イチゴミルクな恋の味
天気がよくて。
ジャンプも読み終えて。
仕事も無くて。
家の中の糖分は切れていて。
それが、銀時がぶらぶらと外を歩いていた理由。
だから。
途中、買い物をしていたに出会ったのは偶然で。
その場で、意味の無い会話に興じたのも偶然。
に誘われて公園のベンチに座ったのも偶然。
紙パックのいちご牛乳を手渡され、糖分を補給できたのも偶然。
そう。すべては偶然の産物なのだ。
(なら、コレも偶然の産物、ってわけか?)
とっくに飲み終えたいちご牛乳の紙パックを潰しながら、銀時は考える。
隣ではが、まだ中身の残っているいちご牛乳の紙パックを手に、先程から喋り続けている。
女という生き物はお喋り好きと言うが、も例外ではないらしい。
銀時が適当に相槌を打つ合間にしか、いちご牛乳を口にしていないのだ。
なかなか減らないのも道理であろう。
初めこそは、飲まねェなら俺にくれ、といった思いでそれを見ていたものだが。
気付けばその視線は、紙パックを持つ、白くほっそりした指へと。ストローを銜える、ふっくらとした唇へと向かっていた。
それを自覚し、出した結論が、先程のものである。
とは、いつどこで知り合ったのか。
実のところ銀時は、それをあまり覚えていない。
多分、甘味処だとかそのような場所であったのだとは思う。
気付いた時には、偶然会えば、こうして会話し、時にはパフェや団子を共に食べる。その程度の仲にはなっていた。
逆に言えば、その程度の関係でしかなかったのだ。
断じて色恋沙汰とは縁がなかった。
と言うよりも、考えたこともなかった、と言った方が正しい。
「? 銀さん、どうかした?」
銀時の視線に気付いたのか、が首を傾げる。
そして、その視線の先を辿り、「ああ」と納得したかのように声をあげた。
「これ、飲みたい? あげるよ」
でも糖尿には気をつけてね、と笑いながら、は手にしていたいちご牛乳を銀時に差し出す。
手渡された紙パックには、多分、半分くらい残っている。
貰うつもりは無かったが、せっかく手にした糖分。飲まなければ損である。
紙パックから出ているストローに、何気なく口をつけようとして。
しかし銀時は、一瞬、その目を見開いた。
紅を引いていたのだろう。も女なのだ。それくらいは当然だ。
そして、紅を引いていたのだから、その紅がストローにうっすらとついてしまっているのも、当然なのだ。
だが。
(これって、間接チュー、だよなー……)
不意に思い至ってしまった事実に、銀時の胸は思わず高鳴る。
10代の子供でもあるまいし、この程度で何を、と鼻で笑う理性とは裏腹に、感情は確実にを意識している。
その指を。
その唇を。
その仕種を。
その笑顔を。
「? どうしたの、銀さん?」
先程と同じように、首を傾げて尋ねる。
それでも「別に」と平静を装い、ストローに口付けようとして。
ふと、銀時はの反応を試してみたくなった。
「ただ、これって間接チューだよなー、って思っただけ」
「へ? ……きゃああぁああっ!!! ストップ、ちょっとストーップ、それ返してぇぇえっ!!!」
「もう遅せーよ」
真っ赤になって悲鳴をあげるを横目に、銀時は今度こそストローに口付ける。
口の中に広がる、いちご牛乳の甘い味。
そして。
(ま、こんなのもいーかもな)
慌てて銀時の手からいちご牛乳を取り返そうとするの手を、逆に掴み。
引き寄せ、銀時はその目を覗き込む。
「なァ、。俺と、付き合わねー?」
この恋は、偶然の産物。
この恋は、いちご牛乳の味。
<終>
飲んだことないですが、いちご牛乳って、美味しいのでしょうか。
今度、買ってみようかな……
などと、すぐに影響される私です。
|