炬燵に蜜柑。
正月特番をぼんやり見ながらお雑煮を啜る。
自宅に引きこもり。
それこそが、日本人の正月スタイル。
由緒正しく美しく
しかし、いくら伝統あるスタイルであろうとも、腑に落ちないものはある。
正月早々、は頭を抱えたかった。
炬燵は問題ない。
蜜柑も、籠の中身が半分になっているとは言え、ひとまずは問題ない。
テレビ番組も、相変わらず退屈な特番ばかりだが、それは毎年のことであるからやっぱり問題ない。
お雑煮はさっき食べ終わった。我ながら上出来だと舌鼓を打ったくらいだから、問題ない。
問題なのは、それ以外。
「何でアンタらがここにいるの?」
「家にいても暇なんだよ」
「正月の挨拶回りだ」
「あァ? ひめはじめヤりに来―――」
「帰れ。引き籠ってろ」
炬燵を囲む、男三人。
籠の中からおもむろに手に取った蜜柑を投げつければ、見事三人の顔面に命中。ストライク! とは胸中で自分を褒め称えた。
ともあれ、この程度で帰る三人であるはずもない。
何故、正月早々に面倒な連中が我が家にやってくるのか。にはそれがわからない。
これならば、早々に初詣にでも行って厄払いしてくるべきだったろうかと真剣に悩む。
初詣も、それはそれで日本人の伝統的正月スタイル。
何も「正月スタイル」に拘るつもりはないのだが、気分の問題なのだ。
これぞ正月、という過ごし方をすることによって、怠惰な気持ちを正当化する―――何とも後ろ向きだが、それでも正月ボケを正当化するための理由は欲しい。
それに、正月くらいはのんびりと過ごしたいではないか。それなのに、「のんびり」とは程遠い存在が三人も。
これが四人でなかっただけ良しとすべきなのだろうか。
妥協も時には必要だと思うものの、それでも譲れない物は人間誰しも持っているわけで。
「あのね。私は一人楽しすぎるお正月を迎えたいわけで―――」
「ー! 遊びに来たぜよー!」
「帰れバカ本」
やはり妥協する理由はどこにも無いと、は確信する。
これで四人。何故自分が妥協しなければならないのか。
自分には自分の正月スタイルを守る権利があるはずだ。いや、絶対にある。
「入るとこが無いの〜。そうじゃ、の隣に入っ―――」
『入ってんじゃねェ!!』
が動くよりも、銀時、桂、高杉の三人の方が動きは早かった。
炬燵に入りかけた坂本に投げつけられた蜜柑三つは、先程が三人に向かって投げつけたものだろう。
おかげで坂本がの隣に強引に割り込んでくるという事態は阻止されたが、だからと言って三人が招かれざる客であることに変わりはない。
寒いのに、と溜息をつきながらは立ち上がる。
本当ならば一日炬燵の中でぬくぬくとしていたかったのだが、平穏のんびりな正月を死守するためには、多少の犠牲も必要なのだ。
「どこ行くんだ?」
「便所だろ、便所」
余計な事を言う銀時の頭を通りすがりに殴りつけると、無言のままは部屋の外へと出る。
わざわざ教えてやる義理は無い。
どうして新年早々、肉体労働などしなければならないのだろうと嘆きたくなる。
が、正月が終わるまで四人に居座られ、下手をすればタカられることを考えれば、この点については妥協するべきなのだろう。
向かうは納戸。目指すは、昔取った杵柄。
「―――あれ? 他のバカたちは?」
「がおらんなら意味ないと帰ってったぜよ」
昔取った杵柄―――日本刀と、ついでに重箱を手に部屋へと戻ってきてみれば、坂本を除いた三人の姿は消え失せていた。
「いない」と認識されるほど長時間席を外していたのだろうかと思う。確かに、外へ出たついでに裏の家の住人に捕まり、作りすぎたとおせち料理の入った重箱を渡された更についでに話に興じていたが。
テレビ画面に映る時間を見れば、確かに納得。部屋を出てから3時間は軽く経過していた。
お喋りが楽しくてつい長々と外にいたが、確かにこれは「いなくなった」と認識されてもおかしくはないのかもしれない。
せっかく持ってきたこれをどうすべきかと、日本刀を手には悩む。
使うべき相手がいないわけではない。
目指したのは一人のんびりの正月。炬燵と蜜柑。特番とお雑煮。そこにおせち料理まで手に入ったのだから完璧ではあるが、如何せん、一人で食べるには少しばかり量が多すぎる気がする。
「せっかくだし、辰馬も食べてく? おせち料理貰ったの」
「おお! 酒は持ってきたきに、相伴させてもらおうかのー」
「え、お酒あるの? ラッキー!」
グラスと箸を用意すると、はいそいそと炬燵へと入りこむ。
あまり自覚は無かったが、身体は芯まで冷え切っており、炬燵の温もりが本当に心地よい。堪能していると、その間にグラスに注がれる酒。合わせて、は重箱を開ける。
「乾杯といくぜよ」
「あけましておめでとー」
チン、とグラスを鳴らし、一口。
あまり酒には詳しくないが、飲みやすいものを選んで持ってきてくれたのだろうかと思う。坂本のことであるから、何も考えずに持ってきた可能性も限りなく高いが、何にせよ美味しければ構いはしない。
お裾分けで貰ったおせち料理は、外にいたため冷えきってしまったが、それでも美味しい。来年の正月は自分でも少しくらい用意してみようかと思うほどだ。
それに、一人平穏に拘っていたが、二人ならば許容範囲だとは考える。賑やか且つ平穏。それに、話し相手がいることは楽しいとも思える。
「今日はおりょうちゃんのところ行かないの?」
「スナックは夜からじゃき、それまでのとこで待たせてもらおう思っちょるんじゃが」
「ちょっ、ここ休憩所じゃないんだけど?」
文句を言ってはみるものの、それでもカラカラと笑う坂本は何とも憎めない。
炬燵を挟んで向かい合い、おせちをつつく。退屈なテレビ番組をBGMに他愛のない会話。
普段であれば一人でも騒がしい坂本だが、今日に限っては正月だからか炬燵の魔力なのか、賑やかではあれども常よりは余程落ち着いている。
こんな正月ならありかと、納得して。
「来年のお正月も来る? ただし、一人で」
「当たり前ぜよ。と過ごす役得はわし一人で十分じゃき」
旨い酒も持ってくるきに、と坂本が意を得たように笑えば、もつられて笑ってしまう。
うっかりと一年後が楽しみになってしまった一年の始まり。
こんな始まり方ならば、今年一年、きっと楽しいものになるだろう。
<終>
今年一年が、皆様にとって素敵な年でありますように。
書いている途中でオチが当初と変わってくるのはいつものことです。
見事に「ヤマなしオチなしイミなし」な話ですね……
('10.01.01 up)
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