ねこねこ狂想曲
 
 
 
 
 
元の姿に戻る方法を探して早数日。
のんびり構えていては、身も心も猫と化してしまう。
 
「ほらほら、銀ちゃん。猫じゃらしだよ〜」
「ニャンっ!」
 
何とかならないものかと、猫じゃらしにじゃれつきながらも銀時は思案する。
まるで真剣味のない姿だが、体が勝手に反応してしまうのだから仕方がない。
何を気に入られたのか、に拾われて以来、毎日のように何かしら構われている。
それはいい。
勿論は、拾ってきた小汚ない猫の正体が銀時だなどとは知る由もない。
だが、「何か似てる」という理由だけで「銀ちゃん」と呼ばれ、可愛がられていては、これで居心地が悪い訳がない。
喉を撫でられゴロゴロと喉を鳴らしながら、それでもこのままでは困るのだと銀時は発奮する。
猫のままでは、可愛がられはしても、抱き締めることもできなければキスもできない。
いや、キスは頑張ればできるだろうかと思いかけて、途端にハッと気付く。
呪われた眠り姫も、毒リンゴを食べた白雪姫も、王子のキスで目覚めている。古今東西、呪いを解くのはキスだと相場が決まっているのだ。
思いたったら善は急げ。
なのだが。

(と、届かねェェェ!!)

たとえが座っていても、猫と人間の体格差はどうしようもない。
いくら器用に後ろ足で立ち上がろうとも、それでどこに届く訳でもなく―――胸なら届くだろうかと、ちらりと過った不埒な思考に、グラリと理性がよろめく。風呂に入れられた時に裸の胸に抱き潰されてはいるが、それはそれ、これはこれ、というものだ。目の前に、手の届く場所に胸があったら触りたくなる。それが男というものだ。
無茶な理屈を捏ね、すぐさま銀時は実行に移す。とは言っても、直立したまま前足を伸ばしただけだが。
ふに、と、他に比べて明らかに柔らかな感触に、銀時は感動した。たとえ猫の姿ではあっても、の胸に触れたのだ。もうこれで思い残すことはない―――訳でもないが、それに近い程の感動を得られた訳だ。

「銀ちゃん?」

首を傾げたに名を呼ばれ、銀時は我に返る。
いくら猫の姿でも不審に思われただろうか。
普通は思うかもしれない。胸を触りたがる猫が果たして世の中にいるだろうか。
名を呼ばれた事も相まって、まさかバレたのかと、あり得ないとわかっていつつも銀時は焦りを隠せない。

「すごーい! 立てるんだ、銀ちゃん!」

だが心配は杞憂に過ぎなかったらしい。
不意に顔の高さまで抱き上げられ、感嘆した表情を見せるに、銀時はこっそりと安堵する。
猫が二本足で立ち上がって何の疑問も持たないのかと思わないでもないが、レッサーパンダだとて立ち上がる時代だ、猫が立ち上がっても不思議に思われないのかもしれない。
抱き上げられて褒めそやされれば、やはり悪い気はしない。

「じゃあ、すごい銀ちゃんにご褒美」

ちゅっ

軽やかな音を立てたそれは、一瞬ではあったが。
確かに今、口と口とが触れ合った。要は、キスをされた。しかもから。
未だ猫の姿のままであることからして、呪いを解く鍵にはならなかったようだが、今の銀時にそんなことは関係がなかった。

「ニャっ、ニャ〜っ!!」
「どうしたの、銀ちゃん?」

ちゅうしたのイヤだった? と聞かれるが、そんなことは断じてない。むしろもう一回と言わず何度でもしてほしい程だ。
しかしいくら訴えたところで銀時の言葉はには猫の鳴き声としか聞こえない。いくら手を伸ばしたところでの顔には届かない。
の腕の中で、伝わらない言葉をもどかしく思いながら銀時は一人誓う。
元の姿に戻ったら、問答無用でキスしてしまおう。そして抱き潰してしまうくらいの勢いで抱き締めてやるのだ。

「今日のご飯、鮭の切身でいい?」
「なう」

だがさしあたって今この瞬間くらいは、反対に抱き潰されていてもいいかと思う銀時だった。



<終>



期間限定第二弾。
ぬこかわいいよぬこ。
5日か6日に削除します。予定。仕事の都合で延びるかもですが。


('09.10.02 up)