子供が寝た後で
肌寒さを覚え、銀時はぶるりと身体を震わせる。
朦朧とする意識の片隅で何時だろうかと思案するものの、すぐにその思考も霧散する。
夢現にぼんやりと求めるのは現在時刻などではない。確かな温もりだ。
無意識下で銀時は手を伸ばす。昨夜共に寝たが隣にいるのだから、人間湯たんぽにしようと、そういった腹積もりで。
だが伸ばした手は空をかくばかり。
億劫ながらも目をうっすらと開けたものの、やはり目に入る範囲にの姿は無い。
時刻こそはわからないが、きっと朝だろう。は一人起き出して朝食の準備なりなんなりを始めているのかもしれない。
ならば誰かが起こしに来るまで一人で二度寝を決め込めばいいのかもしれないが、どうもそういう気にもなれない。いるべきはずのが隣にいないとなると、何やら落ち着かないのだ。
溜め息を吐いて銀時は布団の外へと出る。冷えきった空気に身を縮ませながら、を発見次第抱き締めようと決意する。冬の朝は一人で迎えるにはあまりにも寒すぎる。
だが襖を開けると、しんと静まり帰った部屋が広がるばかり。人間の存在すら拒絶するかのような凍てついた空気に、銀時は疑問を覚えた。いくら寒い朝とは言え、が立ち動いていれば、もう少し人の温もりが感じられてもいいはずだ。
温もりどころか、物音一つしない。窓の外から、目覚め始めた街の声が聞こえるだけである。
曖昧な不安を抱きながら家の中を探し回っても、台所はおろか、風呂場もトイレも人っ子一人いない。
だが玄関にはの履物が揃えて置いてあるのだから、帰ってしまったわけではないだろう。
外に出た形跡はなく、かと言って家の中にも姿は見えない。まるで蒸発してしまったかのようだ。
「オイオイ。冗談だろ」
これではまるでが神隠しにでも遭ったかのようではないか。
焦燥に駆られながら、銀時は押し入れの襖を勢いよく開けた。
「神楽! 知らねェって何やってんのお前らァァァ!!?」
まさかと思ったのだ。
まさかの行方を神楽が知らないだろうかと思いながら、縋る思いで問い質したその声は、途中から怒声へと変貌した。
何せ、探していたはずのが、目の前で寝ていたのだから。目の前、つまり押し入れの中で。狭い押し入れの中で、神楽を抱き締めながら。
「……あれ? 銀ちゃん? おはよぉ……」
「おはようじゃねーよ!」
「銀ちゃん、朝からうるさいアル……」
「低い血圧で頑張らせてんのはどこのどいつだと思ってんの!? 羨ましすぎんだよコノヤロー!!」
目を擦りながらもから離れようとしない神楽についうっかり本音を口走ってしまったものの、それはさらりと聞き流されたらしい。
だが実際、羨ましいこと限りない。何せ寝る時に銀時が抱き寄せようとしても、は恥ずかしがって嫌がるばかり。いつもが寝入ってからこっそり抱き寄せるしかないのだ。
それなのに神楽とならば、嫌がるどころか、逆に抱き締めてまでいるのだから、これで羨ましくならない訳がない。
銀時が苛立ちすら覚えているというのに、神楽はむずがって益々にしがみついてその肌蹴た胸元へと顔を埋めている。最早羨ましさを通り越して殺意が湧きそうだ。
そんな神楽の頭を撫でながら、こちらはちゃんと目を覚ましたらしいが不思議そうに「どうしたの?」と問いかけてくる。本当にわからないのか。目を瞬かせているに、銀時は思わず溜め息を吐いた。
「お前さァ、いきなりいなくなってて、俺がどんだけ心配したと思ってんの」
「ご、ごめんね、銀ちゃん……でも神楽ちゃんが」
「神楽が?」
「寒いから一緒に寝てくれって……」
「だからって、何でこんな狭い所で寝てんだよ」
「そ、それは……」
「昨夜は銀ちゃんが満足するまで待っててやったアルヨ。だからその後は私がを独占する番ネ」
口ごもるに代わり、神楽が振り向いて答える。その視線はまるで汚いものでも見るかのよう。これはつまり、そういう事なのか。
「銀ちゃん……やっぱり家では、その…やめようよ……」
何を、とは言わなかったが、の言わんとする事はわかる。
自分の家で、何故こうも気を遣わなければならないのか。
疑問に思いながらも、頬をこれ以上ないまでに真っ赤に染めたに対し、不承不承頷かざるを得ない銀時だった。
<終>
なんか神楽をぎゅっとしたくなっただけの話(笑)
('08.02.11 up)
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