時々、自分の仕事内容に疑問を持ちたくなる。
たとえば、今この瞬間。

「なんで交通整理……」
「知るか。命令だ」

江戸某所で玉突き事故発生。それに伴う渋滞発生。
命じられたのは、事故処理にプラスして周辺の交通整理。
ああ、バカバカしい。
江戸の平和を守るのが真選組の役目だってのに。攘夷浪士と命のやり取りするのが日常だと思っていたのに。
何が悲しくて交通整理。
そんなもの、その辺の奉行所にでも任せてろってーの。
真剣に転職を考えるべきだろうかと頭を悩ませたところで、無線が入る。
隣で車を運転している副長をちらりと見遣れば、私が出ろと言いたげな視線を寄こしてきたので、面倒だなぁと思いつつも無線マイクを手に取った。

「はーい。こちらちゃんでーす。副長は運転中でーす」
『は!? って副長に運転させてんですか!!?』
「うん。最初は私が運転してたんたけどね。出てすぐの電柱と正面衝突しそうになったら、副長が変わってくれたの」
『ああ。それなら俺でも変わるよ』

どうせ私は運転下手だもん、と可愛い子ぶって言ってみたら、隣で副長がものすごい勢いで睨んできた。
はいはい。無線を私用の会話に使ったりしませんよ。

「で、山崎さん? 何かあったの?」
『ああ、今向かってもらってる先の現場の状況がわかったから、伝えておこうかと』
「車の玉突き事故なんでしょ? 他に何かあるの?」

玉突き事故ってだけでも結構な事故なのに、更に何かあったりしたんだろうか。
そこにテロリストでも絡んでるのならば、楽しい、もとい、やりがいがあるのに。
でも現実はそうそう都合よく進みはしない。そんなことはよくわかってる。

『他って言うか、玉突き事故のそもそもの原因が。落下物によるものらしいんだけど』
「へー。道交法違反で落とし主逮捕だねー」
『落下物がよりによってマヨネーズの詰まった箱らしくてさ。道路に散乱して酷い有様らしいよ。ほら、マヨネーズも油分だから、下手に踏みつけるとスピンするみたいで』
「うわぁ、なんか道路が黄色く染まってそ―――ひゃあっ!!?」
『え?』

話している最中に変な声が上がったのは、いきなり車のスピードが上がったから。
別に車のシートに背中をぶつけたところでそれほど痛くもないのだけれど、前触れも何もなくいきなりだと、それなりに驚く訳で。
何事かと隣を見たら、理由も言わずにマイクを奪い上げられてしまった。

「どこのどいつだそのフザけたヤローは!!?」
『は、え、副長!? 落とし主ですか? はぁ、まぁ多分、生産者と提携してる運送業者じゃないですか?』
「んなワケあるか! テロに決まってるだろ!!」

至急調べろ、と乱暴に通信を切る副長。
態度を急変させた副長よりも、私はその話の中身の方が気になった。
テロ。
単なる交通整理だったり道交法違反だったりするわけじゃなくて、テロ。
そう判断する何かを副長は感じたのだろうか。
瞬間、気が引き締まる。それならやる気無いとか言って呆けてる場合じゃないし、何よりやりがいだってある。
けれども現実はやっぱり無情、ああ無情。

「どうしてテロだと思ったんですか?」
「ああ? マヨネーズを粗末にするなんざ、マヨネーズと俺に対するテロに決まってんだろ!!」

見つけ次第ぶった斬ってやる、なんて剣呑な台詞を吐いて息巻く副長とは逆に、私のテンションは一気に急降下。
そうですか。要するに、単なる道交法違反で斬られるワケですね、憐れな落とし主は。
ああ、バカバカしい。
ほんと、疑問を持ちたくなる。自分の仕事内容もだけど、上司に対しても。
だから。

「すみません。これ終わったら仕事辞めてもいいですか」

ついでに、去り際に、副長の通り道にマヨネーズ散乱させていっていいですか?
踏みつけてすっ転んでしまえ。



本日の教訓:マヨネーズは狂気凶器



<終>



加古川バイパスでマヨネーズ散乱、8台が転倒や衝突
なんてニュースを聞いて、衝動的に書いたものです。衝動以外の何物でもありません。

('10.09.26 up)