もってけ! セーラーふく −What's up?−




性別・女。
遅刻常習犯。
スカート丈は校則違反。
拘りの絶対領域。
特技はフェンスの上に仁王立ち。飛び蹴り。
銀八のことが好きだと言って憚らない。
休日に何故か辞書を持ち歩く。
美術部員。
ムカデ嫌い。泣くほど。
 
特段知りたい訳でもなかったが、気付けばのことについて、同じクラスでも無いのに知っていることが増えていく。
それだけ関わってしまっているのだと、土方は何とはなしに溜息を吐きたくなった。
できることならば、むしろ関わりたくない部類の相手だ。
自分は風紀委員で、相手は遅刻常習犯。ならば関わり合いになるなというのが無理な話であるし、そもそもはその程度の関係でしかなかったはずだ。
いつの間に、これほど関わりができてしまったのだろうと、土方は不思議でならない。
だが一つだけ断言できることはある。
が恋愛対象になる事は、絶対にありえない。と。
そんなことを敢えて断言したくなったのには、訳がある。

「オレと付き合ってくれ!」
「なんで?」
「す…好きだからに決まってるだろ!!」
 
放課後、校舎裏での告白タイム。
校内の見回りをする中で遭遇したことは幾度もあるが、今までと違うのは、男子生徒から告白されている相手がだという点である。
正直なところ、男子生徒の両肩を掴んで揺さぶり、正気に戻れと言ってやりたい。「付き合ってくれ」と言われて照れるならともかく、「なんで?」と真顔で返す女の一体どこがいいと言うつもりなのか。
しかし蓼食う虫も何とやら。他人の好みに口出ししたところで無駄だろう。
普段ならば、こんな場面を見るや、すぐさま踵を返してその場から去るところだ。
それが何故だか、今回ばかりは身体が動かない。まるで足が地面に縫い止められたかのように、校舎の陰から二人の動向を窺う形となってしまう。
立ち聞きなど悪趣味だ。そうわかっていても動こうとしない身体。
確かに、気にはなる。この男子生徒の告白に対し、がどんな反応を見せるのか。それは単なる野次馬根性であって、それ以上でもそれ以下でもない。はずだ。
胸中で誰に対するわけでもない言い訳を繰り返しながら、それでも耳は離れた場所にいる二人の会話を拾おうとしている。
 
「悪いけど、私、他に好きな人がいるから」
「……やっぱり、土方の奴と付き合ってるのか?」
 
の反応は、極々普通だった。あまりにも一般的な反応すぎて、逆ににしてみれば普通じゃないのではと思うほどだ。
それよりも衝撃的だったのは、男子生徒の台詞だ。
―――誰が誰と付き合ってる?
理解を超えた台詞に、思考回路が停止する。もしかしたら理解したくなかったのかもしれない。それは十分にあり得る話だ。
一体何をどう理解したら、自分たちが付き合うという結論になるのか。到底あり得ない。
土方にとっては恋愛対象にはなりえない。そしてにとってもそれは同じことのはずだ。互いに好きな相手は別にいるのだから。の場合は、それが本気なのかどうかはいまいちわからないが、少なくとも本人はそう言い張っている。
とにかく、双方その気はないのだ。
おそらくはも同じ思いだったのだろう。「は?」と間の抜けた声をあげたきり、しばらくの間黙り込んでいたが。
 
「ちょっ、なっ、ありえないっ! それマジありえないからっ!! あははっ!!!」
 
大爆笑だった。
静かな校舎裏どころか、校舎内にまで響き渡るのではと思うほどの、爆笑ぶりだった。
確かにありえない。それには同意する。
だが、何もこんな大音量で爆笑して否定しなくても良いではないか。
まるで微塵も相手にされていないように思えてくる。その事に僅かながら苛立ちを覚えるのは、きっと男としての自尊心の問題なのだろう。別にから好かれたいと思っているわけではないが、ここまで笑われると虚仮にされているようにも感じる。
今だけではなく普段から虚仮にされているような気もするが。
流石にこの大爆笑には引いたのか、告白した勇気ある、というよりも見る目の無い男子生徒も一歩後ずさっている。そのまま回れ右して逃げ出した方が身のためだと思うのだが、そこまではしないようだ。
気が済んだのか大音量の笑い声は止んだが、それでもは腹を抱えてひぃひぃと笑っている。泣くほど可笑しかったのか、目尻を拭う仕草をしながら、それでもどうにか落ち着いてきたらしい。
 
「副委員長はないって、無い無い。私が好きなのは……坂田先生、だもん」
 
フラれちゃったけどね。でも好きなの。
そう口にしたは、どんな表情をしていたのだろうか。
土方のいる場所からでは、その表情まで窺うことはできなかった。けれども、黙り込んだ男子生徒の様子から、何となく想像がつく。
おそらく、本気なのだろう。失恋して、それでもまだ好きなのだと。未練がましくとも、それがの本心なのだろう。
途端、居た堪れなくなって土方は足早にその場を後にした。逃げ出したと言っても過言ではない、音を立てないように、それでもできる限り早足で。
胸の内をもやもやとした感情が支配する。
それが具体的に何を意味するのか、土方にはわからない。
未練がましいとに対して感じたことは、そのまま自分にも跳ね返ってくる。
振られてもまだ想いを捨てきれないと。恋人のいる同級生に、報われる見込みのない恋心を抱いている自身と。どちらも未練がましく、だからこそを見ていると自身の未練がましさまで突きつけられているようで、苛立ってしまう。
けれども、簡単に忘れられる想いならば苦労はしないのだ。
それはきっと、も同じことで。
―――胸の内に燻ぶるものは、何なのか。
 
「……ちっ」
 
判然としない気持ち悪さを吐き出すように舌打ちをしたところで、気が晴れるわけでもない。
もやもやとした気分を抱えたまま、土方は校舎へと戻っていった。



<終>



フラグ立つまでは行ってないですね。
フラグの製造開始した、ってところでしょうか。

('09.11.07 up)