相手が相手でなければ、これほどまでに悩む必要はなかったのかもしれない。
カレンダーを穴が開くほどに睨みつけながら、沖田はふとそんなことを考えてしまう。
そんな余分な事を考える暇すら惜しいはずなのだが、それでも思わずにはいられないのだ。
視線の先には、とある日付。なおざりに赤で丸を打たれただけではあるが、他になんのメモ書きもないカレンダーの中で、その日付は際立っている。
その日は、恋人であるの誕生日。
恋人への誕生日プレゼントなど、ありふれた物がいくらでも街中に溢れているだろう。
本来であれば、そのあたりから適当に見繕っても構わないはずなのだ。のことだ。きっとどんな物でも喜ぶに違いない。
だが問題は。
蕎麦屋の看板娘であるは、不愉快なほどに他の男たちから熱い視線を注がれているという現実で―――
未来へのプレゼント
案の定、の目の前には、山と積まれたプレゼント。
畳の上に座り込んだは、申し訳ないように項垂れながら、沖田に対しちらちらと上目遣いで視線を投げてくる。
決して自身が悪いというわけではないというのに。
「こ、断ったんですけど……恋人、いるからって」
その上でプレゼントを押し付けてきたのだろうから、それはもはやの責任ではない。男たちの人間性の問題だ。
何よりは恋人の存在を明かしているのだ。たったそれだけのことで、不機嫌だった沖田の気分が浮上する。
実に単純な事この上ないと自身のことながら思うが、それでもやはり、の口から自分の存在を肯定されるというのは嬉しいものなのだ。
「人の好意ですぜィ。今日ばかりは素直に貰ってやったらいいんでさァ」
恋人としての余裕。事も無げに言うと、は「いいんでしょうか」と困ったように笑う。
「その代わり、俺からのプレゼントもきちんと受け取ってもらいますぜィ?」
「どんなものですか?」
誕生日プレゼント、しかも恋人から貰えるとなれば、喜ばない人間はまずいないだろう。例に洩れずの顔もぱっと明るくなる。
そんなの手を沖田が引くと、あっさりとその身体は倒れこむ。
問い質させる暇など、微塵も与えるつもりはない。
の頬に手を添え、じっとその瞳を覗き込む。
真っ直ぐに向けられる視線。臆することなくそれを真っ向から受け止める沖田の顔に浮かぶのは、にやりとした笑み。
「プレゼントは―――この俺でさァ」
言葉の意味をが理解したかどうか。どちらであろうとも、沖田が構うことはない。理解しようとしまいと、これからする事に変わりはないのだから。
開きかけたの口が、どんな言葉も発する前に。沖田はその口を塞いでしまった。
もう幾度も抱いているというのに、はなかなか行為に慣れることがない。
拒絶する素振りがなかったのだから、嫌がってはいないのだろう。
それでも恥ずかしいのか、は決して目を合わせようとはしない。
口を手で押さえて声が漏れないようにしているのも、その恥じらい故のことだろう。
その様子も可愛らしいと思ってしまうのだが、恥じらいながらも、施される愛撫一つ一つに身体を震わせて反応している所作も、沖田にしてみれば可愛くて仕方が無い。
もちろん、の感じている声を聞きたいという欲求もあるのだが、それはそれでまた別の楽しみがある。
なかなか口元から手を動かそうとしない。
その手を強引にではなく、口元からどかせてみせようというのが、沖田の密かな楽しみであったりもするのだ。
まるで天岩戸を開けようとしているかのようだと、沖田も思うことがある。
だが、天照大神を相手にしているわけではないのだ。の口を開かせることは、そう難しいことではない。
火照り、薄く桜色に色づくの白い身体。
一糸纏わぬその身体の線を、口唇でゆっくりと辿る。
ぴったりと閉じられた脚をやや強引に開き、終着点であるそこへ音を立てて口吻ける。
「ひぁっ……!!」
途端、指の隙間から漏れるの声。
堪えようと必死になって快楽に耐えようとするだが、一度出てしまった以上、そう容易く堪えきれるものではない。
痺れるような快感に身を震わせ、耐えようとぎゅっと目をきつく閉じるものの、それでも堪えきれない嬌声が時折の口をついて出る。
しかし、それで満足する沖田ではない。
潤いを見せ始めた蜜壷。その中へと指を一本だけ進めると、殊更ゆっくりと中を掻き回す。
どこをどう刺激すればが感じるのか。把握しきっている沖田は、敢えてそこを外した箇所を執拗に弄る。
だからと言って、恥じらうが不平不満を口に出すはずはないのだが。
それでも、身体は正直だとは、まさに今ののことを言うのだろう。
声を出すことすら躊躇う理性とは裏腹に、身体は焦らされることにあっさりと耐えかね、快楽を欲して感じる箇所へと誘導するかのように腰を揺らす。
理性と本能の矛盾。
それを突き崩そうと、沖田はの耳元へと口を寄せた。
「こんなに濡らして腰まで振って―――本当、はイヤらしい身体してるねィ?」
途端、びくんと跳ねるの身体。
否定するように、ふるふると横に振られた首。
だがいくら否定しようとも、それは単なる強がりでしかない。
沖田の言葉に強張るの身体、そして飲み込んだ指をきゅっと締め付ける内壁。それらは紛れも無くが今の言葉にすら感じているという証拠。
じわりと滲み出る蜜が指へと纏わりつき、潤滑油となって、二本目の指を容易く迎え入れる。
二本目の指も中へと収めきると、沖田は先程までとは打って変わって、今度は滅茶苦茶に中を掻き回し始めた。
ぐちゅぐちゅと卑猥な水音をたてられ、感じる箇所を幾度も突かれ。秘所からは蜜を溢れさせながら、それでもは懸命に声を堪えようとする。
だがもちろん、沖田がそれを許すはずもない。
十分すぎるほどに解したところで、沖田はゆっくりと指を引き抜く。
「え……?」
突然解放され、は戸惑った表情を見せる。
その心情を雄弁に物語るように、物足りないと、更なる快楽を欲してひくついているの秘所。
あどけなさすら残す表情には似つかわしくない、快楽に溺れたがる身体。その不釣合いな二面性がますます欲情を煽り、そして―――ますます、嗜虐性をも煽るのだ。
普段であれば、すぐにでもを満足させてやるところなのだが。
不意に過ぎった嗜虐心。
怪訝な顔で「総悟さん?」と呼びかけてきたに沖田が向けたのは、どう見ても裏を含んだ笑みだった。
「……どうしてほしいんでィ?」
「え?」
「だから、はこれから俺にどうしてほしいんでィ?」
にやりと笑った沖田の言葉に、途端には顔を赤らめる。
もちろん、言われてすぐに口にするようなではない。だからこそ、苛め甲斐があるというのも事実なのだ。
なかなか口を開こうとしないを更に追い詰めようと、自身の切っ先を濡れそぼる入口へとあてがう。
だが、決して挿れようとはしない。
がねだるようにして腰を振り、蜜を溢れさせても、まったく構おうとはせず。ただを焦らすために、割れ目に沿って切っ先を何度も往復させ、思いついたように胸の先端を弄るのみ。
「や……っ」
「言ってくれねェとわからねェや」
本当は言われずともわかっている。
それでもの口から言わせたいのだ。
あどけなさの残る顔を情欲に歪めて男を、他の誰でもなく沖田を欲する姿を、見てみたいのだ。
更に追い詰めるために、ほんの僅か、自身をの中へと進める。それをまたすぐに抜き、入口付近でのごく浅い抜き差しを繰り返す。
与えられそうで与えられない快楽。
が根負けするのも、時間の問題だった。
「…っ、欲し……っ」
「何が?」
「総悟さんが…っ、欲し……です…っ!」
「いい子だねィ、は」
懇願するは、頬を高潮させ、だらしなく口を開き、情欲に目を潤ませている。
沖田以外の誰も、のこんな姿は知らないであろうし、知らせるつもりももちろん無い。
満足して、いつの間にか手が離れていた口元へとひとつ、口吻けを落とす。
緩む空気。
だがそれは一瞬の事。
おもむろに一息に奥を突かれ、は悲鳴のような嬌声をあげた。
「気持ちいいんですかィ? なら、もっと気持ちよくしてあげまさァ」
「っ!? ぁっ、やぁっ、ぁあんっ!!」
の両膝裏を掲げ、その身体を二つ折りにすると、結合部がの目にも晒される。
羞恥に目を背けるを、本当であれば更に苛めてみたいところではあるが、それは次回の楽しみにとっておくことにする。
あまりに苛めすぎては、この先、行為そのものを嫌がられることにもなりかねない。
目に見えるところで自分が犯されているという事実と。
普段とは異なる格好で、普段以上に奥まで突かれて与えられる快楽と。
それらには、もはや声を抑えることも忘れ、言葉にならない声で喘いでいる。
今回のところはそれだけでも十分だ。
速まる抽挿に、の口から漏れる嬌声も止まらない。
最奥を突かれ、一際大きな嬌声をあげてが達すると、続いて沖田もの中で果てたのだった。
呆然と虚空に視線を彷徨わせるに軽く口吻けると、沖田はずるりと自身をの中から引き出す。
同時に、とろりと中から零れ出す白濁。愛液と精液とが混じり合ったそれに、思わず昂ぶりそうになるのを沖田は堪える。
今はそれよりも重要なことがあるのだ。
身体を起こすと、脱ぎ捨てた着物を引き寄せまさぐる。
ようやく探り当てたのは、何の変哲も無い小箱。
こういったどさくさに紛れてでなければ渡せない情けなさを感じないでもないが、そういう性格なのだから仕方が無いと開き直ってしまう。
「……」
呼びかけると、のろのろとが顔を向ける。
未だ呆けた表情を見せるに、沖田はその左手を取る。
白く細い、女の指。
嗜虐心と同時に庇護欲もそそる、不思議な存在。
まさか自分がこれほどまでにのめり込むとは思わなかったが、ここまで来たら腹を括るしかないのだろう。
のんびりしていたら、他の男に奪われかねない。
覚悟を決めて小箱の中身を取り出すと、の左薬指へとするりと嵌め込んだ。
銀色に輝く、指輪を。
それを目にしたは、驚いたように目を見開く。
「そっ、総悟さん、これ……」
「だから、この俺がプレゼントだってさっきから言ってるじゃねーかィ」
この言葉と、何より左薬指に嵌めた指輪。
沖田の意思は、これでに伝わっただろうか。
不安に駆られたものの、驚いたようなの表情が笑顔へと変わった瞬間、それは杞憂に過ぎなかったと安堵する。
しかしその感情は表には出さず。飄々と「イヤなら返品可でさァ」などと言ってのける。
「へ、返品なんかしません! か、返せって言われても、返しませんから!」
「望むところでィ」
取られまいと、慌てて手を引いて指輪を覆い隠すの仕種に、まるで子供のようだと思わず沖田は笑いを零す。
つい先程までの痴態が疑わしくなるほどだ。
だが、いくら仕種が子供のようでも、中身はしっかりと大人なのだ。
「それで、返事はどうなんでィ?」と促した沖田の言葉に、は少しの間を置いてから、にっこりと笑みを返す。
子供のように無邪気で、それでいて艶やかな、笑みを。
「なんの返事ですか? ちゃんと言ってくれないと、わからないですよ?」
「……マジでか」
これは意趣返しなのか。
情事の最中の言葉を、熨斗をつけて返された気分に陥りながら。
それでもの笑顔には逆らえず。
苦笑交じりながらも、沖田は口を開いた―――
<終>
今までで一番の難産だった10万HITリクでした。
リク内容は「総悟でヒロインの誕生日に『俺がプレゼントでィ』なエロ夢」だったので。ええ。まぁ。その。
……スミマセンごめんなさい。
リクくださった翔様、呆れるくらいに遅れて申し訳ございませんでした!!!
や。もう言い訳せずに逃げます。
言い訳し始めたら止まらないですよ、これ……
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