続・1/3の純情な感情
よりによって今日のこんな時間に騒がなくとも、と沖田は苛立ちを隠せずに屯所内を早足で歩く。
昼間のうちに半ば強引に取り付けた、との逢瀬の約束。
それを楽しみに珍しくも真面目に仕事をしていたというのに、どうやら世の中は無慈悲なものらしい。
日も暮れる頃に突如として起こった攘夷浪士によるテロ騒ぎ。出動命令が出た時は、本気でサボろうかと思ったほどだ。サボらなかったのは、偏にに見送りされてしまったからに他ならない。
さっさと終わらせようとも、こういう時に限って浪士たちは無駄としか言えない抵抗をする。
おかげですべて片付いた時には、日が暮れるどころか、日付さえ変わっていた。
これでは何のためにとの約束を取り付けたのかわかったものではない。
本当に気に入らない。
腹いせに浪士たちをもっといたぶれば良かった、などと物騒なことを考えながら沖田は足を進めていたが、不意にその足が止まる。
少し先にある自室から、障子越しに漏れる明かり。
その意味することに思い至った時、沖田は短い距離を駆け出し、勢いのままに障子を開けた。
「あ、沖田さん。おかえりなさい」
「……待ってて、くれたんですかィ」
部屋の中。敷かれた布団の横に、がちょこんと座っていたのだ。
「だって、約束してたじゃないですか」とくすくす笑いながらお茶の用意をするは、何でもない事のように振舞っているが。
一体どれだけの時間、この部屋で待っていたのだろう。
いつ戻ってくるとも知れないのに、ただ一人で。こんな時間まで。
普通ならば呆れるほどに滑稽な行動だと目に映るのだが、他ならぬが、沖田を待ち続けていてくれたのだ。おそらく、何時間も。
滑稽どころか、胸が熱くなる。
嬉しさのあまりどう反応してよいのかわからず、その場に崩れ落ちるようにして座り込むと、「お仕事お疲れ様です」と茶が差し出される。
湯呑みから立ち上る湯気。熱さに気をつけて口に運ぶと、温かさが身体の隅々にまで染み渡る。
急須の湯は、何度取り替えたのだろうか。
そんなことまで考えてしまい、自分のためにそこまでしてくれるがますます愛おしくてならなくなる。
半分ほど飲み干したところで湯呑みを置くと、たまらず沖田はを抱きしめた。
今度は、昼間のように拒絶されることもないだろう。
柔らかなの身体を腕の中に閉じ込めれば、その身体からふわりと立ち上る甘い香りが鼻腔を擽る。
つくづく、自分には勿体無い女だと沖田は思う。
それでもが選んでくれたのだ。他の誰でもない、沖田を。
愛しさを込めて額に口唇を押し当てると、は擽ったそうに笑う。
柄でもない甘い空気だが、むず痒さを覚えつつも心地良い。
も抵抗する素振りも見せないし、まさに昼間の続きにはうってつけの雰囲気―――のはずだったのだが。
「……あ?」
「どうしたんですか、沖田さん?」
不意に霞む視界。そして襲い来る猛烈な眠気。
確かに夜も更けてはいるが、それにしたところで不自然だ。
抗おうとしても、目蓋が勝手に下りてくる。
「もしかして、効いちゃいました? 睡眠薬」
「……何を勝手にそんなモン飲ませてんですかィ!!?」
の言葉からするに、どうやら先程飲んだ茶に仕込まれていたのだろう。
「でも少ししか入れてないですよ?」と笑みを含んだ声に、反論しようにも反論できない。
次第にぼんやりとしてくる思考。身体から力が抜け、にもたれかかるような体勢になる。
それをしっかりと受け止められ、も意外に力があるのかとどうでもいいような思考が沖田の脳裏を過ぎる。
「身体は疲れてるんですよ。そういう時は、ゆっくり休んでくださいね」
やけに遠くから聞こえるの声。
の温もりはそのままに。
してやられた、と思うものの、それも次第にどうでもよくなっていく。
「おやすみなさい―――お昼の続きは、また明日にしましょうね。総悟さん」
こんな時に名を呼ぶのは卑怯だと、薄れゆく意識下で沖田は思う。
の柔らかな温もりに包まれて。優しい声で名を呼ばれて。増した心地良さの中、眠気に抗えるはずもない。
それでも「また明日」の言葉だけは、しっかりと脳裏に刻んで。
これ以上無いほどの心地良さに身を委ね、沖田は深い眠りへと落ちていったのだった。
<終>
疲れてる時はちゃんと寝てくださいね、という話。
10万HIT企画リクで、透染白亜様より「『1/3の純情な感情』の続き」でございました。
……エロ指定じゃなかったので逃げました。スミマセン。
普通に考えたら、エロでしょうね。あの話の続きは。実際、最初に思いついたのもエロネタでしたし。
でもエロ書きに疲れたので逃避。スミマセン。
って言うか、エロエロうるさくてスミマセン。私の品性が疑われますね。そんなモノ存在してませんが。
そしてタイトルも手抜きでスミマセン(謝ってばっかだな)
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