夢では会わない!



ここ数日、とみにの視線を感じる。
別段それが嫌だというわけではない。恋人の視線を厭うようになったら、もうその二人は終わりだろう。ついでながら銀時には、二人の仲を終わらせるつもりは毛頭無い。
故に、疎ましくは思わないのだが。
それでも気にならないわけではない。
大人しく、普段は目を合わせることすら躊躇う気配のあるだというのに。
始めは、どこかに何かついているのか、それともおかしなところがあるのかと自然に考え何気なく聞いたものの、違うと言われ。
理由はわからないながらも、気にかけてもらえるのは嬉しいものだと、最初の頃こそは浮かれた気分であったものの。
さすがに数日続くと、一体どういうことなのかと首を傾げたくなる。
不快だというわけではない。見られることに快感を覚えるようなナルシストではないものの、にならば構わないと思うところはある。
ただ単純に、理由が知りたいだけなのだ。
が何を考えているのか。その行為にどんな意図があるのか。
特に後ろめたいものがあるわけでもない。直球で問い質せば、始めこそは誤魔化そうとしたも、ついには観念して口を開いた。
 
「あ、あのね……この前、銀ちゃんが夢に出てきたの」
 
それがどうしたと言うのか。
夢に見るほど好いていると言うことか。ノロケか。ノロケなのかこれは。
自分のことを惚気られているような言葉に銀時はむず痒さを覚える一方で、しかしの様子からしてそれは違うのだろうことを悟る。
まさか迷惑だとでも言うつもりなのか。
一瞬過ぎった思考を銀時は振り払う。仮にそうだとしたならば、の視線の意味がわからない。迷惑ならば、逆に視線を逸らすだろう。
 
「夢って、願望が出るって聞いたんだけど」
「…………」
「銀ちゃんには毎日会ってるのに、私まだ足りないのかなって思って」
 
何だこのバカ可愛い天然娘は。
聞いた途端、そう、銀時は頭を抱えたくなった。
惚れた欲目というものも多分に含まれているだろうが、それにしたところでバカ可愛いとしか表現できない。百歩譲って可愛いバカ娘だ。どちらにしたところで可愛いことに変わりは無い。
だが当のは至って真顔。これはきっと真剣に考えたに違いない。
真剣に考えて出した結論が、ならば充足するほどに眺めればいい、といったところなのか。
単純と言うか、そもそも何かが間違っている気がしないでもない。たとえ自身が至極真剣なのだとしても。
けれどもそこも可愛いと思ってしまうあたり、やはり惚れた欲目なのだろう。その点については銀時は諦めている。
とはいえ、いくら可愛くとも、四六時中見られているのは正直困る。可愛くて仕方の無い恋人、プライバシーの侵害とまで言うつもりは無いが、落ち着かないことだけは確かだ。

「夢に出てくるのは、自分を好きになってわざわざ夢の中まで押しかけてきた相手、って意味もあるらしいぜ」
「うん?」
「だからまァ……そういうコトなんじゃね?」
 
言いながら、これでは遠回しの愛の告白ではないかと思わずにいられない。
恋人なのだから今更誤魔化す必要も無いだろうが、それにしたところで面と向かって口にするには恥ずかしい。
目を逸らして口にした言葉は、に通じただろうか。
ちらりと様子を窺えば、その目は相変わらず真っ直ぐ銀時へと向けられたまま。その表情も真剣なまま。
 
「じゃあ銀ちゃんは? 銀ちゃんの夢に、私は出てくる?」
 
遠回しの愛の告白を返してきた。
もしここで銀時が「出てこない」と答えたならば、はどんな反応を見せるだろうか。
考える間でもない。泣く。大泣きされるに決まっている。泣かれるだけならまだしも、下手をすれば「自分の思いが足りないから」と別れ話にまで発展しかねない。
極論かもしれないが、思い込みの激しいのこと、絶対に無いとは言い切れない。
しかしこれはあくまでも仮定の話。そんな返答をするつもりは、銀時には毛頭無い。それは嘘でも誤魔化しでもなく。
 
「出てくるに決まってんだろ」
 
あまりにも度々出てくるものだから、欲求不満の表れかと思いもしたのだが。
考え方を変えれば一転、それだけに思われている証拠となるのだから、世の中というものは実によく出来ている。
とは言え、所詮は夢。現実ではない。
どうせ会うならば、現実で。
 
「でも夢の中までちょくちょくやって来んのは面倒だろ。だから―――だからいっそ、ウチに住んだらどうだ?」
 
愛の告白が遠回しならば、こちらも遠回し。
にその意図は伝わっただろうか。
意味を解したが顔を綻ばせたのは、数瞬の後―――



<終>



書き終わってみれば短かったですねー。
タイトルを使ってみたかっただけの話です。
でも私は、夢に銀さん出てきたら狂喜乱舞しますけどね(笑)

('08.11.12 up)