「基本は三倍返しと申します。
男性の皆様はせいぜい頑張ってお返しをしてくださいませ」
朝も早くからテレビの中でにこやかな笑顔を振りまいているのは、「お目覚めテレビ」内で人気を博しているお天気お姉さんこと結野アナ。
その笑顔とは裏腹に、やや毒を含んだその言葉。耳にした途端、銀時は朝食を食べる手を不自然に止めた。
別に結野アナの毒に当てられたわけではない。むしろそれがなければ結野アナではない。
銀時の動きを止めたのは、その内容―――「三倍返し」の、その言葉。
「ああ。そういえば今日はホワイトデーでしたね」
何気ない新八の言葉が、更に銀時を追い詰める。
今までは鼻で笑っていた行事だったのだが、今年に限っては事情が変わってくる。
毎年毎年、特に収穫も無かったバレンタインデー。それが今年は収穫どころの話ではない。貰ってしまったのは手作りのチョコ。相手は、憎からず思っているどころではない少女。
だと言うのに、今日がホワイトデーだということをすっかり忘れていたのだ。これは致命的だ。当日になってその存在を突きつけられても、一体何をどうすればいいのか。
もちろん何も考えていなかったわけではない。いつの間にか3月14日になっていたというだけで、ホワイトデーの存在そのものを忘れていたわけではないのだ。どういったものを贈ろうか、考えてはいたのだ。
しかしここで引っ掛かるのが「三倍返し」。果たして銀時が考えていたお返しは「三倍返し」として相応しいのか。
それを検討するには、まず貰ったチョコの価値を算出すべきだろう。
だが即座にそれは無理だと銀時は判断する。
何せ手作りチョコ。しかも相手が相手なのだ。もはや単なるチョコではない。プライスレス。まさに「お金で買えない価値がある」というヤツだ。
そして銀時の思考はあっさりと煮詰まる。
プライスレスの三倍返しなど、一体どれほどの物になるのか。
考えかけて、考えるだけ無駄だとすぐに銀時は諦めた。何せプライスレス。何かに換算できるはずがない。
無駄な思考に費やす時間があるならば、三倍返しの中身を考えるべきだろう。
物理的な価値に換算できないのであれば、あとはもう気持ちの勝負しかない。
ただひたすらに告白―――では芸が無いから、ホワイトデーなどという日をわざわざ設定してあるのだ。
いっそプロポーズ―――など、いくら何でも早急すぎる。
その一歩手前で指輪―――さすがにそこまでの先立つ物が無い上、そもそも指輪のサイズなど知る由も無い。
こうなったら体で三倍返し―――引かれる。間違いなく引かれる。最悪逃げられる。
一体どうすればよいのか。
食事中にも関わらず頭を抱えて苦悩し出した銀時を他所に、新八も神楽も、さして量の無い朝食をさっさと終えてしまった。
「銀ちゃん、何を悩んでるアルか。また股間のモノでも腫らしたアルか?」
「ホワイトデーの事なんじゃない? さっきの結野アナの言葉聞いてからこれだし」
「何アルか、それ」
「バレンタインに貰ったチョコのお返しを贈る日だよ。ほら、神楽ちゃんも貰ったでしょ?」
「マジでか。私も何か贈らなきゃならないアルか!?」
「気持ち程度の物でいいとは思うけどね。あの人もさすがに僕らからは何も期待してないだろうし」
「でもあのチョコ、手作りで美味しかったネ。お返しも倍にして返すべきアルヨ」
「そうそう。でもあんな手作りチョコ配って回ってたら、行く先々で勘違いされてるんじゃ―――」
―――苦悩する銀時の耳に二人の会話が届かなかったのは、幸か不幸か。
<終>
(めざ○しテ○ビの「ト○と旅する」見て、今日がホワイトデーだと気付きました…)
|