「さびしいクリスマスの人、ま、頑張れ!」
そう言って手渡されたものが『イカの塩辛』だった場合、どう反応するのが人として正しいのだろうか。
淋しくないクリスマスの過ごし方
「…………なんだこれは」
たっぷり数十秒。
軽い皮肉も込めて問い質した高杉に対し、は満面の笑みで答えた。
「イカの塩辛だよ」
そんなことは見ればわかる。聞きたいのは、何故これを渡されなければならないのか、その理由なのだが。
皮肉が通じない程に鈍い女では無い筈だ。おそらく、わかった上でとぼけているに違いない。証拠に、その瞳には明らかに面白がるような光が浮かんでいる。
挙句の果てには「今日の私はブラックスワンなの」と意味不明なことを言い出す始末。ますますもってわからない。ブラックスワンとは何なのか。何がどうなったら唐突にイカの塩辛を手渡されなければならないのか。
胡散臭いものでも見るかのような目を向ければ、高杉が理解していないことがにもわかったらしい。「知らないの? 世間知らずにも程があるよ」と馬鹿にされてしまった。そこまで言われる筋合は無い筈なのだが。
「クリスマスプレゼント」
先程とは打って変わって、面白くもなさそうにが言う。
いちいち説明しなくてはならないのが面倒なのはわかる。しかし、おそらく元となったネタがあるのであろうそれを、誰もが知っていると思わないでもらいたいものだ。
だがそれをに言ったところで、「世間知らずの晋助が悪い!」と返されるのがオチだ。それがわかる程度の付き合いだからこそ、高杉は黙っていることにした。
ついでに言えば、その程度の付き合いだからこそ、にも高杉の事をある程度悟ってほしいとは思うのだが。それも言うだけ無駄だろう。
第一、今問題にすべきはそこではない。
クリスマスプレゼント。
確かにはそう言った。
しかしこれはどう見ても、世間一般的に言われる『クリスマスプレゼント』からはかけ離れた代物にしか見えない。言うところの世間知らずである高杉にも、その程度はわかる。
「だから最初に言ったじゃない。『さびしいクリスマスの人』って」
ここまで説明しなくてはならないのかと、は不貞腐れる。
だが、説明された高杉もまた、表情が険しくなる。の言葉を総合するに、イカの塩辛はさびしいクリスマスを過ごしている人間へのクリスマスプレゼントと言うことになり、更には高杉がその人間に該当するということになる。にとっては。
何故そんな事を決めつけられなくてはならないのか。
「お前な……そんなことやってる時点で、お前も『さびしいクリスマスの人』だろうが」
「う゛っ……」
図星だったらしい。
言葉に詰まるに、高杉も少しは気が晴れる。
何にしてもせっかく貰った塩辛だ。ありがたく頂戴しておこう。
「どうせ私も『さびしいクリスマスの人』だもん」
「こんなくだらねー事してる暇があったら、男の一人でも引っ掛けておけよ」
「……ちなみに、今、私の家には炊きたての白いご飯があるんだけど?」
高杉の言葉など聞いていないかのように、まったく関係の無いことをは口にする。
いや、無関係ではないのか。
確かに、白いご飯にイカの塩辛は合うだろう。炊きたてならば、尚更だ。
今回はその意図が知れたの言葉に、高杉は薄い笑みを浮かべる。
「わかりにくいんだよ、お前は」
「晋助がわからなさすぎなの」
拗ねたように膨れてみせるが、言うほど拗ねていないのは丸わかりだ。
宥めるように頭を撫でてやれば、子供扱いするなと口にしつつも、どこか嬉しそうだ。まったくもって素直でない女だと思う。だがまぁ、こういうところは可愛いと思わないでもないのだ。
流石にそろそろ年貢の納め時だろうか。まぁそれも悪くないだろう。
そして、こんなクリスマスも、悪くはない。
<終>
ブラックスワンのCM見てたら唐突に思いついたネタ。
塩辛好きですよ。イカでもタコでもどんと来い! 炊きたての白いご飯があれば言うこと無しですねー。
あのCM、結構好きです(笑)
('13.12.26 up)
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