番外HEAVEN 〜秘密の花園への御招待〜



「銀ちゃん。話があるの」
 
頬を染めたに声をかけられて。
銀時が期待をしないわけがない。
言われるままに、ソファに腰を下ろし。向かいに座るを見つめて、早10分。
なかなか話を切り出さないだが、別段それが苦にはならない。
から告白されるのを待つのであれば、一日中眺めていたところで平気だとさえ思える。
そんなことを考えながら、銀時は大人しくの言葉を待つ。
現在、新八は買い物に出かけ、神楽は定春の散歩。
これでに告白されれば、好条件は揃い踏み。何の気兼ねもなく、押し倒せるのだ。
思わず緩みそうになる顔を、何度持ちこたえたことか。
 
「あ、あのね……っ」
 
ようやく覚悟を決めたのか、が顔を上げる。
思わず唾を飲み込む銀時。
いよいよ待ちに待った瞬間を迎える時、と。今にも身を乗り出しかねない勢いである。
ところが。
が口を開いた、その時。
 
っ!!!」
「下着盗まれたってのは、本当ですかィ!!!?」
 
ガラっと扉を開けて飛び込んできたのは。
万事屋従業員の新八でも、居候の神楽でもなく。
どういうわけだか、真選組の土方と沖田であった―――
 
 
 
 *  *  *
 
 
 
「また出たんですか。フンドシ仮面が」
 
土方と沖田の後を追うようにして、新八も神楽も戻ってきたため、万事屋内は満員御礼。
の両隣には、新八と神楽が腰を下ろし。正面は、土方と沖田が陣取り。
結果として銀時は、自分の机へと追い払われる羽目になった。
面白いわけが無い。
しかし、銀時が不貞腐れていても、話は進む。
 
「ああ。脱獄したようでな」
「何やってるアルか。おかげで私のが迷惑ヨ」
 
神楽の非難に、土方は「奴の管轄は真選組じゃねーんだよ」と返す。
ならば、何故この二人がここに現れたのか。
管轄外なら関わるんじゃねーよ、と言いたげな銀時の視線に気付いたのか、沖田はにやりと笑みを浮かべた。
 
さんから、メールを貰ったんでさァ。下着盗まれたって」
「本当は警察に届け出るべきだったんだろうけど、なんか恥ずかしくて……
 それで、総ちゃんと土方さんも警察だし、と思って、メールしたんだけど……」
 
そこまで話すと、は申し訳なさそうな顔を土方に向けた。
 
「あの……すみません。管轄外だってこと知らなくて、そんなメール送ってしまって……」
 
だが、今にも泣きそうなを前に、土方も沖田も、それ以上にを追い詰めることなどできるはずがない。
元々、追い詰めるつもりもなかったが。
 
「構わねーよ。捕まえた後はともかく、捕まえるまでは管轄なんか関係無ェからな」
「そうでさァ。それにさんの一大事なら、俺はいつだって協力しますぜ」
 
その愛想の良さに、ますます銀時は苛立つ。
が、誰も銀時のことなど気にしていない。
かと思いきや。
不意にが、銀時へと顔を向けた。
 
「それでね、わたし、銀ちゃんに相談したくって…その……」
「あー?」
 
またもや赤くなって口篭る
どうやら、先程の銀時への話とやらも、このことであったらしい。
そのことに少なからず落ち込むものの。
しかし、相談を銀時にしようとしているのだ。警察にではなく。
考えようによってはこれはつまり、が頼りにしているのは、警察でも真選組でもなく、銀時だということではないか。
そう思い至ると、銀時はまたもや顔が緩みそうになる。
だが、そんな浮かれた気分は、一瞬にして吹き消されることとなった。
 
「あ、あのね……もし、そのフンドシ仮面に盗まれたんだとしたら、その……
 ……知らない男の人にあげられちゃう前に、下着、取り戻してほしいなぁ、って……」
 
そのの言葉に、銀時だけではなく、室内にいた全員が硬直する。
言われてみれば、フンドシ仮面とやらは、盗んだ下着をモテない男たちにばら撒くのだ。
つまり、が盗まれた下着も同様、どこの誰とも知れぬ、モテない男の手に渡る可能性がかなり高いということで。
 
「テメッ、フンドシ仮面ーっ!!
 モテない男の勲章でいーから、の下着を俺に寄越せェェェェ!!!」
「山崎ィィ!! 今すぐフンドシ仮面の居場所を特定しろォォォ!! でなけりゃ切腹だコラァァァァ!!!」
「定春! 変態を探し出すアルヨ! 定春の鼻ならできるネ!!」
 
銀時は窓の外に向かって叫び、土方は携帯越しに山崎に怒鳴りつけ、神楽は定春をたきつける。
突然の三人の行動に、はぽかんとそれを眺めることしかできない。
新八は、「銀さんが一番役に立たない行動してますね」と的確な事実を述べ。
そして、残る一人。このメンバーの中で、最も過激なことをしかねない沖田はと言えば。
 
「ところで、さん。
 盗まれた下着ってのは、何色なんです?」
 
違う意味で過激な発言をしていた。
一瞬、室内がシン…と静まり返る。
 
「……て、テメッ、総悟っ!! 何てこと聞いてやがる!!?」
「どんな下着が盗まれたかわからなけりゃ、取り戻すことなんてできませんぜィ?」
「おー。それもそーだ。で、、何色なんだ?」
「……銀さん、目が輝いてますよ」
「変態がここにもいたネ」
 
沖田と銀時と。
二人に詰め寄られ、は「え、ええと、その……」と再び口篭らせる。
が、沖田の言い分ももっともだと思ったのか。
先程から上気している頬を更に赤く染め、ぼそぼそとは呟いた。
 
「あの…………黒」
 
再び、静寂が場を支配する。
さすがの沖田も、の返答に一瞬呆気に取られた。
が、すぐに気を取り直す。
 
「……さん、意外と過激派だったんですねィ……」
「……なんか燃えてきましたよ、銀サンは」
「でも旦那、やっぱり黒は、恥ずかしがるのを無理矢理着用させるのが醍醐味でさァ」
「あー。確かにそれも燃えるわ」
 
いつの間にか銀時も気を取り直していた。
どうやら銀時と沖田、この手の話においては気が合うようである。
だが、まったく合わない人間も、世の中にはいるわけで。
 
「っテメェェェらァァ!! なんて話してやがる!!!??」
 
そういう話をの前でするな、と。
今にも剣を抜きかねない形相の土方に、しかし銀時も沖田も動じない。
それどころか、にやにやと、からかうような笑みを浮かべる。
 
「あれー? もしかして多串君には刺激が強すぎたー?」
「駄目ですねィ。この程度のことで赤くなってりゃ、世話ねーや。で、土方さんは何色が好みで?」
「テメーら勝負だ剣を抜けェェェ!!! ちなみに白だ悪いかァァ!!」
 
ちゃっかりと好みを口にしながら、それでも土方は、それこそ鬼のような形相で剣を抜く。
沖田は同じく真剣を抜き、銀時は木刀で上手く受け流し。
ただし、その応戦の合間にも、「ピンクの総レースってのもありじゃね?」だの「どうせなら紫のヒモパンで」「上等だコラァ! 水色でも構わねェよォォ!!!」だのといった応酬まで繰り広げられている。
そんな三人を、呆れた面持ちで眺める新八と神楽。
 
「他にやるべき事があると思うんですけど。今は……」
「変態の群れアルヨ。変態の群れ。、近寄ったら危険ネ」
「う、うん……」
 
さすがにも、真剣で斬り合っている中に割り込もうとは思えない。
だが。
どうにも気になることがある。
 
「……もしかして、勘違いされてる、のかなぁ……」
「え?」
「盗まれたの……わたしの下着じゃ、ないんだけど……」
 
ぽつりと漏らした言葉は、斬り合いながらも、今度は下着の布面積についての議論へと移行した三人には、どうやら届かなかったようである。
 
のじゃ、ないアルか?」
「うん。隣の部屋に住んでるおばさんにね、物干し台が足りなくなったから、貸してくれって言われて。
 おばさんはね、借りてた身だし、下着一枚くらいは、って笑って許してくれたんだけど、やっぱり……」
 
知らない人の手に渡っちゃう前に、ちゃんとおばさんに返してあげたくって。
困ったような笑みを浮かべるの言葉は、やはり争う三人には届いていないらしい。
 
「何言ってるんですかィ。ブラジャーはフロントホックが外しやすくていいんですぜィ」
「んー。なら、チューブトップブラもありじゃねーの?」
「なんでテメーら、んな詳しいんだ!!? 普通でいいだろ普通で!!!」
 
もはや、話の本筋から逸れてしまっている男三人。
その三人に呆れた視線を向け、神楽がぽつりと。
 
「男は馬鹿な生き物アルネ」
「いっそ、哀れな気さえしてきましたよ、僕は……」
 
存在しない『盗まれたの下着』のために白熱する男三人の姿は、滑稽だとしか思えなくて。
溜息をついた新八は、腰を上げる。
 
さん。神楽ちゃん。
 ここに居たところで話は進みませんし、警察かどこかに協力した方が早くないですか?」
 
どうやら真選組も動いているようだし、と新八が言えば、神楽も「そうだヨ、。こんな変態の巣窟からは、さっさと出た方が身のためネ」との手を引く。
促されたは、それでも気になるのか、いまだ争う三人を見やったが。
逡巡して、手を引かれるままに立ち上がった。
 
「そうだね。おばさんのためにも、早く取り戻さなくっちゃ!」
 
男三人よりも、隣人のおばさんを選んだ
 
 
 
銀時、土方、沖田の三人が、どころか新八も神楽も万事屋から居なくなっていることに気付いたのは、それから数時間後。
 
そして、盗まれた下着がのものではなかったと知るのは、更にその後―――



<終>



またもや岡田あーみんネタを盛り込んでます。すみません……
登場人物が多いと捌ききれないことがわかりました。反省。