「ところで元旦から一人で甘味処にやってくる男をどう思いますか」
第一声がそれとか、本気で勘弁してくれ。
オヒトリサマ御案内
店に入った瞬間、顔なじみの店員であるから掛けられた言葉がそれだった。
しかも、馬鹿にしているような哀れんでいるような、そんな表情がオプション付きだ。
なまじ可愛らしい顔立ちをしているだけに、そんな顔を向けられては、銀時と言えどもそれなりにヘコむ。
確かにの言葉を第三者の立場で聞いたならば、馬鹿にするか哀れむかのどちらかだろう。
自覚はあるものの、敢えて無視することにして、銀時は勝手知ったる店内の空いている席へと座った。
「他に言うことねーの?」
「イラッシャイマセオヒトリサマゴチュウモンヲサッサトドウゾ」
「棒読みで毒吐いてんじゃねーよ」
いらっしゃいませ、の言葉すらない。
こっちは客だぞ、とは思わないでもないが、銀時は黙ってメニュー表をめくる。
甘味処らしく、メインはあんみつ。しかしこの店は、クレープやパフェも絶品なのだ。しかしやはりここは、期間限定メニューだろうか。1枚物の別メニューを眺めながら、銀時は一人頷く。
「んじゃ、キングストロベリーパフェ1つ」
「……新年早々、歪みないね」
ぼそりとが呟くが、これも敢えて無視することにした。
しかし、注文をとったが店の奥へと消えてから改めて店内を見回せば、確かに自分の存在は浮いているのだろうと銀時も思わずにいられない。
店内にいるのは、カップル多数。女性グループが3割。家族連れが残り。お一人様は、男女問わず、銀時ただ一人。
クリスマスもそうだが、正月というのも、実はお一人様には厳しい日らしい。
これではからあんな表情を向けられるのかも道理なのかもしれないが、しかし接客業でそれはどうなのか。
つらつら考えている間にも時間は過ぎ、目の前にパフェが運ばれてきた。合わせて、今更ながらにお冷も。
そして、白玉あんみつも。
「オイ。別にこれ頼んでねーけど」
「これ私のだから」
言うや、運んできたが、断りも無く銀時の真向かいに座る。
一体どういうことかと思いきや、相も変わらず哀れむような目をが向けてきた。
「店長がね。あんまりにも可哀想だから、休憩がてら付き合ってやれって。見てるこっちが痛々しいって」
「…………」
店長にまで哀れまれた上、同情されてしまったらしい。地の底までヘコみそうだ。
何故、正月早々、居た堪れない気持ちにならなければならないのか。しかも金まで払って。
理不尽な気分に陥りながらも、銀時はパフェを口へと運ぶ。
その向かいでは、が丁寧に手を合わせてからあんみつに手をつけていた。期間限定のパフェもいいが、定番のあんみつも甘くて美味しそうだ。
「銀さんもさ、まだ若いんだから、彼女の一人や二人くらいさっさと作っちゃえばいいのに。いい年した男が正月から一人パフェとか、見てて可哀想になってくるよ」
しかし食べている本人は、甘いどころか毒舌を放ってくる。
彼女ができないのはモテないから仕方ないではないか。そうなれば自然と正月も一人にならざるをえないではないか。医者に止められても甘いものは止められないのだから仕方ないではないか。
パフェをひたすら食べながら、銀時は胸中でそう言い返す。本当ならば言葉にしたいところだが、期間限定のパフェを堪能することを優先しているため、生憎とそれはできない。
だが、パフェに盛りつけられた大きな苺をフォークに差したところで、一言くらいは反論してやろうと、ビシッとフォークをへと向けた。行儀だの何だの、この場では言ってもあまり意味はない。
「いいんだよ、別に。大体だな、『まだ若い』って、お前に言われたくねーよ。年下に『可哀想』って言われてもな―――」
「え? だって銀さん、私より年下でしょ?」
「は?」
「この前、20代って言ってたじゃない。十分若いよ」
「言ったけどよ……」
何故それで自分が年下扱いになるのか。若いと言えるのか。
20代と言っただけで相手を年下にできるならば……
そこまで考えて、銀時は考えるのをやめたくなった。
目の前で首を傾げているは、どう見ても20代前半。20代半ばと言われても納得はできるが、精々そこまでだ。
だが、今の言葉では、どう考えても。
「――っ! 詐欺だろ! その顔で30代とか、騙してんじゃねーよ!!」
「なっ!? 誰も詐欺なんかしてないから! 勝手に騙されてるだけでしょ!?」
衝撃のあまり大声を出したせいか、何事かと周囲の視線が突き刺さってくる。だがそんなことは今はどうでもいい。
確かに、に年齢を問い質したことはない。遠回しに聞いたこともない。
しかし、10近く歳を誤魔化せるというのは、童顔という問題ではない。多少はそれもあるのかもしれないが、これはそれよりも。
「歳相応の言動とか落ち着きが足りてねェんだろ!!」
「っ! ど、どうせよく言われるもん!!」
よく言われるらしい。
つい大声をあげてしまったが、素直にが認めたものだから、勢いを削がれた銀時は溜息を吐いてその話題を終えることにした。
だが、怒って頬を膨れさせながらあんみつの餡をスプーンでグサグサ刺すのその様は、どう見ても30代ではない。
詐欺は言いすぎかもしれないが、自覚があって尚その言動を改めようとしないにも非はあるのではないか。
拗ねたようにあんみつを食べ始めたを正面から眺めながら、これでは彼氏ができないのも当然ではないかと銀時は思う。実年齢を聞いたら、大概の男は引く。女は化けると言うが、化けるとかそんなレベルですらない。女は魔物だ。
彼氏がいないからこそ、元旦早々に仕事をしている訳だ。他人の事など言えた義理ではないだろうが、それを口にしたが最後、が更に怒り狂うことは目に見えているため、流石の銀時も口を噤んだ。
それよりも大事なことは、今は他にあるのだから。
「……ま、年上ってのもいいよな」
「? 何か言った?」
「イヤ、やっぱパフェうめーな、って」
「……正月早々、それはどうかと自分で思わないの?」
憐憫のこもった目を向けられても何のその。そんなものは今更だ。
衝撃の事実こそあったが、許せる範囲だ。
「で、休憩はあと何分なんだ?」
「んー。あと10分くらい?」
白玉をもそもそと口にしながら、が時計を確認する。
残り10分。
たかが10分。されど10分。
思いがけず手に入った貴重な時間に、銀時は胸中でほくそ笑む。
さて。実はの顔を見るために銀時が元旦早々店まで来たのだと知ったら、は一体どんな反応を返してくれるのだろうか。
<終>
ネタ出しに困っていたところへ、友人の放った一言。
「一人でパフェ食べる銀さんでも書けば?」
はい。書きました(笑)
('13.01.01 up)
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