灰色の空から、
ひらり、ひらり、と。
雪景色 〜雪化粧〜
「―――あ、雪……」
ふと足を止めて、は空を見上げる。
はじめは雨かとも思ったけれども、気をつけて見てみれば、それは白い雪で。
まばらに降っていたものが、足を止めているうちに、次から次へと舞い降りてきて。
いつの間にか、本降りとなっていた。
「お天気お姉さん、そんなこと言ってなかったのに」
もちろん、お天気お姉さんの言葉が絶対ではないということくらい、にもわかってはいる。
けれども、思わず文句を言いたくなってしまったからといって、バチはあたらないだろう。
それに、雨ならともかく、雪なのだ。
傘を持ってきていないからといって、雪ならばそうそう困ることもない。
せっかくなのだから、滅多に降らない雪を楽しんだ方が、ずっと前向きである。
鼻歌まで歌いながら、は雪の中を、殊更のんびりと歩く。
身体に降り積もる雪を払いのけることすらせず、それでもどこか楽しそうに。
そんな彼女を、呼び止める一つの声。
「もしも〜し。そこのお嬢さ〜ん。よろしければ、僕の傘に入っていきませんか〜?」
聞き覚えのある声。
がきょろきょろと周囲を見回せば、すぐ横にあったパチンコ屋から出てきたのであろう、銀時の姿が。
右腕に、中身の詰まった紙袋を抱えているところを見ると、どうやら今日は勝てたらしい。
いつもそうなら、もっと生活楽なんだろうに。などとは関係のないことを考えてしまう。
「もしも〜し。サ〜ン?」
「あ、銀さん」
「そうですよ。の愛しい愛しい銀サンですよ、コノヤロー」
「なんでわたしが怒られるの?」
腑に落ちずに首をかしげているに、銀時はずかずかと近寄る。
そして、問答無用で左手に持つ傘をに押し付けると、の身体に降り積もっていた雪を払い落とし始めた。
「何やってんだ。雪に埋もれて、スノーマンならぬスノーウーマン気取る気か、お前は」
「あはは。そうなったら、雪だるまと結婚しなきゃね」
「俺のことはどーすんの」
「人間のお嫁さんを見つけたら? って言うか銀さん、背高いから、傘持つの疲れるんだけど?」
されるがままになりながら、はそれでも腕を伸ばして傘をさしている。
銀時に、雪が降り積もらないように。
けれども、雨とは違い、雪は降り積もるもの。それはもちろん、傘の上にも。
少しではあるが重みを増した傘は、伸ばしきった腕で持ち続けるには、少し辛い。
「何? お前、俺に屈めって言ってるの? 銀サンの腰が悪くなったりしたら、困るのはだよ?」
「だ、誰もそんなこと言ってないし! 困りもしないから!!」
頬を赤く染めながら、それでも傘を手放そうとはしない。
その姿を見て、銀時はおもむろに腰を少し屈めた。の顔が、目と鼻の先に来るところまで。
同時に、傘を持つの右手に手を添えて、負担のかからない位置にまで引き下げてやる。
「……銀さん?」
「んー。たまにはこの位置もいいかもなー」
の顔が目の前だしなー、と。
銀時が浮かべた笑みに、が嫌な予感を覚える間もなく。
更に引き下げられた傘の中。
二人の影が、重なった。
<終>
雪は好きです。仕事に行きたくなくなるほどに。
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