Cake Dance with You!



「なァ、。もうちょい。もうちょいだけ、な? な?」
「だぁめ。銀ちゃん、本当に糖尿病になっちゃうよ?」
 
銀時がいくら懇願しても、はケーキを片付けるのを止めようとはしない。
 
「いいんだよ。糖で死ぬなら本望だっての。男にはなァ、自分の信念貫き通してこその人生ってもんがあるんだよ」
「……それって銀ちゃんの自己満足じゃない」
 
手を止めて膨れるに、銀時は苦笑する。
が言いたいことも、わからないではない。
けれども、が言わんとしていることも、結局は彼女の自己満足に過ぎないのだろう。
所詮、人間なんてものは、自己満足のために生きているのだから。
 
それでも、目の前の相手を誰よりも愛しいと思うその気持ちに、嘘偽りは無いのだが。
 
「自己満足、いいじゃねーか。人はより満足できるものを求めて、高みを目指す生き物なんだよ」
「じゃあ、銀ちゃんが今目指してる高みって?」
「んー。とりあえずは、そこのケーキ」
 
と、その言葉が終わるか否かの内に手を出した銀時だったが、そこは。伊達に銀時とは付き合っていない。
何かを察したのか、寸でのところでケーキを銀時から離れた場所へと移動させた。
 
「だから、ダメだって。本当に糖尿病になっちゃうんだから」
「それなら、更に上を目指して、かな?」
 
今度は銀時の方が行動が早かった。
が言われたことを理解する間もなく、テーブルを乗り越え、の右手首を掴む。
ようやくが言葉の意味を理解したのと、銀時がその口唇に口吻けたのと。どちらが先だったのか。
有無を言わさぬ強引な口吻けには身を捩るものの、それは束の間。すぐにその身体から力は抜け、されるがままに口吻けをうけていた。
 
「というわけだ。俺が高みを目指すために、手伝ってくんね?」
「……今日、私の誕生日なんだよ?」
 
頼み事は筋が違うでしょう? と言いたげなの言葉に、銀時が詰まったのは一瞬の事。
にやりと。
まるでいい予感がしない笑みに、思わず逃げかけただが、それを簡単に逃す銀時ではない。
がっちりとの身体を捕まえたまま、テーブルから下りると。
 
「じゃ、俺の身体がへの誕生日プレゼントってことで頼むわ」
「それなんてお約束!?」
 
のツッコミなど馬耳東風。
あっさりと帯を解くと、銀時はをそのまま押し倒してしまう。
 
「ちょっ…こ、ここで!?」
「プレゼントは、貰ったその場で開けるのが基本だろ?」
 
これでは一体、どちらがプレゼントだというのか。
今の状況を甚だ疑問に思うものの、結局のところは流されてしまうのだった。
 
 
 
 
 
 *  *  *
 
 
 
 
 
―――なーんか、足りなくね?」
「ええ? 何が?」
 
もう十分だと言わんばかりのの髪を気だるげに弄りながら、銀時はぼんやりと考える。
すぐ隣には、半裸姿の
惜しげもなく晒された白い肌には、つい今しがたつけたばかりの紅い華が散っている。
いつもならば、それだけで満たされるというのに、今日だけは何かが物足りないのだ。
何かが。もう一押しの何かが。
 
「あ。糖分だよ、糖分」
「……ダメだからね。ケーキは」
 
釘を刺すようにが口にしたが、銀時がその程度のことでめげるわけもなく。
むしろ嬉々とした表情を浮かべたことに、は再びあまりよろしくない予感を覚える羽目になった。
しかしこの状況下。逃げ出す事など不可能だ。
残り少ない選択肢の中、が選んだのは「諦める」というもの。
 
「……あと一回だけ、だからね?」
「んじゃ、甘さ濃厚な一回にしねェとな」
 
自分の誕生日に、なぜ妥協してあげなければならないのか。
素朴な疑問の答えは、実のところあっさりと出てしまうのだが。
何だかそれが悔しくて、はふいと銀時から視線を逸らす。
その仕種がまた可愛いのだと、銀時が思っているとも知らずに。
 

 
名前を呼ぶと、しぶしぶと言ったようにが顔を向けてくる。
そのご機嫌をとるかのように、まずは啄むような口吻けを。
程なくしてそれは、深いものへと変わる。
舌を絡ませれば、は素直に応じてくる。
歯列をなぞり、口内を隅から隅まで味わい。
やけに響いて聞こえる湿った音が、銀時を更に煽る。
 
「…ふぁっ……」
 
解放されたの口唇から漏れるのは、熱い吐息。
幾度もの口吻けで、紅く腫れた口唇。
情欲に潤む瞳。
上気して桜色に染まる肌。
立ち込める自身の香り。
口吻け一つで、は銀時好みの極上の甘味となるのだ。
その甘味に今にも口をつけようとして。不意に銀時は、あることを思いついた。
 
「……ケーキはダメだって言っただけだもんな、は」
「銀、ちゃん……?」
 
ぼんやりとしたの瞳に映ったのは、にやりと笑う銀時の顔。
三度目の、ろくでもない予感。
けれども今しがたの口吻けの余韻が残るの身体は、なかなか思うようには動かない。
それを見越しての、銀時の行動なのか。
テーブルの隅に追いやられていたケーキを引き寄せると、二本の指で生クリームだけを掬い上げる。
 
「やっぱ美味いもんは、更に美味くする努力も必要じゃね?」
「え、な、なに、銀ちゃん、そ―――っ!!?」
 
逃げ腰のの言葉を遮るようにして、その身体がびくりと跳ねた。
その反応を面白がるように、銀時はの胸元へと、掬い上げた生クリームを塗りつける。
一度達し過敏になっているの身体は、ただそれだけの行為であっても感じるのか、びくびくと震えている。
 
「やぁっ…銀ちゃ…っ、そんな……だめぇっ…」
 
荒い呼吸の合間に紡がれる嘆願も、今の銀時には更に煽られる要素にしかならない。
胸からお腹へと。たっぷりと生クリームを塗りつけると、ようやく満足して銀時は手を止めた。
ちらりと目をやると、ケーキはもはやそう呼ぶのもどうかと思われる残骸になっていたが、どうせ元から崩れていたのだからいいかと開き直る。
それよりも今は、目の前のである。
甘ったるい香りが鼻腔を擽り、どうしようもなく銀時を誘う。
まさに、据え膳食わぬは何とやら。
 
「そんじゃ、ま、いただくとしますか」
「え、やっ…………ひぁっ!」
 
ぺろりと胸元の生クリームを舐め取ると、途端にの口から嬌声が漏れる。
思ってもみなかった行為に、余計に感じさせられているのか。
生クリームを丹念に舐め取っていくその行為。
いつにない愛撫の仕方が、新たなる快楽を揺さぶり起こす。
胸元から、胸の頂へと。片方を舐め尽せば、もう片方の胸へと。
塗りつけた生クリームを残すまいと、何度も舐め上げ。
仕上げとばかりに、硬くなった胸の先端を吸い上げると、はあられもない声をあげる。
 
「っぁん…ふぁっ……銀ちゃん…おねが……っ、もう…っ」
「イヤイヤ、早いよ、。まだ残ってんだって」
 
その言葉にが泣き出しそうな表情を浮かべたのを、銀時は見逃してはいなかった。
実のところ銀時も、とっくに十分煽られているのだ。
の口から漏れる吐息も嬌声も。ねだるように揺らめく腰も。匂い立つ甘ったるくも淫靡な香りも。
何もかもが銀時を甘く誘い、すぐにでもの中にすべてを吐き出してしまいたい衝動に駆られる。
けれども、この状態でそれは不味いであろうし、何より、今のをもっと味わっていたいというのも正直なところなのだ。
 
「っやぁ……おねがい…はやく……」
「……ハイ。スミマセン。銀サンが悪かったです」
 
が、結局のところは、のねだる言葉には勝てないのだ。
第一、がこうして口にしてねだってくることなど滅多に無いのだから、無条件で頷いてしまいたくなるのも仕方が無い。
の肌の上に残る生クリームをもう一度掬い取り、自分で舐め取ろうとして。
ふと思いつくことがあって、銀時はその指をの目の前へと持ってきた。
 
「じゃ、これ全部舐めたら、のお願い通りにしてやっから」
 
言うや、の返答を待たずに、銀時はうっすらと開いていたその口へ指を差し込んだ。
もこれ以上焦らされたくはないのか、言われるがままに舌を動かす。
ぺろりと。指につけられたクリームを舐めるの舌使いに、その瞬間、銀時の中をぞくりと快感が走った。
指を舐めるという、言ってしまえばただそれだけの行為であるはずなのに。
銀時の手を両手で支えるようにして無心で生クリームを舐めている今のは、まるで皿のミルクを最後まで舐めようとする子猫のようで。
余すところ無く舌を這わせるに、その触れられる先から、次々に生まれる快感。
その快感が、ただでさえ熱い銀時の中心部を更に熱くする。
たまらず、銀時はの口から指を引き抜いた。
 
「銀、ちゃん……」
 
紡がれたのは、ただ一言。それも名前だけ。
それでも今のが何を求めているのか、銀時には手に取るようにわかる。
熱く潤んだ瞳が。伸ばされた腕が。火照った身体が。のすべてが、訴えてきているのだから。
そしてそれは、銀時とて同じこと。
見上げてくるにただ頷いてやると、昂ぶっている自身をの中へと侵入させた。
 
「っん、はぁっ……ぁあっ!」
 
求めていたものがようやく与えられたことで、の口から一段と高い嬌声が上がる。
その柔らかくも熱い内側もまた、手放すまいとするかのように、更に奥へと誘うかのように、銀時自身を甘く締め付けてくる。
腰を動かせば、溢れんばかりの蜜が卑猥な水音を立て、二人の情欲を更に掻き立てる。
ただひたすらに、より大きな快楽を求めて。
 
「……っ!!」
「くっ……」
 
最奥を突かれ、もはや声にならない嬌声と共にの内側が一層きつく締めつける。
それに合わせて銀時もまた、自身の昂ぶりをの中に解き放った。
 
波を引くようにして、徐々に消える快楽。
代わるようにして二人の中に満ちるのは、甘く気だるい充足感―――
 
 
 
 
 
 *  *  *
 
 
 
 
 
どこか心地よい倦怠感。
銀時はその感覚に身を委ねてしまいたい気分だったのだが、そうはいかない。
何せ、がそっぽを向いてしまっているのだ。
脱がされた着物に包まり、銀時の方を見ようともしない。
完全に拗ねている。
 
「今日、私の誕生日なのに…銀ちゃんばっかり……」
 
だって結構楽しんでたじゃん、という台詞は、この状況を悪化させるだけだと流石の銀時にもわかるので、何とか飲み下す。
 
「だからあげたじゃん。俺の身体」
「……誕生日でないとくれないの?」
「そんなわけねェよ。俺の身も心も、いつだってのものだよ」
「だったら誕生日プレゼントじゃないよ、それ」
 
確かにの指摘通りである。
しかしこのままでは、いつまでたってもの機嫌が直りそうにない。
がしがしと頭を掻いて考えてみても、上手い言い訳も機嫌を取る言葉も思いつかず。
伝えられる言葉など、ただ一つ。
 
「……
 
未だそっぽを向いたままのの身体を、後ろから着物ごと抱きすくめる。
ぴくりと肩が跳ねるものの、それでもこちらを向こうとはしない。
けれども今だけは、その方が銀時には好都合。
そのままの耳元に口を寄せ、囁くようにして言葉を紡いだ。
 
 
「      」
 
 
面と向かってはとても言えない、その一言。
恥ずかしさのあまり、顔が火照るのが自分でもわかる。
 
「……絶対こっち見んなよ。チクショー」
 
見られたりしたら、たまったものではない。
はと言えば、こちらもまた耳まで赤くして、コクリと頷いている。
 
不意に、身体に回したその手にの手が重ねられた。
何も口には出さないが、それが先程の銀時の言葉に対するの答えなのだろう。
腕の中の温もりが、たまらなく愛しく感じられる。
 
―――がここにいてくれて、この世に生まれてきてくれて、本当に良かった。
そう、言葉で伝える代わりに、銀時はを抱く腕に力を込めた。



<終>



熱と咳に魘されつつ、後編、なんか頑張ってみました。
……頑張らない方が良かったのかしら、実は。
言い訳も何もありません。逃げます。
と、その前に。
空欄は、各自お好きな言葉で埋めてくださいまし!!(逃