9.ウエイトリフティングの技術概論
9−1.バーを鉛直上方向に持ち上げるための技術及び筋力
ウエイトリフティングという競技はバーを重力に反して頭上に持ち上げる競技である。質量のある物質をある高さまで移動させるためにはエネルギーが必要である。その必要なエネルギーをいかにして人体の運動のなかで作り出すかがウエイトリフティング競技の運動になる。
バーを鉛直上方向に持ち上げる種目にはスナッチとクリーン、ジャークのディップがある。ジャークのディップについてはスナッチとクリーンとバーのある位置が異なるが、バーに対して与えるエネルギーの元は床を加圧したときに生ずる床反力という意味では共通している。バーを高く上げるための直接のエネルギーは床反力である。物体に作用させるとその反発の反作用が生じる。ウエイトリフティングの場合、リフターが床を押さえつけた力の反作用がバーを挙げるエネルギーになる。その床を押さえつける瞬間的なエネルギー量が多ければ多いほど重い重量を床から瞬間的に引き離すことができるのである。

左の写真は、選手がクリーンを行う際のセカンドプルの写真であるが、
バーを挙げるためには、床を押す力の方向と、バーが上がる方向が一致する必要がある。
そのためには、
1.ひざをしっかり伸ばしきり、しっかりと床を踏みつけること。
2.背筋をしっかりしめ、腰から下が前後に移動しないようにすること。
3.1と2の動きで得たエネルギーを効率よくバーに伝える上半身の動きを作り出すこと。この3つの運動を効率よく行う必要がある。
ウエイトリフティングは、床の上にあるバーを挙げる運動である。1〜3の動きを効率よく実現するためには、ファーストプルからセカンドプルと呼ばれる。
下の@〜Bはファーストプルからセカンドプルまでのあいだのものであるが、バーをセカンドプルにもってくるまでには、Aの膝をどのように通過するかが問題
になる。日本の行っているスタイルは2つあり、1つは膝を腕の外に開くフロッグスタイルと、膝を腕の内側に持ってくるレギュラースタイルの2つである。
それぞれのスタイルについては利点、欠点があるがセカンドプルに至までに大きな運動の
@ A B
違いがある。フロッグスタイルでは、膝の角度を開いていくごとにバーが上方向に移動していくが、レギュラースタイルではその運動を行うとバーが膝につかえてしまうことがある。そのため膝の位置をうまくバーが通過するために膝をいったん伸ばす動作が必要になる。膝を伸ばしバーを膝の位置を通過した後、脚の伸展が行えるように、再度膝を曲げる、それがダブルニーベントである。両スタイルともセカンドプルで行う最終的な場面は同一であり、脚を伸展させ、床に対していかに効率よく瞬間的に加圧し、その床反力をうまくバーに伝えるかが技術的に重要なポイントになる。このバーを持ちながら膝をうまく伸展させ、床に瞬間的に加圧させるためには、世界のトップリフターが行っているように、背筋部の緊張をしっかりさせ、骨盤を前傾させながら膝を伸展する必要がある。そのためには、背筋をはじめとする背中の筋肉群とハムストリングスの筋力を付けていく必要がある。床を瞬間的に大きな力で加圧するにはやはり大きな筋肉群で行い、それを太くしていく必要がある。これをウエイトリフティングを開始する段階から将来的に、どの筋肉をどのように太くしていき、階級に適した体型を作り上げていくことを考えなければならない。
ジャークについてはスナッチ、クリーンと動作が異なってくる。ジャークは肩にバーを維持しながら、ディップを行い、そのディップ時に得た床反力をバーに伝えて鉛直方向の力を生じさせるわけである。
C D E
スナッチやクリーンと異なり、からだの姿勢が真っ直ぐ立つことができるから、バーに床反力を伝えることができる。この場合もスナッチ、クリーンのセカンドプルで発揮するための方法とバーの位置関係が異なることから、上半身の使い方に違いが生じるが、下半身の動きに関してはセカンドプルでの動作に非常に似ている。膝を伸ばした状態でセットを行い(写真C)、腰を引きながら膝を曲げる(写真D)。膝を曲げた反動を利用して床に対して圧力を作り出し、その床波力をバーに伝えるわけである(写真E)。スナッチやクリーンと異なり、上半身を安定させられる関係からしっかり床反力を生じさせられる力さえ発揮できれば、バーは床反力によって鉛直方向に力が加わりやすいわけである。
9−2.バーをキャッチするための技術及び筋力
鉛直方向に上がったバーを効率よくキャッチする技術もウエイトリフティングには重要なことである。バーをキャッチする方法はスナッチやクリーンに見られるスクワットスタイルによるものと、ジャークの時に多く見られるスプリットスタイル(写真I)によるものの2タイプがある。両スタイルとも重要なことは、運動をバーの下に体を入れていくこととだけを考えず、バーを下から支えながら押すことも考えなければならない。スナッチでもクリーンでもジャークでも空中に浮いたバーの下に体を入れていくわけであるが、いかに瞬間的にバーの下に体を入れ、そしてそのバーを下から押しながら支えられるような技術が必要になる。そのためには、バーの下に入った動作をしているときに、スクワットで立ち上がる時の筋肉の使いように姿勢を作っていかなければならない。
F G
H I
上の写真F、Gはスナッチの受けの写真だが、写真Fの姿勢でバーの下に入っていく必要がある。写真Gの姿勢で最初からバーが上から落ちてくるのを待っているのではなく、バーの下に素早くFの姿勢で入り、バーを押しながら安定な姿勢がとれる状態にすることが理想である。トップリフターではバーを鉛直方法に引っ張り上げた後、バーの下に入っていく時のバーが下方向に落下する落差がとても少ない。それは、バーを引いた後バーの下に潜り込むといった動作ではなく、バーの下に入りながらバーを押すといった動作をとることによってバーの落差を極力少なくしている。ジャークでも同様で、バーの下に素早く入りながら(写真H)、脚を安定させ、バーを押すという動作をする(写真I)ことによってバーを支えている。
このような動きを修得するためには
1.どの高さでも、支えられるような姿勢と筋力
2.素早くバーの下に入りながら、自分の重心位置で安定できるようなスクワットスタイルを維持すること。
以上の2点が重要になってくる。この2点をしっかり行うためには
@.背筋部を緊張させたまま、脚の開脚を素早くし、バーを支える土台である下半身の姿 勢を作り上げること。
A.バーの位置を素早くコントロールするために、肘をできるだけ早くバーの下に入れる こと。
の2点が重要になってくる。
この2点の動作に関しては、スナッチ、クリーン、ジャークとも共通である。クリーンについてはバーを肘の下に素早く入れながら肩の上に素早く安定させることによってバーを維持している。
9−3.トップリフターになるための素養
日本を代表とするトップリフターは常に「世界と戦い勝つんだ」ことを意識する必要がある。そのためには、
1.自分自身のことを理解すること
2.自分自身の必要なことが何であるかを探求する気持ちを持つこと
3.世界に通用する選手になるためのトレーニングを行うこと
が大切になってくる。
1.自分自身のことを理解することについては
@ 世界で戦うための自分の適正階級について
A 現在行っているトレーニング内容とその意味についての理解
B 自分の行っている生活、行動を客観的に判断・分析すること
C 自分の試合について分析すること
D 自分の位置(立場)を理解すること
E 自分の目標を明確にすること
その他、自分自身について様々な分析を行う必要がある。自分自身のことについて他との比較・分析を常に行う意識を持つことによって、客観的に自分が何が足らないか、何が必要かを求める気持ちが生じ、自分が求めることを実現するためにどのようなプランニングが必要かを考える気持ちが生じてくる。
@については、自分自身の身長・体型から世界に通用する体づくりについて考えるために最低限必要な項目になる。このことを理解することによって、睡眠・栄養・休養・からだの手入れなどに配慮するための知識をえる第一歩になる。
Aについては、トレーニング内容を理解せずにトレーニングを実施している選手はほとんどいないはずだが、明確に自分自身でその答えを出すことができる選手がどの程度いるかどうかが問題になってくる。「何のためにやっている」かを方法・量とも考えて行動すること大切になってくる。指導者が考えるだけでは選手は納得してトレーニングを行うはずはなく、選手自身もその意味を理解することによって練習の質を変えることができるはずである。
Bについはウエイトリフティングの試合や練習など自分自身の性格や行動が影響を与えていることも考えられる。自分自身の性格や行動をしっかり理解し、指導者・選手が共通した意識を持つ上でも指導者も選手もその分析はすべきである。
CについてはBにも関係することだが、選手によって試合展開に特徴が見られる。それは選手や指導者の考え方に影響を受けることが多い。試合(競技会)では明確な目標を持ちそれに向かって努力すべきである。どの試合も同じ試合展開では何も考えずに競技を行っている証拠である。
Dについては、自分自身の年齢や記録によって世界に対して(日本のトップに対して)どの位置にあるかをしっかり把握し、ある一定期間後の目標値を設定する意味でも重要な点になる。
Eについては短期的な目標、長期的な目標を持つという意味である。目標を立て、その目標を達成するためのトレーニング計画を立て実行する。そうして、その結果に対して自分自身が行ったトレーニング計画、実行の仕方を分析し、次の目標に対しての反省点にすることが大切になってくる。
2.自分自身の必要なことが何であるかを探求する気持ちを持つこと
選手は指導者に与えられたことをしっかりおこなっていれば良いということは間違いである。選手自身も指導者と同じくらい、トレーニングについて研究したりや、栄養・休息などの体づくりについて意識したり、一人の人間としての社会的モラルをもつことなど日々努力する必要がある。
試合に出るためには、試合の申込みや会場までの移動や宿泊の手配などの事務的なことや、検量、アップや試合などに関しての時間を調べたりすることや試合方法などのことなどさまざまなことを行う必要があるが、一つ一つのことについて誰かが携わっていないと満足な結果が得られないことをわかって行動する必要がある。リフターとして、さまざまな役割があることを理解した上で、自分自身の役割をしっかり果たすことが大切になってくる。リフターとして自分の役割を果たすためには、自分自身のやるべきとが何であるか、自分自身の足りないことが何であるかなどを探求する気持ちを持つことが重要になってくる。国際舞台で戦うトップリフターになるまでに、一人の指導者としてのある程度活躍ができる知識と行動力を兼ね備える必要がある。日本で試合を行うことと、世界の色々な場所で試合を行うこととは意味が異なる。
世界で戦うには
@.世界各地の生活習慣や食習慣の違いを理解し、それに対して適応できる心と体を作る こと。
A.言葉に対しても積極的に勉強し、国際舞台での標準語としての英語力をしっかり身に つける努力をすること。
以上の2つは最低限努力する姿勢を持たなければならない。
3.世界に通用する選手になるためのトレーニングを行うこと
ウエイトリフティング競技はスナッチ3回、クリーン&ジャーク3回の計6回の試技を実施することができる。この6回の試技が全て成功できれば、自分の目的通りの試合が行えたことになる。誰もが自分自身の目標とする記録と順位を考えてスタート重量を設定していく。その試技が成功できれば自分が設定したスタート重量から2回目、3回目と重量が2.5kg以上増加させていくわけである。試技には失敗がつきものであるが、失敗を行わないようにするには、いかに自分の挑戦する重量に対して自信を持って行えるかどうかである。その自信は自分自身で考えて実行していった技術とその技術が行えるパワー作り出すこととその技術を作り出すコンディショニング整えることを日々のトレーニングによって作りだすことによって裏付けられる。
そのためリフターは
@.世界に通用するための技術の習得に対して妥協せずトレーニングに取り組むこと。
A.世界に通用するパワーを得るために妥協せずトレーニングに取り組むこと。
B.試合時に自分の力が充分発揮できるようにコンディショニングを整えること。
行う必要がある。