とある教師の愛情衝動



酷く倒錯的な光景だと、銀八は場違いな事を思う。
静まり返った図書室内。授業中であるこの時間、当然の事ながら図書室は無人。
どこかのクラスが体育でもしているのだろう。時折グラウンドで上がる歓声が聞こえる他は静寂に満ちているはずのこの図書室。
その奥まった一画。滅多に人の手が触れないような、黴臭い本の匂いが漂う、その中。
学生達が勉学に勤しむために据え置かれた木目調の机は今、その本来の目的とはかけ離れた用途に使われていた。
 
「んん……っ、ぅんっ」
 
銀八が指を動かすと、グチュ…と濡れた音が立つ。静かな室内、それは必要以上に大きく響いているような気さえする。
そのせいもあるのだろうか。机の上に上半身を押し付けられ組み敷かれたは、羞恥に頬を染め、その目に涙すら浮かべていた。
薄手のセーターはたくし上げられ、下着もずり上げられ、つんと尖った両の胸の頂がその存在を主張している。
赤く火照る白い肌はこの状況も相俟って、より一層扇情的に銀八の目には映った。
形良い胸の周囲には、すでに落とした紅い花弁がいくつも散っている。そこに更に口唇を落とし、更に花弁を一つ、もう一つと増やしていく。
その間にも銀八の指は緩慢に粘り気のある水音を奏でる。スカートの中の、下着の更に奥。指一本でその中をぐるりと掻き回せば、床に届かず爪先を宙に浮かせた両の脚がびくびくと震えた。
それでも声だけは漏らすまいと、は両手で口を塞ぎ必死に堪えている。確かに教師二人、校内でこのような行為に耽っている事が知られれば、うるさいPTAが鬼の首を獲ったかのように懲戒免職を要求してくるに違いない。
流石に懲戒免職は御免被るとは思うものの、だが銀八には行為を止めるという選択肢もありえなかった。でなければ、最初にからやめてくれと懇願された時点でとっくにやめている。
目にうっすらと涙を浮かべて無言で訴えてくるを無視し、銀八は胸の頂へと口唇を寄せた。
先端を口に含むと強張るの身体。だがそれが拒絶の意でないことは承知している。
ぷくりと立ち上がった先端を舌先で執拗なほど弄り、時に歯で軽く挟んで引っ張ると、そのたびにの中に入れた指がきゅっと締め上げられる。
 
「なーんか、いつもより感じてんじゃね? もしかして、学校で無理矢理ヤられて興奮しちゃってるとか?」
 
意地の悪い笑みを口元に浮かべ、銀八が言う。それはが反論できないことを見越しての言葉。
否定しようと口を開けば、否定の言葉よりも先に嬌声が出ることだろう。万が一にもそんな声が他の誰かに聞かれてしまったらどうなることか。故には今、絶対に口を開けないはずなのだ。
その目に涙を浮かべて首を横に振るには頓着することなく、硬く尖った胸の先端を舌で押し潰したり転がしたりと散々に弄る。
その一方で、スカートの中に差し込んだ手も忙しなく動かす。既に蕩けきっている秘所は二本目の指も難なく迎え入れたが、敢えて銀八は指を抜き、下着の上から割れ目に沿って指を滑らせる。焦らすようにゆっくりと、何度も。先程まで掻き回していた秘所は過ぎるほどに蜜を湛え、下着の上からでもその事実がわかるほどだ。
だがその手の動きを銀八は不意に止める。スカートの中から出した手の行き着く先は、声を漏らすまいと必死で口を塞いでいるの手。
 
「やっぱ濡れすぎだって、今日。自分で確かめてみ?」
「っ!? ぃや…っ!」
 
嫌がるの手首を掴んでスカートの中へと潜り込ませると、下着をずらし、その指を濡れた自身の内部へと無理矢理に差し込ませた。
更にそれだけでは飽き足らず、その手首を掴んで動かし、抜き差しを繰り返させる。
ぐちゅぐちゅと響く水音に銀八は満足そうに口角を上げ、の耳元へと口を寄せた。
 
「わかってんの? こんなイヤらしい音、自分で出しちゃってんだよ」
「んんっ…ゃ…ぅん…っ」
 
片手は未だ口を塞いでいても、もう片手は銀八の手によって自身の中へと導かれ、抽挿を繰り返している。
身を捩っても銀八に身体を押さえつけられていて逃げる事は叶わない。片手では押さえきれない喘ぎがの口から漏れる。
自身の意思ではないとは言え、自分の指に犯されているという事実に羞恥を感じ、それが無意識にを煽るのか。涙を零しながらも嬌声を堪えきれないの姿に銀八はそそられてならない。愛おしいと思う反面、そそられるのは嗜虐心。
存分に自分の手で濡れた秘所を掻き回させると、頃合を見計らって中から引き抜かせる。掴んだままの手首をスカートの中から出せば、の細い指にはとろりとした蜜が纏わりついていた。
 
「ほら、自分で掻き回してこんなに濡らしてさ」
「やっ…ちが……っ!」
「違わねーよ。ぐしょぐしょに濡らしてんのはで、ソコをぐちゃぐちゃ掻き回してたのはこの指」
 
そう言うと銀八は濡れた指をの顔の前へと持っていき、そのまま見せ付けるように指を口に含み、その目を見つめたまま絡みついた蜜を舐めあげる。わざと音を立てながら、ゆっくりと。丹念に。
指先からじわりと生まれる快感。頬を紅潮させ身体を震わせながらも、はまるでその視線に縫い止められたかのように銀八から目を逸らすことができず、ただひたすらに声を押し殺す。
涙に濡れるの瞳は、けれども決して拒絶の意を映してはいない。むしろその潤んだ瞳は男を誘うかのようだと思うのは、男の勝手な解釈だろうか。
たとえそうでなかったとしても、これからすることが変わる訳ではないのだが。
滅茶苦茶に、犯してやりたい。
校内の、しかも授業中という本来ならばありえない状況で。生真面目なを、快楽にどっぷりと浸けてやりたい。
倒錯的な状況と、確かに快楽を感じていながらも表面上は嫌がってみせるに、銀八の嗜虐心は増す一方。
舌を這わせていた指を口から離すと、声を漏らすまいと必死で口を覆っているもう片方の手と纏めてその頭上に押し付ける。
には、慌てる隙すら与えない。開いた口唇へと銀八は貪るように口吻けた。
遠慮も躊躇も無い。舌を差し込むと、の口内を思うがままに蹂躙する。その間にもの両手首を片手で押さえ込み、銀八は空いた手をスカートの中へと差し込む。そしてそのまま、片手で器用に下着を脱がせてしまう。
嫌がるように身を捩るだったが、男の力で机に押し付けられて抗えるはずもなかった。
下着を剥ぎ取られスカートの下、露わになった秘所へと二本の指が無遠慮に入り込む。十分に蜜を湛えていたそこは、待ちわびていたかのように銀八の指を迎え入れた。
上は舌に犯され、下は指に犯され。羞恥に身を捩る事も叶わず、どころか喘ぐ事も、呼吸する事すらもままならない。為すすべなくは苦しげに眉根を寄せる。その表情がまた銀八を煽るのだと知らずに。
の耳に届くよう、口内には唾液を流し込んで舌で掻き回し、秘所に溢れる蜜を指で音を立てて掻き回す。静かな図書室内に、二つの淫猥な水音が響く。
だがそこにもう一つ、無機質な音が突如として響いた。
ガチャリ、と。入口の錠がかかる音が。続いて、引き戸を開けようとする気配。だが錠が下りていることを知ると、再びガチャリと鍵を回す音。そしてガラガラと入口の引き戸が開けられる音。
 
「これって、図書室の鍵開いてたってこと?」
「閉め忘れてたんじゃないの、どうせ。それより早く探そうよ。シェイクスピアだっけ」
「そうそう。ハムレットの和訳本」
「ったくさぁ。授業で使うなら自分で用意しとけっての」
「おかげで授業抜け出せたんだからいいじゃん」
「それはそうだけどさぁ」
 
入ってきたのは女子生徒二人。最初の錠の音を聞いた瞬間、咄嗟にを抱えて本棚の陰に隠れたから、自分たちの存在には気付かれていないだろう。入口からは死角になっている箇所だから、奥までやって来られない限りは見つかる心配は無い。
どうやら授業に必要な本を取りに来たらしい二人にさっさと出て行けと胸中で訴えるものの、二人は本を探すつもりがあるのかどうか、生徒をこき使う英語教師への不満を並べ立てている。
も気が気でないのだろう。銀八に後ろから抱きすくめられたまま息を押し殺している。
だがそんなことは露知らない女子生徒二人は、英語教師への不満から、いつの間にか教師の品評会へと会話を発展させている。あの先生は教え方が下手、あの先生は面白い―――
 
「私さ、3年の銀八先生。あの人好きなんだよね。どこうがどうって訳じゃないけど、なんかいいって言うか」
「えー? マジで?」
「だってカッコよくない? カッコいいと思うんだけど」
「ありえないって。坂本先生のがカッコいいじゃん」
「それこそどこが!?」
 
女子生徒の他愛ないお喋り。とは言え、好きだと言われて銀八は何となく嬉しくなる。
だが同時に、腕の中でがびくりと肩を震わせる。
それはそうだろう。恋人が、生徒とは言え他の女に好意を持たれているのを知って、それで平静でいられるだろうか。無反応でいられる方がむしろ困る。
が見せた反応に溜飲の下がる思いはしたが、それでも銀八が普段に対して抱くものはこの程度のものではないのだ―――特に、今日は。
どす黒い思いが胸の奥で疼くのを感じながら、銀八はの身体を更に抱き寄せて密着させ、耳元で聞こえるか聞こえないか程の声で囁いた。
 
「もしかして、ヤキモチ焼いた?」
「っ!!」
「心配しなくても、俺はガキには興味ねェし。今の興味は……こっち」
―――ぁっ!」
 
が思わず漏らした微かな声は、どうやらお喋りに夢中になっている女子生徒たちの耳には届かなかったらしい。
シェイクスピアなら確か貸し出しカウンターの横あたりに全集があったはずだ。女子生徒たちが何事も無くそれを見つければ、奥まったこの一画までやってこられる心配は無い。
二人の動向に耳を澄ませながら、それでも銀八はの秘所へと差し込んだ指を動かすことをやめない。今度は三本。懸命に首を横に振って抗うに反して、熱を帯びた秘所は銀八の指を咥えこんで離そうとはしない。
からかいたいのはやまやまだが、万が一その声を二人に聞かれでもしたら困った事になる。
見つかっては拙い。そうわかっているにも関わらず、銀八の行為はエスカレートする一方。音を立てないように、けれどもが感じる場所を的確に刺激しながら、親指で秘芯を探り当て弄り始める。
その行為に上がりそうになったの嬌声は、前もってその口を覆っていた銀八の手によって喉の奥へと押し戻されることとなった。
の声を押し込めながらも、銀八の指は秘所の中を動き回り、膨らんだ秘芯を捏ね回す。表に出せない快楽には身を震わせ、熱い吐息がの口を覆う銀八の手に絶え間なくかかる。
もうそろそろ達する頃合だろう。だがここで一人でイカせるのはつまらないかと、銀八が指の動きを緩めようとした時だった。
 
「でもさぁ。シェイクスピアってどこにあるの? そういう小難しそうな本って、奥の方に置いてある感じがしない?」
―――っ!!?」
 
女子生徒のありえない発言と、同時に図書室の奥へと近付いてくる足音に、流石の銀八もヤバイと身を強張らせる。
もっと拙いことに、変に力が入ってしまっての秘芯に強い刺激を与えてしまったらしい。顔を仰け反らせ身体をびくびくと震わせながら、は呆気なく達してしまった。
まさか来ないだろうと思っていたからこその行為。後悔しても後の祭りだが、どうあっても言い訳のしようがないこの状況、切り抜ける手段は最早神頼みしかない。信心も何もない人間の祈りが聞き届けられるかどうか甚だ疑問ではあるのだが。
しかし神とはどんな人間に対しても慈悲深い存在らしい。もう一人の女子生徒が「あ、もしかしてこれじゃない?」と声をあげ、近付いてきていた足音が逆に遠ざかっていく。
 
「じゃあ教室戻ろっか。早く戻らないと何か怒られそうだしさぁ」
「鍵どうしよう。閉めた方がいいのかな。さっきは開いてたけど」
「閉めとけば? でなきゃ後で開きっぱなしになってたって、私らが怒られそうじゃん」
「それもそうだよね」
 
パタパタと遠ざかる足音と、扉が閉まる音。そして鍵がかけられる音。更に廊下を歩いていく足音が完全に聞こえなくなったところで、ようやく銀八は緊張の糸を解いた。
最悪の状況はどうやら回避できたようだ。
安堵の息をついたところで今度は、達したばかりでぐったりとしているの耳元へと口を近づけ声を潜めたまま笑う。
 
「生徒が同じ部屋にいるのにイくって、どんな淫乱だよ」
「やっ…ぃゃっ……言わ、ないで…っ」
「言われたくなかったら、そこの本棚に手ェついて」
 
指を引き抜き指示すると、は言われるまま銀八に背を向けた格好で本棚に手をつく。
大人しく従うに銀八は満足し、すでに張り詰めているズボンのジッパーを下ろした。
何も感じていたのはだけではない。快楽に耐えながらも身を悶えさせるの姿に、銀八もまた散々に煽られていたのだ。
既に硬くそそり立つ自身を取り出し、のスカートを捲る。目の前に晒されるのは、日に焼けていない真っ白な双丘。まるで汚れを知らないかのような白さに、余計に銀八は煽られる。
達したばかりで身体に力が入らないのだろう。がくがくと身体を震わせているの腰に手を添えると、銀八は一息にの中を貫いた。
 
「っゃぁあんっ!!」
「あ、そうだ。ついでにこれもキレイにしといてくれる?」
 
堪える事も忘れ嬌声をあげるの口に、そう言って銀八は先程まで秘所を掻き回していたおかげで蜜に濡れた指を、の口へと強引に差し入れた。
 
「自分で汚したモンは、自分でキレイにしねェとな?」
「んふぅっ、んん…っ」
 
実際はにあまり大きな嬌声をあげさせないための行為なのだが、もちろんそれをそのまま伝えるつもりは銀八には無い。
責めるように意地悪く言えば、は涙を零しながらも銀八の指に絡みついた自身の蜜を舐めとっていく。
の舌が指を辿る感覚に、ぞくりと電流のようなものが身体を駆け巡る。指も性感帯になるとは、よく言ったものだ。
指を咥えさせたまま、銀八は腰を動かし始めた。
 
「んぁっ、ぁあっ!!」
「ほら、サボってないでキレイにしろって」
 
後ろから突かれ堪えきれずに嬌声をあげるの口の中を、銀八は責めるように指で掻き回す。
それでも速まる抽挿。だがが喘ぐと、休むなと言わんばかりにすぐさま指が押し込まれる。
上からも下からも容赦なく責め立てられ。だがそれすらも快感へと繋がっていたのだろう。背を弓なりに反らし中に挿れられた銀八のモノを締め上げると、一際高い嬌声をあげては二度目の絶頂を迎えた。
それで体力が限界だったのか。の身体が力無く崩れ落ちる。
だがそれで終わる訳ではない。「俺、まだ一度もイってねェんだけど?」と低く笑いながら、銀八はうつ伏せていたの腰を掴みあげる。
銀八の目の前に余すところ無く晒されたの秘所はひくひくと蠢き、溢れた蜜が太腿を伝い落ちていく。「エロいカッコだよなァ」と楽しそうに銀八が口にすれば、抗う力の残っていないはただ泣いて許しを請うだけだった。
 
「も、もう…だめぇ……ゃ…やめ、て……」
「教師が嘘はダメなんじゃね? ココはもっとして欲しいって言ってる、だろ!」
「ゃぁああっ、ひぁぁああんっ!!」
 
言葉を終えるよりも先に、男を誘ってやまない秘所へと銀八は再び自身を突き立てた。
途端、あられもない嬌声をあげるに今度は構うことなく腰を幾度も打ちつける。それでもまだ足りないと言うかのようにの腰が振られるのは、本人の意思か、それとも快楽を追い求める本能なのか。
この際、それはどちらでも構わない。
ぐちゅぐちゅと音をたて激しくの奥を突きながら、更にを責め立てる言葉を銀八は口に出す。
 
「麗しのセンセがこんな淫乱だって知ったら、校内の男共は嘆くだろーなァ。イヤ、逆に興奮すっか。そういうギャップに男は燃えるもんな」
 
俺も好きだし、と銀八が呟いた声が聞こえたのか。途端、の内部がきゅっと銀八のモノを締め上げる。
「好きだ」との一言で感じさせることができるのならば、なんとも男冥利に尽きるというものだ。そのことに銀八の胸の奥で蟠っていた物が少しだけ消える。
だがそれはあくまで少しだけ。収まらない憤りはを責め立てて止まない。
ここが図書室であることを忘れてしまったかのように嬌声をあげ腰を振るを更に乱れさせようと、最奥を突きながら銀八は硬く立ち上がった花芯に責めるようにして爪を立て、押し潰すように刺激する。
 
「だ、だめぇぇっ、っはぁぁあああんっ!!!」
 
一際高い声をあげ、の身体が痙攣する。同時に内壁が銀八をきつく締め付ける。
三度目の絶頂を迎えたの後を追うように達した銀八は、堪らずの中へと精を放ったのだった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
「どうしてこんな事するんですか!」
 
情事の余韻も何も無く、今、銀八は図書室の床に正座させられていた。
隣接する無人の司書室から水とタオルを拝借して、力無く床に崩れ落ちているの身体を拭ってやってから、わずか数分後。
服をきちんと着直し銀八の正面に同じく正座するの顔からは、いつもの笑顔が消えている。
それはそうだろう。怒らせるだけのことをしたという自覚は銀八にもある。
けれども銀八にも言い分はあるのだ。胸の内で燻って消えない、憤りというものが。
 
「……だったら俺からも質問」
「はい」
「どうして松平のとっつぁんにプレゼント渡してんだよコノヤロー」
 
昼休みも終わろうという頃合。
校舎の裏で人目を避けるように会っていた二人を見つけたのは偶然か必然か。
リボンのかけられた包みを恥ずかしそうに袋ごと差し出すと、照れたようにそれを受け取る松平と。
そんな光景を目にし、俺と言うものがありながらと、銀八の内にどす黒い憤りが湧く。有体に言ってしまえば、嫉妬心。
その場に留まる心境にはとてもなれず、くるりと踵を返した銀八はこの後の予定を変更する。
授業の入っていない6時限目の休憩場所を探すのをやめ、職員室に戻ってきたを呼び出したのだ。5時限目に授業が入っていないのは確認済み。自分は入っていたが、いつものサボりと今更誰も気にしたりしないだろう。
そして、図書室で無理矢理犯したのだ。恋人が誰なのか、じっくりとわからせてやるために。
返された質問に「プレゼント?」と目を瞬かせるに苛立ちを覚えずにはいられない。あくまでシラを切るつもりならば今度は白状するまで犯してやろうかとまで思いはしたものの、しかし銀八のそんな考えも束の間。心当たりを思いついたのか、小首を傾げてが呟く。
 
「……ああ。もしかして、奥様の?」
「……はい?」
「だから、松平先生の奥様の。喧嘩した仲直りのプレゼント見繕ってくれって、松平先生から頼まれて」
 
沈黙が、落ちる。
銀八の背中を、冷たい汗が伝う。
たっぷり十数秒。
 
「…………マジでか」
「マジです」
 
銀八を真っ直ぐに見つめてくるの瞳に、嘘など見受けられない。
そう言われれば、こそこそと人目を忍んでいたことも納得できる。
妻と喧嘩したなどとは、しかもプレゼントを渡さなければならないほど抉れているとは、男ならば他の人間には極力知られたくないだろう。それでも何を贈ってよいのやらわからず、にだけは事情を話して協力してもらったというところか。松平が照れていたのは事情を知られているから。が恥ずかしそうにしていたのは、自分の品選びにあまり自信が無かったからか。
昼休みの光景にすべて説明をつけられて安堵したのは一瞬。
 
「で、先生? 原因がそれだなんて、まさか言いませんよね?」
 
要するに銀八は、単なる思い込みと誤解で、に事の顛末を問い質すよりも先に、強姦にも近い行為を働いてしまった訳だ。
にこりと笑みを浮かべるだが、その目はまるで笑っていない。
聡いのことだ。今の会話の流れだけで、銀八が勘違いからこんな行為に及んだ事はすでにわかっているに違いない。
となれば、下手な言い訳は不要。というよりも事態を悪化するだけである。
銀八にできることといえば、そのまま床に額を擦り付けて土下座することくらいだった。
 
「お詫びに何でも買いますんで許してくださいお願いします」
「ちなみに松平先生の奥様へは、5万円のネックレスにしました」
「……無理! ムリムリムリ!! それは絶対に無理だから!!」
 
暗に買えと要求しているかのようなさらりとした物言いに、銀八は思わず顔を上げる。
青ざめた銀八の慌てたその様子があまりにも可笑しかったのか、無表情だったがくすりと笑みを零した。
 
「いくらなんでも坂田先生にそれは期待してませんよ。それじゃあこのスカートが汚れてしまったので、新しいものでも」
 
有無を言わさぬ態度に、流石に銀八も今度は頷くほかない。
「汚れ」などという表現は可愛いもので、表はそうでもないが、スカートの裏地は自身の愛液と銀八の精液とで酷い有様となっている。タオルで拭ったところで簡単に落ちるものではなかった。
弁償と詫びを兼ねてならば、妥当なところだろう。
自業自得とは言え急な出費に、財布の中身はまだ大丈夫だろうかと銀八は頭を悩ませる。
だが汚れたのは何もスカートだけではない。
その事に思い当たった銀八は、表情を一転させにやりと笑った。
 
「ならついでに新しい下着も買っとっか? もっとエロいヤツ」
「…………」
 
銀八の発言に冷たい眼差しを向けるだが、最早銀八は動じない。
がすでに怒りを収めているのはわかっている。そして呆れられるのはいつものことで、今更気にすべきようなことではない。
調子に乗って銀八は更に続ける。
 
「なんつーの? 清楚な女教師がエロい下着つけてるって、それだけで興奮できるってーの?」
「そんな下着つけて学校に来られる訳がないでしょう!?」
「ふぅん? じゃあ学校でなきゃつけてくれるんだ?」
 
勝った、と銀八は思う。
口を滑らせたとが後悔しても、時すでに遅し。
揚げ足を取られただけだとわかっているが、ここで反論しても銀八は聞く耳を持たないだろう。
が吐いた諦めの溜息は、肯定の意。
笑みを深めた銀八はいそいそと立ち上がると、の腕を引いて立ち上がらせた。
 
「じゃあこれから早速買いに行くか。詫びは早い方がいいしな」
「って先生!? まだ授業が残って!!」
「その身体じゃ授業は無理だろ」
 
銀八自身には、6時限目に授業は入っていない。には確か入っていたはずだが、どのみちこの状況ではとても授業どころではないだろう。三度もイかされたの身体は本調子に戻りきっていないはずで、覚束ない足取りでふらふらと身体をよろめかせている。
この様子ならば、体調を崩したということにしておけば、不審に思われることなく堂々とサボれることだろう。
身体を頼りなくふらつかせるの身体を抱き上げると、その耳元へと口を寄せる。

「俺にとっては授業よりもの機嫌とる方が大事なんだよ」
 
耳まで赤く染め上げたが可愛くて、そのままこめかみに口唇を押し当てた。
色気も可愛らしさも持ち合わせた生真面目な女教師には、一体どんな下着が似合うだろうか。そんなことを考えながら―――



<終>



ドSモード炸裂な先生が書きたかっただけです。
どうでもよいですが、「坂田先生」という呼び方に迂闊にも萌えてしまいました。我ながら萌えツボがわかりません。

('07.12.09 up)