何の因果か呪いだか。 猫の姿になってから全くろくな事がない。 去勢されそうになるわ、唐突に喧嘩を吹っ掛けられるわ、尻のにおいを嗅がれるわ。 その上、自分と同じような目に遭っているのが桂と近藤。バカとゴリラのコンビでは、これで気が滅入らない訳がない。何の役に立つのかわからない上に、まるで自分が二人と同類のように思えてくる。 が。 「どうせだから一緒にお風呂入ろっか、ネコちゃん?」 笑顔で話しかけてくるに、この瞬間ばかりは自身に降りかかった災難に感謝した銀時だった。 ねこねこ狂想曲 呪いで猫にされるというフザけた状況に陥って、じっとなどしていられない。 元に戻る手掛かりを求めて彷徨っている最中、偶然にもに出会ったのだ。 勿論、には目の前の猫が銀時の変わり果てた姿だなどと知る由は無い。けれども猫好きだったのか、散々銀時に構った挙句、「ウチに来る?」と気付けば抱えあげられていたのだ。 このブサイクな猫の一体どこをどう気に入ったのか。わからないが、の腕の中はひたすら心地よかった。 そして今現在も。 「ネコちゃん、いい子だねぇ」 わしゃわしゃと身体を洗われ、温めの湯をかけられて。それだけでも心地好いのだが、それより何より目の前にがいるのだ。素っ裸で。 風呂に入るのだから裸なのは当然だし、相手が猫だと思えば何を恥ずかしがることもないのだろう。 それはわかる。わかるのだが。 銀時にしてみれば目のやり場に困る―――かと言えばそういう訳でもなく、ここぞとばかりにしっかりと拝見させてもらったりしている。 若干の後ろめたさを感じつつも、隠さない方が悪いと責任転嫁はあながち間違いでもない。 大体、不可抗力だ。湯船に浸かったかと思えば、問答無用でぎゅうと抱き締められるのだ。当たり前だが裸の胸に押し付けられるわけで、ここはどんな天国かと思わずにいられない。柔らかい胸の感触は一生忘れられないだろう。 「ネコってお風呂嫌いって聞いたけど、そうじゃない子もいるんだね」 偉い偉いと頭を撫で回され、ご褒美とばかりに鼻の頭にちゅっとキスされれば、今にも舞い上がりたい気分だ。 いっそこのまま一生の飼い猫として生きていくのも悪くないのではないか。そんなことすら考えてしまう。 少なくとも人間の姿の時よりはの近くにいられる。人間に戻ったら、にとっての単なる友人の一人に過ぎなくなるのだ。 濡れた毛をドライヤーで乾かしてくれるのは、寛いだ姿の。風邪をひいたら可哀想と、自分は濡れ髪のままで銀時にドライヤーを当ててくれるのだ。自分こそそのままにしていては風邪をひくだろうに。 それにしてもここまで無防備な姿は初めて見る。それはまぁ確かに、友人相手にこんな姿は見せないだろう。猫であるが故の特権と思えば、ますます人間に戻るのが惜しくなる。 「うわぁ……」 不意にの手が止まり、何かあったかとその顔を見上げる。ぱちくりと目を瞬かせ、驚いたような表情に、何を驚くことがあったかと周囲を見回す。が、特には何も見当たらないし、の視線は間違いなく自分に向けられている。 何事かと首を傾げてみても、何がわかるわけでもない。 「銀ちゃん…」 が口にした名前に、ドキリと心臓が跳ね上がる。 まさかバレたのだろうか。 しかし猫になった銀時の言葉がに通じるはずはなく、そもそも呪いで人間が猫に姿を変えられたなど、誰が信じようか。銀時とて、自身の身に起きたことでなければ鼻で笑ったに違いない。 ふわりと頭を撫でられ、「名前、銀ちゃんってつけてもいいかな」などと問われても、その真意がわからない。 不意に、その顔の高さにまで抱き上げられる。目の前にはの笑顔。はにかんだようなその笑みに見とれたその瞬間。 「あのね。銀ちゃんっていうのはね。ネコちゃんみたいな銀色の髪した人でね……私の、好きな人なの」 猫の目も点になるのだろうかと、そんなどうでもいいことが銀時の脳裏を過る。 聞き間違いでなければ今、はありえないことを口にしたように思う。誰が誰を好きだと言うのか。ありえない。まったくもってありえない。 「内緒だよ?」と恥ずかしそうに言われるが、内緒も何も、悪い冗談でなければ目の前にいるのは銀時本人だ。秘密どころか本人に暴露していることになる。 言えるものならば、好きだと言葉を伝えたい。恋人になってくれと言いたい。一緒に風呂まで入った仲なのだから、いっそのこと押し倒してもいいだろうか。 だが銀時がいくら声をあげたところで「ニャー」としかには伝わらず、押し倒すどころか逆に軽々と抱き上げられるくらいだ。 確かにの腕の中は心地好い。身体を撫でる手も優しく、柔らかな温もりと匂いに、天国にいるかのような錯覚を覚える。 だが折角の告白じみた言葉に何も応えられないもどかしさは、同時に地獄のようだとも思う。 第一、よく考えてみれば。仮に一生このままの姿でいることになったとして、の飼い猫ではいられるかもしれないが、他の男にを奪われる可能性が十二分にあるではないか。 それは困る。目の前で掻っ攫われるのは甚だ面白くない。 「ニャー! ニャー!!」 「どうしたの? お腹空いた?」 牛乳で大丈夫かな、と立ち上がるに「違う!」と叫んでみても、やはり銀時の言葉は伝わらない。 やはりこのままの姿でいるわけにはいかない。何としても早急に元の姿に戻らなければ。そしてと恋人同士にならなければ。 そう新たに決意を固めるのだが。 「あ、サーモンのお刺身あったよ。食べたい?」 「にゃう」 台所から顔を覗かせ問い掛けるに、刺身に釣られて機嫌よく返事をしてしまう銀時。確実に猫化は進んでいくのであった。 <終> 勢いだけで書きあげたもの。にゃんこ好きです。銀さんだってのなら無理でも飼うのに。 タイトルはアレです。昔懐かし漫画のタイトルより。アレは幻想曲でしたが。思いつくのがこれしかなかったです。。。 ('09.09.11 up) |