・土方副長編
「チョコですよ、副長」
「いらねェよ」
「チョコなんですよ?」
「いらねェっつってんだろ」
「みんなの欲しがるチョコですよ?」
「しつこいぞ、テメー」
「もしかして副長、不感症ですか」
「テメェ、上等だコラァァァ!!!」
それこそ鬼のような形相で振り向いた土方に、しかしは平然とした面持ち。
目を瞬かせただけで、何事も無くその場に腰を下ろしたまま。
「図星でしたか。すみません」
「切腹しろ。介錯は俺がしてやる」
「でも言いだしっぺは沖田隊長ですよ?」
「総悟ォォ!! どこにいやがる!!!?」
一瞬にして怒りの矛先が変わる土方に、は内心では大笑い。
きっとそのうち、高血圧だと診断されるに違いない。
もしかしたら、血管が切れてしまう方が早いかもしれないが。
そうなれば、副長の座を狙っている沖田は大喜びだろうが、にしてみれば困ってしまう。
今の真選組は、土方副長あってのものであることは、確かであるし。
何より、からかう相手が居なくなってしまっては、真選組にいる楽しみが半分以上減ってしまう。
落ち着かせるためには、カルシウム。しかしこの場にカルシウムなど、あるはずもなく。
ならば、とは、先程まで土方に差し出していた包みのリボンを解くと、中に包んでいたチョコレートを一つ、手に取る。
「副長。落ち着いてください」
「うるせェ! そもそもテメーが―――っ!!?」
またもや怒りの矛先を向けられたが、実はその姿は隙だらけ。
にこりと笑みを浮かべると、はすかさず土方の首に腕を回し、その頭を引き寄せ、口付ける。
するりと舌を侵入させ、口に含んでいたチョコレートを流し込んで。
これで用件は済んだとばかりに、は唇を離した。
「チョコも、精神安定にはいいらしいですよ?」
突然のことに顔を真っ赤にさせている土方を見て、は笑いながら言う。
チョコも食べさせることができたし、からかうこともできたし。一石二鳥、してやったり。
だが、チョコには確かに精神安定の効果があったらしい。
「お前なァ。誘ってんのか?」
あっさりと冷静になった土方は、頭を掻きながらもにやりと笑みを浮かべると、の腕を掴んで引き倒す。
そのままのしかかるようにして、今度は土方からに口付けた。
「―――誘ってませんよ」
「誘ってんだろ。明らかに」
「誘ってませんってば。何いきなり上着脱いでるんですか」
「うるせェよ。黙って抱かせろ」
「うわ。横暴ですよ、副長ー」
そう言いながらも、しかしに嫌がる様子は見られない。
が浮かべる笑みも、土方の首に回された腕も、それは明らかに誘いの仕種。
昼間から何て誘い方しやがるんだと、土方は苦笑しながら、それでも艶やかな笑みを形作るの唇に、再度口付けを落とす。
「夜まで待てなかったのかよ」
「だから、誘ってませんってば。副長の欲求不満な脳が見せた、都合のいい幻覚ですよ、それ」
ここまで来たら、憎まれ口も単なるじゃれ合い。
のすべてを曝け出そうと、土方の手が動き―――
「土方さん、呼びましたかィ?」
事前に声をかけることもなく、唐突に開かれた障子。
にやにやと笑うその姿からは、悪意しか感じられない。
明らかに、この状況を狙っていたとしか思えない、沖田の所業。
「何やってんですかィ、昼間っから」
押し倒され、胸元を肌蹴られていると、そのに覆いかぶさるような位置にいる土方。
何をしようとしていたかは、明々白々。
にやにや笑いをやめようとしない沖田に、が返事代わりに口にした言葉は。
「きゃー。助けて襲われるー」
「テメっ、なに棒読みしてんだコラァ!!」
「の危機ってことは、ここで土方さんを斬っても問題無いってことですねィ」
「うん」
「頷いてんじゃねーよ!!! って、うおおぉぉあっ!!!??」
にツッコみつつ、しかし的確に自分を狙って振り下ろされた刀を避ける土方。
その隙に身を起こして服を整えたは、芝居がかったように頭を振った。
「やめて、二人とも! 私のために争わないで!!」
「。男には、引けねェ時があるんでさァ」
「お前ら、打ち合わせしてんだろ。笑ってんじゃねーか! グルだろ、グルになってんだろォォォ!!!」
絶叫する土方に、再び沖田が斬りかかる。
は、これで満足したとばかりに立ち上がり。
部屋を出る直前、ふと振り向いた。
どうせ土方は聞いていないだろうが、それでも笑っては言った。
「副長。続きは夜にしましょうね?」
<終>
……つくづく邪魔されてますね。土方さん。不幸だなぁ……
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