沖田さんは、朝食抜きですよ?」
「へ?」
「もうすぐ会議の時間ですから。朝食だって、食べる暇どころか、とっくに片付けられてますよ。きっと」
「……マジですかィ」
「マジですよ」
 
思わず目を見開いた沖田の表情が余程おかしかったのか、はころころと笑う。
自業自得ですよ、と言いながら。
更には「会議、サボったらダメですからね?」と念まで押して、は笑顔のまま部屋を出て行った。
仕事があるのだ。いつまでもこの部屋にいるわけにはいかないだろう。
一人残された沖田は、やや呆然としていたものの、やがて困ったように頭を掻き出した。
土方の思い通りになるのが癪だからと、が土方の言うことを素直に聞いているのに腹が立ったと、そんな理由で朝からに手を出したわけだが。
終わってみれば、満足したのも束の間。朝食抜きの上での会議という、実にろくでもない現実が待っているだけである。
結局、最後の最後まで、土方にしてやられたという気分が拭えない。
だが、八つ当たりはやめろと、に言われたばかりだ。
ならば―――
 
―――あの人もあれで、のこと気に入ってますからねィ……」
 
八つ当たりではなく、ひたすら惚気てやろうか。それこそ、土方がうんざりしすぎて頭を抱えるまで。
そんなことを考え。
隊服に袖を通し、沖田もまた、部屋を後にしたのだった―――空きっ腹に、腹黒い考えを抱えて。



<終>



葵あずみ様より、20000hitリク物でした。
えーと。裏です。沖田さんで裏ってことで……
なんというか、やってるだけという……何を書いてるんだ、私。
気付けば25000hit目前ではございますが。20000hit、どうもありがとうございます!