幸福論
身を切るような寒風に、思わずは身を震わせる。
年明けを迎えたばかり。次第に強まる寒さは、あまり上等ではない羽織一枚では到底防ぎきれるものではない。
それでも戦争に身を置いているのだから、男物とはいえ、羽織を拝借できただけでも良しとすべきなのだろう。
せめて少しでも早く暖かい店の中へ行こうと、は足を速める。
正月気分から抜け切っていないのか、賑やかな街中。
戦争の真っ只中だなどと、微塵も感じさせない。そんな雰囲気。
―――実際、この街に住む人々にとっては、攘夷戦争など他人事なのかもしれない。
手のひらを返したようにあっさりと天人に迎合した幕府。怯えながらも天人を受け入れ、その技術を享受している世の中。
そんな世の中で、人々はそれなりに幸せに暮らしている。今、が歩く道を行き交う人々を見ていても。
ならば、自分たちは一体、何のために戦っているのだろう。
もちろん、それぞれに理由を、譲れないものを持って戦っているのだが。
けれどもそれは、この平穏な幸せを捨ててまで貫かなければならないものなのだろうか―――少なくともは、自分がそれほどの確固たる意志を掲げてはいないような気がするのだ。
こうして街へ食料や生活用品を買出しに来るたびに、感じずにはいられない疑問。
答えなど出ない、疑問。
有耶無耶にするのは、いつもの事だ。
疑問を、すっきりしない気分の悪さと共に飲み込んでしまうことにも慣れてしまった。
手早く買物を済ませ、は帰路を急ぐ。
穏やかに笑い合う人々をなるべく視界に入れないように、俯き加減で。
慣れたつもりでも、目に入ってしまうとどうしても思い描いてしまうのだ。
ありえたかもしれない、平穏な幸せというものを。
独りでいる時は、余計に。
だからこそは足を速める。それがただの逃避にすぎないのだと、わかっていても。
それでも後悔だけは、しない。
「遅かったな、。途中で何かあったのか?」
「どけよヅラ。あーあ、こんなに冷えちまってよ。仕方ねェから俺が暖めてや」
「テメェは寄ってくんじゃねェ!!」
「荷物ば重かったじゃろ。これはワシが運んでやるきー」
「って、テメェもさり気なくの手ェ触ってんじゃねーよ!!」
「うるさいぞ、高杉」
「そーだそーだ。はオメーのモンじゃねェんだよ。俺のモンだ」
「貴様のものでもないだろうが銀時」
「アッハッハッハッ。コイツらば放っといて二人で部屋でゆっくりするぜよ」
「してんじゃねェェェ!!!」
戻ってきた途端の、この喧騒。
言い争っているようで、何だかんだと共にいるのだから、結局は仲が良いのだろう。
そしては、そんな彼らと一緒にいられることに、心地良さを感じてしまうのだ。
皆に囲まれ、時には宥めたり、時には言い争ったり。
受け入れられているという安堵感に浸れる、そんな場所だから。
いつまでも答えなど出ない、疑問。
それでもここは、居心地が良すぎるから。
には、大層な理由も意志もない。
その事に時折、引け目を感じることもあるけれども。
けれどもここにいたい。皆で笑い合っていたい―――それは、平穏な幸せを捨てて選んだ、平凡な幸せ。
<終>
サイト二周年です。どうもありがとうございます。
記念作品がこんなショート・ショートでいいのかと言いたいですが。
本当はもっと細々書きたかったのですが、時間と気力の都合により割愛です。スミマセン。
書きながら「聖誕祭に、祈りをひとつ」のヒロインっぽいなぁと思ったんですが、まぁあまり深く考えないでください。私が何も考えてないので。
それでは。
こんな管理人ではございますが、今後ともよろしくお願いいたします。
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